2016年4月 6日
#478 青木 佑輔 『「サントリーのスクラムはこれだ」と思えるものを作らなければいけない』
ここ2年、怪我と戦ってきた青木佑輔選手も、気がつけばチームで最年長の世代となりました。その世代の中でもいつも黙々とプレーしている青木選手の内に秘めた思い、そしてスクラムに対するプライドが溢れるインタビューとなりました。(取材日:2016年3月28日)
◆いま出来ることをしよう
—— 2015-2016シーズンはどうでしたか?
昨シーズンは遅れてチームに合流して、徐々に調子が上がってきた後、トップリーグ開幕の約1ヶ月前になって、やっとチームにフィットしてきました。プレシーズンリーグから調子が上がってきているとは感じていて、練習試合などにも出場して、そのまま開幕戦では先発で出場しました。ところがそこで怪我をしてしまい、自分としても、とても残念でした。
初めて怪我をした箇所だったんですが、治るまでに2ヶ月くらいかかりました。復帰できたのが順位決定トーナメントの1週間くらい前で、順位決定トーナメント1回戦ではリザーブ、残りの2試合は先発で出場しました。
—— 怪我をしたことで良くなった部分はありますか?
怪我をして最初の1ヶ月はあまり動けなかったので、現状を維持することに必死でした。フィットネスもシーズンの最後に、怪我をする前の状態にやっと戻したという感じだったので、良くなった部分は無かったと思います。2014-2015シーズンも開幕前に怪我をしたので、2年連続でそういう状況になってしまい、精神的に辛かったですね。
—— どうやって自分の心を支えたんですか?
クラブハウスにも来たくないと思うほどだったんですが、他の選手が練習をしている姿を見ると、やっぱりラグビーをしたくなるんです。俊さん(西原俊一/S&Cコーチ)に見てもらってリハビリをしていたんですが、俊さんと一緒にグラウンド以外のところを走りに行ったり、俊さんに気分転換を手伝ってもらったりしていました。
だから、あまり深く落ち込むということはなくて、「いま出来ることをしよう」と思って取り組んでいました。怪我をした時は、「去年に続いてまただ」という気持ちが強かったんですが、すぐに切り替えて、やれることをやろうと思いました。
—— リハビリ中は気持ちに波があったりしませんでしたか?
波があった感じはありません。怪我をした1~2週間後に小学校へ授業をしに行ったんですが、そこで元気をもらうことが出来たのが良かったと思います。
—— 小学校ではどういう授業をしたんですか?
たまに小学校を回って、自分の体験談や夢の実現の仕方などを話させてもらい、その後にラグビーの動きを子どもたちにやってもらったりしているんです。授業としてラグビーをやっているわけではなくて、変則的な鬼ごっこなどをしています。子どもたちが楽しくやっている姿であったり、コミュニケーションを取っている姿などを見ると元気になるんです。
◆今のスクラムには8人のまとまりが必要
—— ここ3シーズンはチームがタイトルを取れていませんが、チームの中にいて、どうチームを見ていましたか?
特に2年前はスクラムが良くなくてやられてしまっていて、その反省から昨シーズンではスクラムに力を入れてトレーニングをしていたんですが、結果としてラグビーには現れてはいなくて、スクラムの練習が増えただけになってしまっていたと思います。
スクラムは単純そうに見えて凄く奥が深いんです。お客さんとしたら「あのプロップが強いんでしょ」とか思うことがあるかもしれませんが、そうではなくて、本当に8人で組まなければ勝てないんです。言い方が悪いかもしれないんですが、昨シーズンは8人で組む練習をしていても、バックファイブ(ロック、フランカー、ナンバー8)の押し方を軽視した内容になっていたと思います。
昨シーズンのサントリーのスクラムは、後ろからの押しがめちゃくちゃ弱かったんです。それは相手と組んだ時にも分かって、組み合った時に「負けていない」と感じる時は、じゃんけんで言えば、グーとグーがぶつかり合っている状況なんです。ただ、相手の後ろの押しが強いと、同じグーでも相手に寄り切られてしまうんです。
後ろの選手たちは必死に押してくれてはいたんですが、押し方にもコツがあって、後ろ5人の1人だけが強くてもダメなんです。100%の力で押しているつもりでも、押す場所が違っていたり、ちょっとズレるだけで、力が伝わらなくなってしまうんです。要は、"前の3人を壁にして、後ろの5人がいかに前に力を伝えるか"なんです。だから、そのためには前の3人はしっかりと姿勢を取っていなければいけません。
—— 以前は出来ていたことなんですか?
