2013年2月27日
#318 元 申騎 『前年対比110%。それに対して成果が出るか?』
選手会長としてチームを1年間まとめてきた元申騎選手。チーム最年長として、その存在感は際立っています。目標の2冠獲得に向けて、日本選手権決勝戦の5日前に話を聞きました。(取材日:2013年2月19日)
◆試合に出るタイミングによって、変えています
—— 今シーズンも残り1試合で終わりですが、今の心境は?
今シーズンで言えば1年間、トータルで言えば13年間やってきたことを、最後の1試合で発揮出来ればいいと思っています。そして、それが直接チームの勝利に繋がれば、とても良い結果になると思います。
—— シーズン終盤に来て、調子は上がってきていますか?
シーズンのどの時期に照準を合わせるべきかと考えると、この日本選手権にピークを持って来なければいけないと思います。トップリーグのリーグ戦も大事なんですが、それはある意味通過点ですし、チームの状況が良くなれば良くなるほど、日本選手権というタイトルが見えてきます。チームの目標として2冠を掲げているので、ファイナルに照準を合わせなければいけないと思います。
調子が良い悪いよりも、コンスタントに良いプレーをしなければいけませんし、ベテランなのにプレーに波があったら試合に使われる意味がなくて、波があるベテランを使うのであれば、新人選手を使った方がチームにとっても良いということになりますね。
日本選手権準決勝は状況が変わりました。普段は後半残り20分、10分、5分、いつ試合に出るか分からない状況の中での時間の過ごし方と、前半10分過ぎから試合に出ることでのパフォーマンスの見せ方に、違いはあると思います。そこで調子が良く見えたとしたら、試合に出るタイミングによって、心構えを変えていたからかもしれません。後半の途中から出場する時は、ビッグプレーは必要なくなってくるので、試合に出場する時間によって、プレーも変えています。
◆試合の中での緩急
—— 今シーズン前のインタビューで、ジョージ・スミス選手から何か1つでも盗みたいと言っていましたが、それは出来ましたか?
盗めているというか、考え方としてはモノに出来ていると思います。具体的に言うと、「試合の流れを読む」というところです。ボールキャリーなど個人のスキルに関しては、ジョージのプレーを見て感じ取れる部分はあるんですが、僕に足りなかったところは、試合の流れを見てからのリアクションスピードやポジショニングだったので、ジョージを見て凄く勉強になりました。試合を見ていて、「なぜここにジョージがいるんだろう」と思うことがあるんですが、常に状況を考えて早めに動いているんです。そこが凄く勉強になりました。
ポイントは試合の中での緩急だと思うんです。全てを全力でプレーしていて、あのポジショニングが出来て、凄く体力があると思われるかもしれませんが、いくら鍛えても80分やり続けるのは人間であれば無理です。ジョージはそこの緩急の見極めが、凄く上手いんだと思います。このプレーには人が足りている思えば、次のプレーのために動いていますよ。細かいところに関しては、ジョージの話を聞いていると、「やっぱりそう考えているのか」と分かります。
—— 具体的にはどういう話でそう思うんですか?
それは自分で得たものなので、喋りませんよ(笑)。後輩には教えようと思いますが、まずは自分が出来なければ教えられません。それと、1とか2という基本的なプレーが出来ていない人間に、3や4のことを教えてもしょうがないですよね。
—— シーズン前には若手選手の精神的な育成も課題としていましたが、その部分についてはどうですか?
やっぱり聞いてくる選手は限られますね。聞いてくる選手は、自分がどうなりたいのかが明確になっていますが、たまに自分がどうなりたいのかということに興味がない選手がいたりするので、それは残念だと思います。上手く表現出来ませんが、綺麗にラグビーをしようとしているというか、友達とラグビーをやっているような感覚があるのかもしれません。
ある意味、僕自身がラグビーに対して変態で、トゲトゲしていたのかもしれませんが、何か掴みたいものがあるとすれば、同じポジションの選手とはプライベートでも口を利かなかったですよ。そこまで追い込まなければ掴めなかったという若い自分がいたのかもしれません。この年齢になって、いろいろな経験もあるので話も出来ますが、当時は若かったので、少しでも上手くなりたいと思ったら違う選手に聞いたり、同じポジションの選手とは口を利かないということがありましたね(笑)。
—— 今の若手選手に厳しく言うこともありますか?
その部分は僕が言って出来ることでもないので、持って生まれたものなんだと思います。僕が新人の時は、チームの練習が休みの日でもコソッと練習をしていましたが、そういう選手が何人かチームにいればいいんだと思います。とにかく他の選手に負けたくなかったという思いがありました。
◆担任の先生みたい
—— 今シーズンはここまでチームが無敗ということで、選手会長としても役目を果たしたと思いますか?
グラウンド以外で言えば、担任の先生みたいなもので、風紀が乱れれば正さなければいけませんし、誰かが元気ないと思えば気に掛けてあげなければいけないと思います。それだけ激しいトレーニングをしていますし、それだけ自分の時間もなくなっているわけなので、落ち込む選手も出てくると思うんです。元気な選手もいますが、そういうバランスを見て、規律に反している選手がいれば正さなければいけないですし、大事な時期が近づいてきた時には、他の選手のロッカーをチェックして、「ロッカーを綺麗にしろ」という話もします。学校で悪いことをしないように目を見張っている担任の先生みたいな感じです(笑)。
—— 若手選手で頑張っていると感じる選手はいますか?
