SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2011年12月27日

#263 曽我部 佳憲 『ラグビーの基本がすべて詰まった綺麗なラグビー』

◆やってきた通りのことをやれば良い

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—— 先日のスマイルカフェで3年振り先発の試合を40点と言っていましたね

ふつうだったんです、本当に。悪くはなかったんですが、その中に改善点がいっぱいあって、今後の練習で意識していかなければいけないことでした。それを踏まえて40点なんです。出来が悪かったとは思っていませんが、もっと出来ることがあったなとも思います。

—— 良かった点は?

フリー(フーリー・デュプレア)とコミュニケーションをしっかりとって、アタックの形を作れました。それがこの試合のターゲットでしたが、日本人のスクラムハーフだったら簡単な言葉だけでコミュニケーション出来ますが、フリーとは9番・10番としてさらにしっかりコミュニケーションをとって、サントリーのアグレッシブアタッキングラグビーをすることがターゲットでした。

—— コミュニケーションは何で取るんですか?

言葉です。サントリーがアタックする時のラグビーの言葉です。まず「フリー」と名前を呼んで、その後に次のプレーのコールを言います。そういう言葉でのコミュニケーションを心掛けました。

試合前にフリーが一言、タカさん(松平貴子通訳)を通じて言ってくれました。「今週やってきた通りのことをやれば良い。もしミスしたらぜんぶ俺が責任を取るから」という言葉でした。フリーがこれまで経験してきたことを学ばなきゃと思いますし、フリーもそれをしようと思ってやっていると思います。

—— フリーの良いところは?

パスとキック。ずば抜けたキック力があるし、パスも綺麗です。あと、ランニング。まだ1回しか一緒にやっていないので、そこまでフリーを理解しているということではないんですが、そう思います。

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◆サントリーの10番は何をしなければいけないか

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—— 久々のスタメンで“自分らしさ”は出せましたか?

“自分らしさ”っていうよりも、「アグレッシブアタッキングラグビーをする上で、サントリーの10番は何をしなければいけないか」ですね、僕の今の考えは。昔みたいな考え方は今いっさいありません。昔は「いかにして自分が目立つか」でしたから。

試合に出られなかった3年間で、すべて変わりました。なぜこの考えに早くならなかったのかな、とも思いました。ラグビーだけじゃなくて、会社にいる時の自分もそうですし、ラグビー選手である前にまず一人の人間として自分がどうあるべきか、そこまで掘り下げて考えました。そういう意味では、20代の間にこういう考えになれたのは、本当に良かったと思います。

—— その“考え”とは?

メンタルが大事だということです。さらに言うと、ニュートラルの位置にいるのが大事、ということです。これは気持ちの持ち様なんですが、これまでの自分は、良いときは良くて、悪いときは悪くて、波が物凄く大きかったんです。精神的なその波がラグビーにもはっきりと表れていて、大学から社会人の2年目ぐらいまでそうだったと思います。

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—— どこかの時点で大転換したんですか?

急にそういう“考え”になったわけではなくて、試合に出られなくなった時期を過ごして、たどり着いた考え方です。人間なので1人ですべてを解決することは難しく、大事なことに気づくまで、心さん(菅藤/昨シーズン引退)、ノムさん(野村直矢)とかといろいろ話をしました。でもその時には先輩たちが言っていることがわからない若造でした。

今でも完璧にわかっているわけではありませんが、どうすれば良いかという方法を、ちょっとずつ理解してきたと自分では思っています。それは「ニュートラル+アルファ」なんですが、矢印を自分に向けるということもあります。

今までの自分は外に矢印を向けていました。人間だし外に向けることもあったわけですけれど、最後にたどり着くのは、良いことも悪いことも、すべて自分のせいなのだということでした。

—— そこにたどり着くまでにかなり悩んだのでは?

悩んだと言うより、考え疲れました。そして考えていた時期は、外に矢印を向けていた時なので、その時の自分の状況をしっかりと受け入れることが出来ませんでした。外にばっかり矢印を向けていた状態でした。

その頃のことが決してムダだったとは思っていませんし、心さんやノムさんと喋ってその時気づいたことが、今に生きています。

◆心が凄く楽に

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—— その体験は、次の選手へのアドバイスになるのでは?

