SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2017年3月24日

#527 青木 佑輔 『なぜなのかが具体的に分からなければ強みになっていかない』

全勝2冠のサンゴリアスにとって大きな武器となったスクラム。その中心にいたのが青木佑輔選手でした。2016-2017シーズン、そしてこれからのスクラム、モール、キックオフについて詳しく訊きました。(取材日:2017年2月15日)

◆スクラムのスタイルはできた

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—— 色々な選手から、2016-2017シーズンの結果は青木選手の存在が大きかったという声が挙がっていますが、自分としてはどうでしたか?

一生懸命やるだけでした。春から取り組んできたスクラムやモールには手応えを感じていましたが、シーズン中、モールはあまり成果を出せていなかったかなと思います。あと、開幕戦の近鉄戦がターニングポイントだったと思いますね。あの試合に負けていたら、ヤマハに勝っていたとしても、優勝できないという状況になっていたと思うので、そうなるとモチベーションは違っていたと思いますし、開幕戦で勝てたことは本当に良かったと思います。

—— 開幕戦で勝てた要因は?

ニシ(西川)のおかげじゃないですか(笑)。あの片手でキャッチしてトライをしたプレーは凄かったですよね。全体としてはそれぞれの試合について、どこが良かったと考えるよりも、シーズンを通して練習で準備をして、試合で成長するという感覚がありました。特にスクラムに関してはそうでした。

僕らのスタイルはあまり変わりませんが、相手の分析を試合の1週間前からして、分析に合わせて練習で組んで準備をします。しかし、実際に試合で組んだ時には分析通りにはならない場面もありました。その中で、相手が分析以上のことをやって来たとしても、それを上回るスクラムを組むことが出来て、試合を有利に進めることが出来たので、そこは成長した部分だと思います。毎試合それを感じることが出来たので、1試合1試合成長している感じがしましたね。

—— そのポイントは“考える”ということでしょうか?

いっぱいあると思うんですが、ただ考えるだけでもダメだったと思います。みんなが同じ絵を見て、一緒に向かっていく仲間たちが、良いシステムの下、考えながら取り組まなければ勝てないと思います。それに、やっていく中でみんなが同じ意見になっていくんですが、たまに違う意見が出てくることによって、その意見について考え、その方法を試してみるという時間を春から持つことが出来たので、それを繰り返すことで成長していったと思います。

ここ数年はずっとスクラムが弱いと言われていて、春シーズンのスピリッツ・オブ・サンゴリアスのインタビューで「サントリーのスクラムの形を作らなければいけない」という話をしましたが、2016-2017シーズンである程度はサントリーのスタイルは出来たと思います。

逆にシーズン終盤になって、サントリーのスクラムが認められたのか、どのチームも同じスタイルで組もうとしていました。それは、サントリーに対して「押してやろう」という組み方ではなくて、どのチームも「抑えてやろう」という組み方で、それを打開することは出来ませんでしたが、サントリーのスクラムを認めて分析してきたんだなと感じましたね。

—— スクラムを抑えるとは、どういうことですか?

普通は組んだ時にお互いに相手側に推進力を与えて押そうとするんですが、それを最初から低く構えて、押されないように組まれると押すのは凄く難しくなるんです。それに試合を重ねた芝は、めくれやすくなっているので、より押すことが難しい状況でした。

そこが次のシーズンの課題で、そういう組み方をしてきた相手をどう押すかを考えていきたいと思います。ただ、相手がそういう組み方をしてきたので、逆に言えば、僕らは押されることはなかったんです。だからペナルティーを取られることがなくなったので、それはそれで強みになっていたと思います。

ヤマハ発動機のスクラムは、そういう相手でも押していて、その底力は僕らにはまだないということです。2016-2017シーズンでベースが作れたと思うので、そこからどんどん上乗せをしていくことによって、また成長を感じることができると思っています。

◆考える割合は90%くらいがスクラム

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—— メンバーが変わっても同じスクラムが組める秘訣は?

それは春から同じことを、みんなでやって来たからだと思います。今までは同じ絵というものがなくて、漠然と各々の感覚で組んでいた部分がありましたし、春からスクラムについてみんなで話し合うこともありませんでした。

同じ絵を見ると言っても、理想とする形の写真や姿があるわけではなくて、話していく中で具現化していって、同じ絵を見ていたんです。例えば、家の間取りを図面がない状態で相手に伝えていくことに近くて、「玄関入って左にトイレがあって、右に行ったらリビングで、その左に階段で」という感じで、それを細かいところまで話していくことによって、みんなが描くスクラム像が一緒になっていくんです。

これまではその細かいところまで話せていなくて、「なんか少しずれているな」と感じながらも、自分の感覚を信じてやっていた部分があったと思います。試合中に慎太郎(石原)と話していて、「今は相手がこう来ているから、こうしてみよう」と言った時に、それに対してしっくり来ているからすぐに対応できるんです。

ハタケ(畠山)であれば、ハタケは僕の強みを知っていますし、僕もハタケの強みを知っていて、どういう絵になればハタケの強みを出せるということが分かるんです。例えば、ハタケの位置が少し下がっていれば、「今はあまり良くない位置だから、ちょっとこっちに来て」という会話ができるんです。そこで、ハタケが「なんでこの位置だと良くないんですか?」という会話にはならないんですよ。

—— コミュニケーションを取る意識が変わったんですか?

