SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2012年6月27日

#284 元 申騎 新選手会長『僕はサントリーに育て上げられた』

新たに選手会長となった元選手。「選手会長になると引退する」状況が何代か続いていますが、果たして元選手はいかに?前監督エディーさんの秘蔵っ子とも呼べる元選手に、これからのラグビー、これからのサンゴリアスについて聞きました。

◆選手会長をやると引退という流れは僕まで(笑)

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—— 新選手会長になりましたが、どう感じていますか?

チームの最年長なので、山岡先輩から引き継いで選手会長になりました。選手会長をやることに対して、特別に何かを言われたことはありませんが、普段から山岡さんと話をしていましたし、エディー・ジョーンズ監督の時からロッカーリーダーを含めて、いろいろなことをやってきました。

その中で、チームが勝つためには、チーム内での組織やルール、規律という部分を重視してきました。新人や新しい選手が入ってきましたので、これからも上手くチームに落とし込み、サンゴリアスのルールや規律をチーム全体に行き渡るようにしていきたいと思います。

選手会長が表に出るというよりは、ロッカーリーダーが中心となって発信していく体制を作りたいと思っています。僕から言っちゃうと、ビビっちゃう選手もいますからね(笑)。

今後の選手会長は、最年長がやるよりは若い選手で人望がある選手がやっていった方が良くて、オジさんがやる仕事ではないと思います。

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—— 選手会長には次の選手会長を決める指名権があるんですか?

あります。良い人材がいればバトンタッチしていきたいとは思っていますが、まずはロッカーリーダーたちのリーダーシップが大事なので、僕から彼らに対しては厳しく言いますが、その他のことについてはあまり口を出さずにしようと思います。

—— 気が付いたらチーム最年長という感じですか?

気付いたら最年長ですね。これだけは言いたいんですが、サンゴリアスで100キャップ以上出場している選手は、ほとんどが日本代表キャップ保持者です。ただ、唯一僕だけが日本代表での出場がないんです。これはある意味、僕はサントリーというチームに育て上げられたということだと思います。いろいろな先輩方に可愛がってもらったから、今があるという意識があります。社員選手であり、最年長選手でもあるので、恩返しをするとしたら若い選手にどんどんバトンタッチが出来る環境を作っていくしかないと思います。

今の試合に出ているメンバーを考えると、22人中13人くらいがプロ選手という状況で、祝勝会や会社の会などで、社員の方から「僕らの代までは分かるが、若手選手の顔が分からない」という声を聞きます。そうなってしまうと会社の応援がなくなってしまうと思います。ラグビーファンを取り込む活動としては、僕たちもいろいろなことをやっていますが、会社の応援があってこそのラグビー部だと思いますので、若い社員選手を育てていかなければいけないと思っています。その中で、グラウンド外のところにも目を配ってあげないといけないと感じています。

選手会長をやると引退という流れは僕までにしてもらって(笑)、若くて良い人材や彼に任せたいと思わせる人材がいれば、僕はどんどん若い選手にやっていってもらいたいという考えがあります。

◆エディーのスペシャルメニュー

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—— エディーさんが監督だった2年間はどうでしたか?

アシスタントコーチの時のエディー・ジョーンズと、監督のエディー・ジョーンズ、そして日本代表監督としてのエディー・ジョーンズの3パターンを見てきましたが、僕の中ではアシスタントコーチの時のエディー・ジョーンズがいちばん思い出深いんです。

海外の他のチームで監督などをしながら、スポットでチームに来てくれるエディーさんとの付き合いが長いんです。サンゴリアスの監督としては、チームのマネジメントやチームを勝たせなければいけないという状況のエディーさんだったので、アシスタントコーチの時とは「全然違うな」と感じました。

—— アシスタントコーチ時代で、エディーさんらしいと思ったところはどこですか?

入社してすぐの僕を指導してくれて、僕の能力を最大限に伸ばしてくれたと思います。だから今35歳になってもプレー出来ていると思います。

自分のプレーの特徴と、どこを伸ばさなければいけないか、あとはハードトレーニングを教えてくれました。今の若手選手は、エディーさんが監督という立場だったので、朝練やハードワークしろと言われ続けていましたが、僕はアシスタントコーチのエディーのスペシャルメニューという形でトレーニングをしていました。

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—— その時にはどういう特徴やどこを伸ばせと言われたんですか?

ハードトレーニングの中でのヒットスピードやブレイクダウンテクニックなど、どちらかと言うとラグビーにおけるベースの部分です。出来上がっている選手に肉付けしていくというよりも、ラグビーに必要なベースの部分を叩き込まれたという感じです。本当に難しいことはやっていなくて、ラグビーに必要なフィジカルや激しい部分、キツい部分をやっていました。

—— スペシャルメニューをやったのは、自分から願い出て取り組んだんですか?