SOSメンバーだと思います。西川は状況が変わって、そこから頑張ろうという気持ちが芽生えて、変わったので良かったと思います。村田は淡々とやっていたので、彼は凄いと感じます。日本選手権準決勝のパナソニック戦でも、SOSメンバーの2人がトライをしているので、若手の新しい時代が到来する前兆のような試合だったと思います。
◆選手会長は若い選手で
—— 来年も選手会長ですか?
もう35歳ですし、良い時もあれば悪い時もあり、身体が辛くなる時もあれば良くなる時もあって、歳を取ると、味が出てくるところもありますが、身体が言うことを聞かなくなるところも出てきます。そこを何とか踏ん張って、1年1年やっているので、こればかりは分かりませんね(笑)。
選手会長は、なるべく若い選手で、1年毎に変わるのではなく、長期でやってもらえる形にしたいと思います。おじさんが「ああでもない、こうでもない」と言うよりは、リーダーシップの取れる若い選手がいれば、どんどんやってもらいたいと思います。
—— 長くやればやるほど、やり方が分かって良くなっていくということですか?
若い選手がやるということは、自分のプレーもしっかりしなければいけないですし、例えば社員選手であれば仕事もしっかりしなければいけません。そして選手会長として、グラウンド外のところもしっかりしなければいけません。歳を取った選手であれば、仕事のやり方も練習のやり方も経験を積んでいるので、チームを上手く動かせると思いますが、若い選手が選手会長をやるのであれば、仕事も練習もやらなければいけない中で、そのリズムを掴むのが1年では難しいので、長期でやっていければいいと思います。
—— サンゴリアスはコーチングスタッフが凄く元気だと感じますが、それは選手から見てなぜだと思いますか?
やっぱり虎の穴の番人が元気なければ、良いタイガーマスクが出てこないのと一緒で(笑)、スタッフが元気なければ、そこから強い選手は出てこないですよね。
—— 選手も元気ですよね
オンオフの切り替えもあると思いますが、ハードトレーニングをした後に、しっかりとリカバリーが出来ているんだと思います。例えば10時間ある中でダラダラとリカバリーをするよりも、5時間という限られた時間の中でしっかりとしたリカバリーをした方が良い結果を生むと思います。10時間休むことで超回復をするかもしれませんが、シーズンをタフに戦っていく限られた時間の中で、どうやってピークを持って行くかということが永遠の課題なので、それを若いうちから体に叩きこんで覚えていかないと、誰かが怪我をした時に、その代りとなってタフに戦える選手は出てこないですよ。
◆トライを取りたい
—— 13年間サンゴリアスで戦ってきて、今のチームが一番強いと思いますか?
強いと思います。昨シーズンを超えるということで「HUNGRY」というスローガンの下、今のチームで戦っていますが、余裕で昨シーズンのチームは超えられると思いますよ(笑)。それだけのことをやってきましたし、あとは日本選手権決勝で発揮するだけです。
これだけのことをやってきたという裏付けがあれば、迷うこともないですし、今のチームには立ち返る所もあるので、あとは腹を括って、出し切るだけですよ。受験勉強と一緒で、焦って3日間だけ必死で勉強するのか、前もって日々予習復習をやって試験に臨むかでは、1週間前の勉強の仕方も変わってきますよね。
選手みんながそういう思いでトレーニングが出来るというのは、リーダーの役割もありますし、スタッフのマネジメントの部分が大きいと思います。スタッフが作るカリキュラムをしっかりと受けて、そのカリキュラムをクリアしていくために日々努力してきて、その結果が最後に出せるかということだと思います。
—— 決勝戦に向けて、自分の中でのターゲットは何ですか?
トライを取りたいですね(笑)。
—— 昨シーズンのチームを超えて2冠を獲得したら、また次の目標が必要になると思いますが、その目標は自然と出てくるものですか?
昨シーズンはほぼ毎試合、試合前のベンチ周りの準備をしていて、試合が始まったら観客席で試合を見るということが多くて、昨シーズンは2冠獲得の瞬間も観客席から見ていました。今シーズンは、もしかしたらグランドで2冠の瞬間を味わえる立場にいて、それは今シーズン頑張った成果で、それを自信にして、2冠を取る瞬間まで一生懸命頑張りたいと思います。
—— 更に先の目標はありますか?
出てくると思います。仕事の営業と同じで、前年を超えるためには、何をしなければいけないかということです。前年比100%ではダメで、予算比200%でも前年比100%であれば、予算が落ちただけ、チームで言えばレベルが下がっただけになってしまいます。前年対比110%で組んで、それに対して成果が出るのか出ないのかと言うことになると思います。僕はコーチングについては全く分からないので、来シーズンは練習の強度を上げるのか、内容を濃くするのかということは分かりませんけどね。営業としての観点で話させてもらいました。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]