2010年7月 2日
#197 エディー ジョーンズ 『アタッキングラグビーでファンにトロフィーを』
◆いいチームを応援
—— 今回のサッカーワールドカップは南アフリカで開催され、オーストラリア、日本、アメリカが出場しています。エディーさんにとって、こんなに関係ある国(SPIRITS OF SUNGOLIATH #20参照)が出て楽しみなサッカーワールドカップはないんじゃないかと思いますが、どの国を応援していますか?
国歌は全部知っています(笑)。どこの国というよりも、いいチームを応援しています。2つのチームに絞ると、日本とオーストラリアですね。
—— エディーさんは南アフリカには何度も行っているんですか?
25回くらいは行っていますね。
—— 治安についてはどうなんですか?
道に出ると危ないところもありますが、ケープタウンには東京よりも安全な場所もあります。場所によりますよ。日本で流されるニュースでは、南アフリカはあまり治安がよくないという雰囲気があります。実際に住んだこともあり、いい場所もたくさんあるんですけど、日本が悪いところしかニュースで流していないということは面白いですね。日本のニュースだけを見ていたら、南アフリカには行かないでしょうね。
—— エディーさんにとって南アフリカは好きな国ですか?
ラグビーの文化もありますし、すごく好きです。
—— ワールドカップで使用しているスタジアムは、ラグビーをやるスタジアムなんですか?
新しくサッカーのスタジアムを3つ造ったそうです。その他にラグビーで使っていたスタジアムも3つ使っているみたいです。
—— ブブゼラはラグビーにはいらないですか?
アップダウンがないつまらない音ですよね。サッカーは盛り上がった時に音を出したり、歌ったりしますが、ラグビーには波がありますからね。
ワールドカップで弱いチームがどのようにプレーしていたかというところがよく見えました。それはディフェンスにフォーカスしていて、だからゴール数も少ないですよね。8人くらいでディフェンスしてプレーしているチームもありましたね。
◆何色を着ていてもわかるようなチーム
—— ラグビーでもディフェンシブはつまらないですか?
つまらないわけではないですが、日本ラグビーにおいてもアタッキングラグビーが必要です。
—— いまの世界の風潮として、アタッキングラグビーなんですか?
国の文化により違っていますね。オーストラリアやニュージーランド、フランスは常にアタッキングラグビーですね。南アフリカやイギリスはディフェンスに力を入れています。
—— 日本はどうですか?
昔は歴史的にアタッキングラグビーというものがあったと思います。外国人選手が日本に来ていい影響を与えてくれているとは思いますが、悪い影響もあって、日本の文化も変わってきました。
—— いまの日本はどう思いますか?
本当はもっと進んでいるはずなのに、進んでいないですね。何が必要かというと、日本のアタッキングラグビーを継続するべきです。選手たちはもっとフィットネス、スキルを上げてなければいけないですね。
—— 以前、エディーさんに聞いた時に、「みんな同じラグビーをしている」と言っていましたが、サントリーは違うラグビーをやりたいということですか?
そうです。歴史的に見てみると、2000年から2003年の優勝していた時期は、サントリーがアタッキングラグビーをしていた時期なんです。アタッキングラグビーというのがサントリーのチームカラーですし、今それをもとに頑張っているところです。
サッカーのブラジル代表を見ていて、黄色のユニフォームを着ていても、例えばピンクのユニフォームを着ていても、プレーを見ていてブラジルのサッカーと感じますよね。サントリーも何色を着ていても、これがサントリーの特徴的なアタッキングラグビーだなと分かるようなチームにしていきたいです。
—— じゃあピンクのユニフォームを作りませんか?(笑)
チャリティーとしてね(笑)。前のチームのサラセンズで本当にやったんですが、負けちゃいました(笑)。だけど、がん患者のための募金はたくさん集まりました。
◆選手に合った方法
—— いまのサントリーはどうですか?
上達しています。プレシーズンのトレーニングとは変わってきています。
—— 選手にとってはハードなトレーニングですよね
ハードですね。それにプレシーズンの試合は、試合というよりも練習として組み立てています。その影響でフィットネスも上がってきていますし、タフに戦えるようになっています。スキルはもう少し時間がかかると思います。
—— サッカー日本代表のピーキングが凄く良かったと思いますが、エディーさんはどこをピークに持っていこうと思っていますか?