僕が新人の時に、そういう環境になっちゃったんですよね。同期の他のメンバーはそのメニューをやらなくて、僕だけスペシャルメニューをやっていました。ただ当時はエディーさんが合宿と年4回くらいグラウンドに来て指導してくれていたので、エディーさんが監督の時とは状況が違いました。

僕が新人の時、頑張っているとエディーさんがブランビーズからFAXをくれたり、日本に来た時にはロッカーに手紙を置いていってくれたりしました。ただ今35歳にもなって、置き手紙をもらったら気持ちが悪いですが(笑)、若い頃は嬉しかったですね。

◆新しい意識でプレーしたい

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—— 今のコンディションはどうですか?

上手く体をコントロールしながらやっていますが、ベテランだからといって他の選手と別のトレーニングメニューというのは嫌なので、みんなと同じように与えられたトレーニングメニューをやりたいと思っています。ただこの歳になると体と相談しながらトレーニングをしなければいけないので、どこでアクセルを踏むか踏まないかという判断をしなければいけません。その辺りはスマートに考えなくちゃいけないのかなと思います。

—— 昨シーズンのパフォーマンスには納得していましたか?

今自分が持っているスキルでは、エディー・ジョーンズが掲げているラグビー像には、到底近づけないと感じました。その中で、試合で任せられた20分間は、ミスなく自分の仕事をこなし、チームが勝つ方向に導くということにフォーカスしてやっていました。

いろいろなスキルを練習しなければいけないとは思っていましたが、すぐに身につくものではないですし、少し自分の中でも諦め感が出てきてしまい、努力する気持ちを無くしかけていたというのが、昨シーズンの反省点です。今シーズンは、その部分を補いたいと思っています。

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—— 新しいことにチャレンジする上で気を付けていることは何ですか?

ベースの部分は十何年間とやってきていることなので、その部分をキープしながら、新しい感覚、新しい意識でプレーをしたいと考えています。簡単に言えば、こうでなければいけないというフランカー像を一切なくして、新しいフランカー像を創造してみようかと思っています。

ジョージ・スミスを見て、衝撃が大きかったんです。僕が持っていたフランカー像を遥に超えていました。今、佐々木隆道が「ジョージ・スミスみたいになりたい」と言っていますが、凄く良い見本だし、隆道にはなれる要素があるんですが、僕はジョージ・スミスのことをズバ抜けていて近づけないという感覚で見ていたので、全部を盗もうとはせず、何か1つや2つくらいプレーを盗みたいという気持ちでいます。ジョージ・スミスがサンゴリアスに入らなければ、今の感覚はなかったと思いますし、もう一度学ばなければいけないと感じています。

昨シーズンは、十何年間エディーさんから叩き込まれた、自分はこうじゃなきゃいけないという像がありましたし、エディー・ジョーンズのアタッキングラグビーもどんどん進化していく中で、スキルがたくさん必要になってきたんです。自分のスキルでは補えない部分が凄く増えてきていたので、自分の力を最大限に発揮出来なかったと感じました。

◆エンジョイ

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—— チームの中で3年目以下の選手が多くなってきていますが、若手選手へのアドバイスはありますか?

チームの中で3年目以下が40%以上を占めるようになってきて、来年になれば更にその割合が増えると思います。若手選手の成長が、サンゴリアスにとっては非常に重要な部分になります。育成プログラムやエディーが残してくれたハードワークの部分は、チームにとって非常に浸透してきていると思います。

ただシステムやトレーニング方法は良くなっているんですが、結局は自分がどうなりたいかという部分が見えてこなければ、操られた人形と一緒です。体は鍛えられても意志がなければ、本物感は出てこないと思います。そういう意志を持った選手が、上手い下手にかかわらず、大事になってくると思います。

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—— 選手会長としては、その部分も意識しますか?

チームの運営に関しては、ロッカーリーダーやキャプテンなどに任せて、僕の役割は若手選手の動機づけの部分だと思います。ただ僕がやってきたことをそのまま押し付けても意味がないと思うので、経験してきたことを若手選手に伝えていければと思っています。

—— 今シーズンの目標は?

エンジョイですね。楽しんだ方が良いのかなって、最近は思います(笑)。

—— 新監督とは以前、一緒にプレーしていましたが、どう感じますか?

だいたい自分が一緒にプレーした選手が運営スタッフやコーチ、監督という立場にいるので、先輩方に対してあまり恥ずかしいところは見せられないですね。そういう気持ちが半分と、ここまでやったんだから、もう少し楽しんだ方が良いんじゃないかなという気持ちが半分あります。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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