SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2012年12月 5日

#307 ピーター ヒューワット 『決して諦めない』

いつも笑顔を絶やさず、試合になるとスーパープレーを随所に見せながら、きっちり仕事をするピーター・ヒューワット選手。若い選手にアドバイスすることも多く、そのプロフェッショナルな姿そのものが、若い選手へ与える影響は大きいと感じます。

◆試合をたくさん見る

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—— サントリーで3年目。若い選手によくアドバイスしていますね

サントリーに入る外国人選手の一番の役割はベストなプレーをすることですが、チームが良くなるためには日本人選手も成長しなければいけません。私もサントリーにフィットしてベストプレーをしなければいけないと思うと同時に、若い選手を教育していくことも自分の役割だと思っています。若い選手に指導することは、自分にとっても楽しいことです。

—— 指導したり、何かを伝えることはもともと好きなんですか?

好きです。特に日本人選手は向上心もありますし、習いたいという気持ちがすごく強いので、何かを教えた時にしっかりと話を聞いてくれています。イギリスやオーストラリアの若い選手と比べると、日本人選手はラグビーを基礎からきちんと学びたいという気持ちがあるので、僕もきちんと伝えたいという気持ちになります。

僕が若い頃は、ラグビーの試合をたくさん観るというところから始まっているので、今の若い選手たちももっともっと試合を観て、そこから試合の作り方とかラグビーの基礎のテクニックを学ぶ方が良いと思います。

—— ピーター選手も人の話をよく聞いていたんですか?

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僕が若い頃は、人の話を聞くという部分では、あまり良い選手ではありませんでしたが(笑)、そこがオーストラリアの文化かもしれません。ラグビーのことを考えてはいましたが、しっかりと理解はしていなかったと思います。

ネイサン・グレイ(元ワラビーズ/元九州電力キューデンヴォルテクス/現スーパーラグビー レベルスアシスタントコーチ)が僕にとって凄く良いコーチだったので、彼から学ぶことが多かったですし、メンタル的にも成長出来たと思います。

—— 以前、辻本選手と対談をした時に、辻本選手がピーター選手とサントリーで一緒にプレーすることが嬉しいということを言っていましたが、そういうことを言われてどう感じましたか?

良い印象を与えられているというところでは良い気持ちですし、彼が覚えてくれていたことも嬉しかったですね。きっとプレースタイルなどが気になっていたから、覚えてくれていたんだと思います。

◆プレーが良くなった

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—— 初めて日本に来て、日本のラグビーやサントリーのラグビーはどう感じましたか?

ランニングラグビーがやりたいラグビーだったので、サントリーのラグビーは僕がやりたいラグビーに凄く近いと感じました。日本に来る前にイギリスに渡って、そこではテンポは遅いんですが、フィジカルが強いラグビーでした。一度イギリスでプレーした分、オーストラリアから直接日本に来るよりも少し調整が難しかったですね。

半年くらい時間をかけて、日本のラグビーに慣れることが出来ました。その中で、エディー(ジョーンズ/日本代表ヘッドコーチ)は僕にとって一番良いトレーニングスタイルを作ってくれました。どの過程でも、人生の中で、「こういう人になりたい」と思える人が現れると思います。

オーストラリアにいた時も、イギリスにいた時も、自分の中で良い時と悪い時の波があったんですが、日本に来た時には、エディーもいて、良いスタッフがいて、その良い環境の中でトレーニングをしたことで、全体的に自分のプレーが良くなったという感覚があります。

—— 日本に来ることを決めた理由は何ですか?

いつも日本でプレーしたいという思いはありました。サントリーは強豪チームと知っていましたし、エディーから声がかかって、良いタイミングで良いチャンスをもらえたと思いました。日本でプレーしている他の外国人選手も同じだと思いますが、凄くラッキーだったと思っています。

—— オーストラリアのトップ選手の中には、日本でプレーするという選択肢があるんですか?

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以前よりも、日本でプレーすることを考えている選手が多くなっていると思います。5年前はヨーロッパでプレーすることがメインだったんですが、日本のラグビーがどんどん進化していって、これからもっと人気が出る可能性があるので、オーストラリアだけではなく、南アフリカやニュージーランドの選手たちも、今は日本が一番良いマーケットだと考えています。

—— 2019年に日本でラグビーワールドカップが開催されますが、それに向けての盛り上がりはどう感じていますか?

プロモーションとしては、少し遅れているかもしれません。けれど、日本のラグビーは凄くポテンシャルが高いと思います。日本代表があり、社会人ラグビーがあり、そして大学ラグビーがあるので、もっと大学のレベルを上げて、スタンダードを高くしなければいけないと思います。

日本人はスポーツが好きだと思いますし、日本人の選手たちが、日本のスポーツ界をどう担っていきたいかを考えることが大事だと思います。ワールドカップは凄く大きな大会です。

—— 大学のレベルを上げるためにはどうすればいいですか?