トップリーグは強いチームと弱いチームの差が激しいので、リーグ戦の最初からピークに持っていって、そして12月くらいにもう一度ピークを持っていこうと考えています。
—— エディーさんはいろんな国で監督をしていますが、日本では大学の監督以来の監督ですよね。サントリーの監督になった今、エディーさん自身は何か変わりましたか?
経験を積むことと歳を重ねることで、選手の見方が変わってきましたね。父親目線という感じが出てきましたね。若いコーチは選手に一方的にやらせるということが多いと思いますが、よく選手を見て、選手によってその選手に合った方法が取れるようになりました。
—— 先生としてのキャリアもそこに活かされているわけですか?
そうですね。
—— みんなが生徒のようであり、みんなが息子のような感じですか?
そういう風に接していくことがすごく大事ですね。
—— 娘さんはもうすぐ17歳だと思いますが、将来の方向性は決まってきましたか?
看護師さんになりたいみたいです。あと1年で高校生活も終わるので、世界の大学でどこがいちばんいいか見ています。いままではオーストラリア、イギリス、日本で勉強してきたので、その3つの国で見ていると思います。
◆監督が代わってもスタイルが変わらないチーム
—— 今年、チームのコンセプトを明快に打ち出しましたが、これはずっと考えていたことですか?それとも今年のサントリーにとって必要なことですか?
1996年くらいからサントリーのアドバイザーをやっていますから、この先もこのスタイルでずっといくと考えています。それと土田さん(雅人/強化本部長)といい関係を築けていて、昨年清宮さん(克幸/前監督)が辞められた時に、土田さんとこれからみんながチームの価値観、スタイルがすぐ分かるようなチームを作っていきたいと話しました。そして監督が代わっても、チームとしてのスタイルが変わらないチームを作っていきたいと話しました。
鹿島アントラーズやマンチェスターユナイテッド、FCバルセロナのような強いチームのように、監督が変わっても同じ価値観、スタイルを持っているチームを作っていきたいです。今年は選手たちにスローガンを考えてもらったりもしました。それが「スピリッツ」です。
—— このインタビューは「スピリッツ・オブ・サンゴリアス」です
その言葉がチームの上に乗っている全体的な言葉です。
—— いまいちばん楽しいことはなんですか?
やっぱり選手が上達する姿を見ることですね。あと新人選手やベテラン選手が一生懸命頑張ってトレーニングして、上達していくところを見るのが楽しいです。いまの時期はハネムーン時期と呼んでいて、結婚する前後の時期っていちばん良い時期ですよね。勝つというプレッシャーがないこの時期でも、ちゃんと仕事をしている姿を見せてくれます。他のチームもハードにトレーニングしていると思いますが、コーチ陣も厳しく自分の仕事をしなければいけないですね。コーチとして、いまの時期がいちばん楽しいです。
—— 悩んでいることなどないですか?
いま怪我人が多くて、頭の中にはそのことがあります。その怪我人の状況を見ていて、3週間くらいで回復すると思っています。
—— 怪我人が多いというのは、エディーさんから見てどういう理由だと思いますか?
トレーニングの強度を上げたことですね。ただ強度を上げたことで怪我人も出るんですが、強度を上げたことにみんな慣れてきて、だんだんと怪我人が少なくなっていくと思います。手術をしてまだ復活していない選手もいるので、それも含めてですね。
—— エディーさんはすごく元気そうですね
楽しんでやっていますからね。
—— それではファンに対して、メッセージをお願いします
ファン感謝デーの時に多くの人が来てくれて、そのファンに応えられるようなプレーをサントリーがして、スキルがあって、頭脳的で、タフに戦えば、ファン感謝デーに来てくれた時以上に楽しいと思います。そしてファンにトロフィーをあげたいです。ファンの気持ちに対して、優勝してトロフィーをファンにプレゼントしたいです。
—— その数は?
もちろん、2つです。
(通訳:松平貴子/インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)