もともとコミュニケーションは取っていたと思いますが、その中で「細かな部分まで話さなくても、こんな感じで良いか」という思いがあったと思います。練習で組んでいた時に、もし「その組み方は嫌なんですよ」って言われたら、「じゃあ、仕方ないな」と思ってしまい、「一回やってみてよ」という感じにはなっていませんでした。

これまでは練習でやったことがないことをして、試合中に変えてみることを怖がっていたんです。ですが、2016-2017シーズンに関しては、試合中でも違う組み方を試せるくらいにベースが上がっていたので、相手の組み方に対してより効果的な組み方を試すことが出来たり、対応することが出来たと思います。

それが出来るようになったポイントとしては、練習中に敬介さん(沢木監督)から「なぜ押せないんだ?」と言われて、昔だったら「そんな簡単に押せるものじゃない」と思ったり、「すいません」って言ってその場しのぎをしたりしていたんですが、「なぜ押せないんだ?」と言われて、しっかりと考えるようになっていました。質問されると思っているので、無意識のうちに分析しながら見ていて、質問された時に「こうだから押せないと思います」と答えられるようになっていったんです。

練習中からそうなので、試合ではみんなの対応力が凄いんです。ここ数年は常に劣勢だったので、どうすればいいのか分からなくなって、1列目の3人が集まっても「ヒットが良くない」とか、アバウトな話しか出来ていなかったんです。今は試合中に相手のスクラムの組み方を分析して、それに対してどう組むのかを、具体的に話が出来るようになったんです。

—— 考え始めると、どんどん面白くなっていくのでは?

シーズン中もどんどん成長している感覚があって、本当に楽しかったですよ。トップリーグの前半戦では、どの試合も前半は良いスクラムを組めていたんですが、後半にメンバーが変わると押せなくなったりしていたんです。後半戦では試合の前半に打ち続けていたジャブが無駄にならなくなったというか、後半で更に押し切ってくれるようになりました。

それは統一感もあると思いますし、ハーフタイムで各ポジションのリザーブに、例えば僕であれば駿太(中村)に、「相手はこういう傾向がある」と落とし込めていたので、それを実行してくれたんだと思っています。

特にそれを感じることが出来たのが、トップリーグ最終節の神戸製鋼戦でした。僕が退いた後の後半15分頃、自陣ゴール前での相手ボールのスクラムで、相手を押し切ってターンオーバーしたので、凄いことだなと感じました。あのプレーを見て、チームが凄く成長していると思いましたね。

2016-2017シーズンは、サントリーのスクラムの形を作ると考えていたので、他のセットプレーまでは考えが及ばず、セットプレーを考える割合は90%くらいがスクラムでした(笑)。スクラムはベースができて、体が勝手に動くような無意識でできるレベルまできているので、次はキックオフやモールについて腰を据えて考えようと思います。

◆やって良かったと思えるのか、僕ら次第

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—— モールでトライを取る場面はありましたよね

トライを狙って取り切りましたが、確実に取れるというものではなく、たまたまの部分が少なからずあったと思います。あのモールでのトライも、なぜ取れたのかをしっかりと映像で見返して、押せなかったモールと見比べることで、ヒントが見つかるかもしれません。

あとモールが強いチームのプレーをしっかりと見て、なぜ押せるのかを考えたいと思います。モールもスクラムと同じで、しっかりと組めなければ押せないんですよ。掘り下げていくと、最終的にはセットアップが良いからしっかりと組めて押せると思うので、サントリーのモールは、まだセットアップの何かがダメなんだと思います。

—— モールディフェンスについてはどうですか?

ディフェンスはまだまだ弱いですね。誰がどこに入るのかは決まっているんですが、スクラムと一緒で周りを感じながらプレーしなければいけないと思うんです。あとディフェンスについては、アタックで雰囲気が掴めれば、アタック側が嫌なことをディフェンスでやればいいので、繋がってくると思います。

—— キックオフのポイントは何ですか?

キックオフのキャッチについては、ジョー(ウィーラー)がめちゃくちゃ上手いと思います。日本人選手はギリギリで取ろうとする美学みたいなものがあるような気がしていますが、ジョーのプレーを見ると、しっかりとボールを見て、余裕を持ってキャッチしています。

あとジョーはキャッチできるエリアも広いんです。その理由としては、落下地点に早く到着できることと、落下地点に着いてからジャンプまでが凄く速いんです。準備から動作が凄く速いので、結果として余裕があるんだと思います。

だから、次のシーズンで取り組みたいことは、ジョーがしっかりとキャッチをしてくれるので、そこでモールが組めれば、また武器が増えると思っています。ただし、ジョーの後ろに蹴られた時には、ターンオーバーやペナルティーを取られることがあったので、そこはまだまだ改善のポイントがあると思います。

—— 次のシーズンでは、モールとキックオフに注目ですね

そこで強くなりたいですね。2016-2017シーズン中にスポットコーチが来て、スーパーラグビーで通用すると立証されたシステムを教えてもらい取り組んでいたんですが、それでも上手くいかなかったんです。「なぜ僕らでは機能しないのか」ということになると、やはりマインドチェンジであったり、選手1人1人が「どういうモールを組むか」ということを話し合って、同じ絵を具現化していけなければ、成長はないと思います。

先ほど、モールでトライを取ったという話がありましたが、モールでトライを取っても「なぜ取れたのか」がはっきりと分からないんですよ。「なぜ取れたのか、なぜ取れなかったのか」が具体的に分からなければ、強みにはなっていかないと思います。

2016-2017シーズンもモール練習に多くの時間を使ったんですが、それで成果が出せなければ練習が無駄になってしまうと思います。それにモール練習は痛いですし結構辛いので、好き好んでやるような練習ではないんです。そういう練習なので、「やって良かった」と思えるのか、「あれだけ練習したのにダメだったね」で終わっちゃうのかだと、全然違うと思いますし、活かすも殺すも僕ら次第だと思うんです。そのためにも、もっとみんなで考えなければダメだと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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