若い選手は、まず試合の理解度について、僕やジョージ(スミス)の若い頃と比べるとそこまで高くないと感じます。僕たちは小さい頃からボールに親しんでいましたし、毎週試合もあったので、そういう違いがあると思います。僕たちはそういう環境で育ってきたので、試合の理解度を当たり前の感覚で持っています。

基本的なスキルは、若い選手でも凄く良いものを持っていると思います。ただ例えば、どこのラインを走るか、これをすべき時がこの時で、すべきではない時がこの時、というような試合の理解度が足りないと思います。ミスから学ぶということがあると思うので、やはり何回も何回も繰り返し行うことが大事です。

◆ポイントを取ることが好き

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—— ラグビーを始めたきっかけは何ですか?

僕は始めるのが遅くて、15歳か16歳の頃にラグビーを始めました。たまたま僕が通っていた高校がラグビーの強い学校で、それがきっかけでラグビーを始めました。10歳からラグビーリーグ(13人制)はプレーしていましたが、その時もメインはクリケットでした。

クリケットが凄く好きで、僕の従兄弟はクリケットのオーストラリア代表です。僕の通っていた高校は、ラグビーが一番強かったので、プレーしなければいけないという環境があって、ラグビーを始めました。

—— クリケットと比べて、ラグビーは面白かったんですか?

クリケットはプレー時間が凄く長いということもありますし、メンタリティーも違います。クリケットもチーム競技なんですが、ラグビーよりも個人の力が重要になります。クリケットは野球に似ていると思います。ラグビーはチーム全員で戦うというところが面白いと感じました。そしてラグビーをしていくことによって、各年代で代表にも選ばれるようになりました。

—— 個人的なプレーとしては、ラグビーのどんなプレーが好きですか?

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特にポイントを取ることが一番好きなところです。その他には、若い選手に指導をして、その選手が成長しているところを見ることも好きです。

13歳か14歳の時に初めてラグビーを見たんですが、その時にデイビッド・キャンピージ(元ワラビーズ)が走ってトライを取るというプレーを見て、そのプレーに強い印象を受けました。僕の中でのラグビーの最初の記憶が、そのプレーなんです。

若い頃にラグビーを始めて、どんどん歳を取るにつれて、若い選手を助けていくということについて、私だけではなくて、きっとジョージも同じ感覚だと思います。

—— 良いコーチになれそうですね

たぶん、たぶん(笑/日本語で)。

—— オーストラリアでプレーしていた時の最も印象的な出来事は何ですか?

やはりワラタスの一員として、スーパーラグビーのデビュー戦が印象に残っています。自分にとっては、そこまでの道のりが長かったので、デビュー戦は特別なものでした。その試合には約3万人の観客が入っていて、14番でプレーしましたが、なんとか合格点がもらえるくらいの内容だったと思います(笑)。デビュー戦ではトライを取れませんでしたが、2試合目でトライをすることが出来て、3試合目でも2つか3つトライをしたと思います。

—— イギリスでの思い出は?

色々な良い思い出がありますが、それまでロンドン・アイリッシュは決勝まで行ったことがありませんでしたが、ハイネケンカップでは準決勝に進むことが出来ましたし、その後にはギネスプレミアシップの決勝にも進みました。その2試合が自分にとっては特別な試合でした。

その2試合は10番でプレーしましたが、内容は良かったと思います。スーパーラグビーでのデビュー戦の時は、まだスーパーラグビーで戦うレベルに達していなくて、必死についていこうとプレーしていたので、やっと合格点がもらえるくらいの内容でした。

◆まだまだ向上するところがある

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—— キック、パス、ランで、それぞれ重要なことは何ですか?

ランについては、スペースに走り込むことがキーポイントです。走り込む前にスペースを見つけなければいけませんが、どこにスペースがあり、どう判断しなければいけないかはゲームセンスが重要になります。ゲームセンスを身につけることは難しいことですが、自分個人としては、プレーが起こっている時に、次のプレーではどこにスペースが生まれるかというところを常に見ていています。特にバックスの選手は、今何が起きているかを見て、今のプレーのスペースと、次のプレーのスペースを常にチェックすることを頭に入れてプレーすることが重要です。

パスについては、短いパスにするのか、長いパスにするのか、それと優しいパスにするのか、速いパスにするのかを判断しなければいけません。その他に、誰にパスをするのかをきちんと理解しなければいけません。フロントローの選手には、優しく受け取りやすいパスにしてあげたり、キャッチングが上手い選手であれば鋭いパスにしたりします。

例えば、スペースを見ながらパスをキャッチする人を見て、ここにパスをしたらその選手はここに走ってきて受け取れるというイメージを持ってパスを出しています。サントリーには良い選手がたくさんいますが、こういう小さいことを教えることで、凄く成長するきっかけになったりもします。それがゲームセンスにも繋がってきます。

キックについても同じですが、他の選手は他に選択肢がないからキックするということがあると思います。相手選手からすれば、キックをされた場合は、そのボールをキャッチするだけになってしまうので、凄く簡単なプレーになります。だから、キックで大事なことは、自分たちが前に出た時に、スペースにキックすることです。

—— 試合後に話を聞くと、いつも「まあまあ」と答えますが、それはプレーに波がなく、常に同じくらいのパフォーマンスを出しているということですか?

