サントリーの愛鳥活動

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コウノトリが舞う 人と自然が共生する地域をめざして @千葉県・野田市

兵庫県豊岡市ではじまった
コウノトリの野生復帰計画。
いま、大きなうねりとなって
日本各地に広がりはじめています。

その1つ、千葉県野田市では、
人と自然が共生する地域づくりの
取り組みが進められ、シンボルとして
コウノトリの野生復帰が進められています。

2019年7月3日、その野田市で
5回目となる放鳥が行われると聞き、
現場を訪ねました。

今回の舞台である千葉県野田市江川地区にある
野田市「こうのとりの里」。

これまで9羽が大空に、
そして新たに2羽が。


放鳥が行われる千葉県野田市「こうのとりの里」を運営しているのは、野田市が設立した「コウノトリと共生する地域づくり推進協議会」。

市が中心となって進めている事業ですが、税金はいっさい使わないのが特徴で、GPS発信機による調査費用、飼育費用や人件費を含む施設管理、普及啓発のパンフレットの制作費などに、サントリー世界愛鳥基金からの助成や、その他、一般の方からの寄付などが役立てられているそうです。

この場所での放鳥は、今回で5回目。2015年の試験放鳥以来、毎年続けられ、これまで9羽が大空を羽ばたいています。

そして、今回、新たにオスとメスの2羽の若鳥が飛び立ちます。令和初ということで、メスに令(レイ)、オスに和(カズ)と名づけられました。

放鳥は一般公開され、大空に飛び立つ瞬間を見ようとたくさんの市民と報道陣が訪れていました。
放鳥される2羽。右:令(レイ)、左:和(カズ)

午前10時、ついにケージの屋根が開けられ、大空に飛び立つ瞬間がやってきました。
ところがコウノトリはいっこうにケージから出る気配がありません。じつは、こういう状況は良くあることなんだそうで、あくまでもコウノトリのペースを大切にという配慮です。

そのとき、ちょっとしたハプニングが起きました。一羽のコウノトリが上空に姿を見せたのです。おそらく2016年に放鳥したオスのきずな だとのこと。
放鳥のただならぬ様子を感知したのかわかりませんが、コウノトリは、とんでもない能力を持っていることを目の当たりにした出来事でした。

コウノトリは人と自然との
共生のシンボル


コウノトリがいっこうに飛び立とうとしないので、ひとまず事務室の中で、長くこの活動に取り組んでこられた野田市職員の宇田川さんとこうのとりの里を管理されている野田自然共生ファームの木全さんに取り組みについていろいろお話を伺うことにしました。

「コウノトリはあくまでもシンボルなんですよね」。

宇田川さんはこう言います。生態系ピラミッドの頂点に立つコウノトリもすめる環境は、人も安心して暮らせる環境という考えのもと、コウノトリの野生復帰はその一環として行っているのだそうです。

最終目標は、自然と共生する地域の実現であり、コウノトリが暮らす豊かな自然環境と経済や社会との調和による「持続可能な地域」を目指しているとのことでした。

この目標を達成するためには、放鳥したコウノトリがこの野田市で暮らしはじめなければなりません。そのためには生きものが豊かな水田を蘇らせる必要があり、野田市江川地区の荒れ地と化した水田をたいへんな努力で復田したのです。

コウノトリがきっかけで、市民の自然と共生する地域づくりへの関心や理解が高まってきていることを実感すると語る、野田市職員の宇田川さん(左)と野田自然共生ファームの木全さん(右)。
市民が参加して農業に取り組む市民農園。放棄された水田跡を復活させたとは思えない、素晴らしい水田が広がっています。今ではたくさんの生きものが暮らす豊かな水田です。

さらに野田市内全域でもコウノトリが暮らせる環境づくりが進められていて、減農薬や玄米黒酢農法による環境にやさしい米づくり、家庭や街路樹の剪定枝や落ち葉を堆肥化して農家に提供する事業など、市内に生きものがあふれる自然豊かな環境を創出する努力が行われています。
その結果はすぐにあらわれ、メダカやカエルなど、たくさんの生きものが戻ってきたそうです。

野田市生まれのコウノトリが
彼女をつれて里帰り


「わー! 飛んだあ~」。

事務所でお話を聞いているとき、突然外から歓声が聞こえてきました。急いで外に出てみると1羽のコウノトリが飛んでいます。
12時13分、ついにオスのカズがケージを飛び出し、大空を舞ったのです。

狭いケージの中で育ったので、どのくらい飛べるのかと思っていましたが、力強くはばたいて大空を飛んでいる姿は、さすがはコウノトリ。生きものの潜在能力のすごさを目の当たりにした感じがします。

ケージ内に留まっていたメスのレイもその日の夕方、午後5時44分に飛びたち、2羽とも野田の空を舞いはじめました。

それから28日後の7月31日に思いがけないことが起こりました。
2017年に野田市で放鳥したヤマトが、こうのとりの里に里帰りをしたのです。しかも、2018年に徳島県で生まれたメスの歌をつれて。

初めて野田の空を舞うオスのカズ。江川地区の水田を確かめるように大きく一周してから、地上に降りました。
2019年7月31日に、彼女をつれて里帰りしたヤマト。
レイとカズも加わり、仲良くエサを探しています。(写真:野田市)

野田市で放鳥した鳥以外の個体をつれて当地にコウノトリが訪れたのはこれが初めての出来事です。この野田市の水田が、コウノトリが暮らせる場所としてだんだんと認められつつあるのかも知れません。
そして、近い将来、子育てがこの場所ではじまることを期待せずにはいられません。

コウノトリ野生復帰の要である
多摩動物公園


野田市で飼育されているコウノトリは、東京の多摩動物公園で飼育されていたつがいを譲り受けたものです。

多摩動物公園は、コウノトリの保護増殖に力を入れ、1988年に日本で初めて繁殖に成功、それ以来、現在まで毎年、ヒナが誕生し続けています。
現在進められているコウノトリ野生復帰の鳥は、多摩動物公園出身か、兵庫県立コウノトリの郷公園出身のいずれかの子孫が大半を占め、両施設は生息域外保全の両輪としてなくてはならない存在です。

また、IPPM-OWSの構成メンバーでもあり、遺伝的な多様性に配慮した個体群がストックされる大規模な施設として多摩動物公園が重要な役割を担っている部分もあります。

サントリー天然水の森フォーラムでIPPM-OWSの活動を紹介する多摩動物公園の中島亜美さん。30数年間で培われてきた高い飼育技術を次の世代に伝えていかなくてはいけないと語ります。
このような大規模施設は動物園ならではのもの。野生復帰のための個体をストックする役割はもちろん、来園者に絶滅危惧種の保全を普及啓発する役割も担っています。(写真:多摩動物公園)

取材を終えて


コウノトリは様々な団体、
人々の取り組みと努力によって
確実に増えています。

こうした活動が更に注目され、
コウノトリが普通に暮らせる
自然を
取り戻すための活動を、
今後も応援していきたいと
改めて思った取材となりました。

大空を悠々と羽ばたくコウノトリが、
全国の空で見られる日を信じて。

撮影地:兵庫県豊岡市
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