自分で気づかなければ変われません。あぁだこぅだ言われても変わらない。でも悩んでいたら、いろんな人に相談するのはOKです。そして最後にやらなければならないのは自分で、自分で気がつくことが大事だし、それが成長に繋がると思います。決して僕がそれを完璧に出来ているわけじゃないんですけれど、そういう考え方になれば、心が凄く楽になります。

とってもシンプルです。将来ラグビーを引退して会社で仕事一本になった時にも、辛いことが起きると思いますが、こういう考えでいれば、その都度、対応出来るんじゃないかと思います。

—— そういう心境に至って、今はどんな時が嬉しいですか?

トップリーグでのプレーでも練習試合でも、まずはチームが勝つことが嬉しいですね。今のサントリーのラグビーをするには、10番はどの仕事をしなければいけないか、10番のチームプレーは何なのかを、ちゃんと意識してそれが出来た時が嬉しいです。

—— 10番のチームプレーは自分の中に理想形があるんですか?

トップリーグで出ているトゥシ(ピシ)だったり、ヒューイ(ピーター・ヒューワット)だったり、そういう人たちが練習を含めて試合でどういうプレーや振る舞いをしているか、しっかり勉強中です。

今の話を聞いた方は「じゃあ曽我部は自分を殺しているんじゃん」というふうに思われると思うんですけれど、僕は今の自分のプレーが好きです。

昔の考えで今もずっとやっていたら、たぶん僕はこの部に居られなかったんじゃないかなと思います。ノンメンバーで大事なことというのは、いつチャンスがくるかわらかないし、ラグビーですし怪我もあるので、そういう時にいつでもチョイスして頂ける準備をしておくことが大事なんだと思います。

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—— 出ればもっと出たいと思いますよね

それは思います。

—— そのために、この間40点だったらあとの60点はどうしようというのは?

自分では、わかっています、これとこれとこれというのは。基本プレーが本当にいちばん難しくて、今までどれだけ基本プレーをないがしろにしてきたのか、どっかでこれ出来るし、みたいな感じで構えていた自分がアホやったな、と思います。今は節電で照明が使えないので、練習が終ってからウェイトトレーニングルームで基本練習をやっています。

—— その基本プレーとは?

まっすぐキャッチする、キャッチする時に流れない、良いパスを放る。これらは意識して意識して、毎日一球一球、意識してやらないと身につきません。

そして他にもフィジカルな部分や、ゲームコントロールなど、課題はいっぱいあります。でも、ちょっとやそっとではへこまなくなりました。試合でも、メチャ良いというのにこしたことはないですけれど、ふつうでも、それが最低レベルになれば良いので。

(ここで何度も話題に挙っている野村選手が横に座り「曽我部は自分に矢印を向けられることが出来るようになって凄い。常に学ぼうとしています。もともとボールを持たせたら天才ですしね。今、僕らめちゃめちゃ仲が良いですよ」とコメント)。

◆まだまだレベルアップ出来ます

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—— サントリーが目指しているラグビーとは?

何と言うんですかね、いろんな要素がいっぱいつまったラグビー。ラグビーの基本がすべて詰まったラグビー。簡単に言うと、綺麗なラグビー。サッカーで言えば、メッシがいるバルセロナのサッカーかな。パスをポンポン繋いで、それぞれの役割を担う。トラップしてパスして、サッカーの基本プレーの連続、そしてボールを持っていない選手の動き・・・。練習に練習を重ねてのサッカーだと思います。

そういうラグビーですね。それを目指すために、日々頑張っているわけです。

—— ニュートラルということは生活面も変えましたか?

生活面はあまり変わらないですけれど、仕事も考慮されてラグビーありきの生活なので、ラグビーが充実してストレスなく出来ることによって、仕事の面も生活面も良い方向にいっていると思います。

今の自分の考えでいれば、ラグビーを引退した時にも、「悔いがなかった」と言えるラグビー人生を送れると思います。

—— その境地に達したら、やりたいこともたくさんありますね

まだまだレベルアップ出来るなって思います。こんなに良い環境の中にいるのだから、やるしかない。やらなければもったいない。へこんだり、くさっていたりする暇はありません。これまでそういういろいろがあっての今なので、良い経験をしていると思います。

サントリーのラグビーのゴールは、トップリーグだろうがBマッチだろうが一緒だと思います。ですから僕らはトップリーグのメンバーとして出る人たちに、少しでも近づかなければいけないと思っています。

今日(Bマッチ東海大戦)も、良い試合が出来たと思います。今日もふつうで、点数をつけるとすれば40~50点。その中に改善点があって、まだまだレベルアップ出来ますよ。

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(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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