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自分に厳しくすることが得意で、常に向上している自覚もあります。たぶんパーフェクトなプレーが出来れば、自分はそこでプレーを止めてしまうと思います。だから「まあまあ」というのは、まだまだ向上するところがあるという意味です。もちろん試合では自分の100%の力でプレーをしていますが、少しでも改善するポイントはあります。

—— 今シーズンの目標は?

サントリーには良い外国人選手がいて、トップリーグでは外国人選手は2人までしか同時にプレー出来ないというルールがありますが、自分がメンバーに選ばれた時は100%の力を出してプレーすることを心掛けています。もしメンバーに入れなかった時は、若い選手たちの教育に力を注ぐことを常に考えています。

これから何年プレーするかは分かりませんが、僕としては、周りから「もう辞めた方が良い」と言われたり、契約を切られたから辞めるという辞め方よりも、自分が辞めたい時にプレーヤーとしてのラグビー人生を終わりにしたいという考えがあります。年齢によりパフォーマンスが落ちている時よりも、良い状態の時に引退したいと思います。

若い選手たちを教育して、その選手がどんどん成長していく姿を見ることが好きなので、いつかはコーチとしてやっていきたいと思います。

—— コーチングで大事なことは何だと思いますか?

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選手たちとのコミュニケーションです。選手たちに自信を持たせることも大事ですが、いつも優しいだけではなくて、厳しく接する時も必要で、それが選手の成長に繋がると思います。例えば、選手が選択したプレーについて、良いプレーでも悪いプレーでも、なぜそのプレーをしたのかを選手に聞き、選手自身にその選択を理解させる指導が大事だと思います。

—— これまでのチームの中で、印象的なコーチはいましたか?

もちろんエディーは凄く良いコーチです。とても厳しいコーチですが、成長して良いプレーをした時には、凄くほめてくれます。もともとラグビーはシンプルなスポーツなので、シンプルに基本的なことをしっかりと伝えていけるコーチが、良いコーチだと思います。

ゲームセンスなど、本当に小さいことを変えていけるコーチングをしたいと思います。サントリーの選手はフィットネスやフィジカルが良くて、ポテンシャルは凄く高いので、ラグビーに特化したスキルなどを改善していければ、凄く成長すると思います。

◆我慢強く

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—— ラグビーの魅力は何ですか?

自分を表現出来ることだと思います。フロントローはアグレッシブにプレー出来るかとか、セカンドローはどれだけ空中戦で良いプレーが出来るかとか、バックローはジョージのようにジャッカルでボールを奪ったりとか、全部のポジションで自分を表現できるスポーツだと思います。ラグビーはプレーを通して自分がどういう人間かを表現出来て、それがプレーに繋がっているところがポイントだと思います。

自分にとって一番大きなポイントは、ラグビーを遅く始めたということもありますが、決して諦めないことです。プロフェッショナルでプレーするとか、自分の中に夢があり、そこに向かって諦めないということが、ラグビーをしていく中で大事なポイントです。トップリーグの試合に出たいと思うのであれば、努力をして良くならなければいけません。「(日本語で)我慢が凄い大事!」

僕自身も我慢強くなければいけないと思っています。僕の周りには、同じポジションで良い選手がたくさんいたので、自分がやることはハードワークをしてチャンスを待つことだけでした。その中で後悔することがなかったので、ラッキーだったと思います。

サントリーに入る選手は、トップリーグの中でも良い選手ばかりなので、若い選手たちは、いつかは必ずトップリーグでプレーすることを理解しながらトレーニングをしなければいけません。例えば、小野澤が引退した時に、次に11番でプレーする選手は、もしかしたら長野かもしれません。けれど、小野澤が引退する時には、小野澤と同じレベルになっていなければいけません。サントリーがチャンピオンになっても常に前に進んでいくために、そこが大事なポイントです。

ベテラン選手が引退をした時に、それでチームのレベルが下がることはしたくないので、常にチームを成長させていくことが大事です。サントリーサンゴリアスはずっと存在していきますが、選手たちは入れ替わってしまいます。だから次の選手たちに教えていかなければいけませんし、教えられた選手は更に次の選手たちに教えていかなければいけません。そういう文化が凄く大事です。

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(通訳:白倉綾子/インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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