昔と今とではルールが違うんですが、以前のサントリーはヒットを意識していて、ヒットのスピードで優位な体勢を取っていた部分がありました。今はヒットをする距離が短くなっていて、アドバンテージが取れなくなったんです。そのアドバンテージが無くなったことで、今のスクラムには重みが必要になっていて、だから8人のまとまりが必要なんです。
◆サントリーの文化としての組み方
—— 今シーズンではどう改善していくべきだと思いますか?
僕の考えは、8人が同じ動きが出来なければいけないと思います。8人が同じ押し方をしなければいけなくて、今のスーパーラグビーを見ていても、スクラムでずっと低く我慢しているチームが優位になっていて、大きく動くチームでは勝てなくなっています。みんなが同じ動きをして低く我慢していた方が強いので、8人がどう押すのかという同じイメージを持って、スクラムを組むことが大切だと思います。
—— 試合ではいつも同じメンバーでスクラムを組むわけではないですよね
だから、サントリーの文化として、「サントリーの組み方はこうだ」というものを作らなければいけないんです。その文化がなければ、人が変わって1人が違う動きをした時に、またバランスが崩れてしまって、バタバタと動いてしまうんです。
本当にスクラムって奥が深いんですよ。そして、本当に細かいんです。その細かい部分を言語化して紙に書いて残すことが出来れば、新しく入った人でもすぐにサントリーのスクラムを体得しやすいと思っています。今の段階では、フォワードに「サントリーのスクラムはどんなスクラムですか?」と聞いて、紙などに書かせたとしたら、みんなバラバラのことを書くと思います。
ただ、そのためには基礎が必要になります。8人で組むためには1人で組めなければいけませんし、それぞれのベースが上がって8人で組んだ時に初めて強くなるんです。ベースが低い8人が集まっても、それなりのスクラムしか組めないので、今はしっかりとみんなでベースを上げていって、ユニットになった時に力が発揮出来るようにするためのトレーニングをしています。
僕が考えているのは、スクラムが良いか悪いかというよりも、"サントリーの文化を作る年"に出来ればいいなと思います。「僕らがこれで行くんだ」と決めて取り組んでいたのに、シーズン終盤で「やっぱりこの組み方はダメだった」と言って変えるようなスクラムではダメだと思います。例え1本のスクラムで押されたとしてもそこで逃げるのではなくて、2年後、3年後も「サントリーのスクラムはこれだ」と思えるものを作らなければいけないと思います。
—— スクラムでサントリーの文化を作る自信の程は?
作らなければダメだと思います。ただ、僕1人で作るものではなくて、コーチや選手がいる中で、選手から出た意見をコーチに伝えていくことも僕の仕事だと思うので、コーチとも上手くコミュニケーションを取ってやっていければと持っています。ファンの人たちも「サンゴリアスは何年スクラムでやられているんだ。反省しろ」と思っていると思いますよ(笑)。
◆どうやってセットするか
—— スクラムに限らず、数年前はフィットネスの部分でも他のチームと比べてアドバンテージがあったと思いますが、今はそれがありませんね
どのチームもフィットネスを鍛えていますし、特にS&C(ストレングス&コンディショニング)の部分には力を入れてトレーニングしていて、体が大きくなっているチームが多いと思います。アドバンテージがあった頃は体脂肪も制限される代わりに、どのチームよりも走れる状態だったんですが、相手の体が大きくなったことで、ブレイクダウンなどで支配されてしまったり、スクラムでプレッシャーをかけられて良いアタックに繋げられなかったりしていたと思います。
—— 自分自身に対する期待度は?
まずは自分がやるべきことをやらなければいけなくて、コーチと選手とコミュニケーションを取って、サントリーの文化になるようなスクラムを作らなければいけないと思います。ベースがしっかりとあり、自分たちのスタイルがあった上で、たくさんスクラムを組むことが出来れば良いことだと思います。
ただその場だけで「今日は押した、今日は押せなかった」とか、自分たちのやるべきことが出来たのか出来なかったのかという反省に繋がらないようなスクラムを組んでいたのでは、成長には繋がらないと思います。
—— そのためにはどういうチェックをしていくんですか?
ビデオなどで見なければ、「なぜあのスクラムでは落ちたのか」とかが分かりません。ビデオで見て振り返ることで、「自分たちがやってきたことが出来なかったからダメだった」とかが分かると思います。
スクラムはセットアップして、クラウチ、バインド、セットと続いて、ボールを入れて押し合いが始まるんですが、セットの瞬間でほぼ勝負が決まると思います。だから、セットのところで勝負が決まるということは、バインドでいかに良い姿勢を取らなければいけないかということになって、そうなると最初のクラウチまでの姿勢を良くしなければいけなくて、その姿勢が良くなければ、スクラムで負けてしまうんです。そこで僕らの「どうやってセットするのか」というスタイルが大切になるんです。
◆これ以上スクラムでやられるのは悔しい
—— 選手によって体の大きさや特徴などが違う中で、誰が入っても同じにするということは、どうすれば上手く出来るんですか?
スタイルを決めることで、誰も言い訳が出来なくなると思います。やるべきことをやっていてスクラムが良くなければ、1つ1つのパーツで何がいけなかったのを振り返ることが出来て、細かな部分を改善していけるようになると思います。逆に言えば、そのスタイルがあれば良かったスクラムについても、なぜ良かったのかが分かるんです。
ヤマハのスクラムを見ると、誰が入っても同じような組み方をしていて、「ヤマハの組み方」は独特なんです。他のチームの選手と話をしていても「ヤマハの組み方」という表現を使っているので、ヤマハにはスタイルがあるということだと思います。
ヤマハだけじゃなくて、東芝には東芝の組み方があります。やっぱり相手によって組み方を変えるスクラムは強くないと思います。だから春からしっかりとベースを作って、「サントリーの組み方」を作らなければいけないんです。
以前のスクラムと比べてヒットの距離が短くなったんですが、そこが大切だと思います。短くなったとは言え相手と10cmくらいあるので、その10cmをいかにモノにするかということと、モノにした後の強さが大切です。そして、例えその10cmを取られたとしても一糸乱れぬ強さを身につけなければいけないと思います。誰か1人に強いプレッシャーを与えられたとしても、周りにサポートされているような感覚がなければいけなくて、10cmをモノに出来ればそのまま勢いに乗って行けますし、10cmを取られたとしてもバランスが崩れないスクラムが組めれば強いと思います。
—— 今シーズンのターゲットは?
もちろん開幕戦からずっと2番を着て試合に出たいですけど、スクラムの文化を作りたいという気持ちが強いですね。もうこれ以上スクラムでやられるのは悔しいじゃないですか。
昨シーズン、スクラムで押されている試合を外から見ていて、「僕だったらこうやって組むのに」とか「ハタケ(畠山)をこうやって組ませた方が絶対に強いのに」と思うことがありました。ここ2年くらいは、ある程度のベースはあってもスタイルがなく、悪く言えば、それぞれが勝手な組み方をしていたからこそ、そういうことを感じていたと思うので、今シーズンはそう感じることが無くなると思います。
—— そのスタイルを作り上げるためには、ある程度の時間が必要ですね
そうですが、ある程度のベースはあってゼロではないので、今はベースを上げることが大切だと思います。どんなに良いシステムがあっても、1人1人が機能しなければ意味がないですからね。スクラムでサントリーのスタイルが築ければ、勝敗や順位は自ずとついてくると思うので、今シーズンのスクラムには注目してもらいたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]