2007年4月13日
YELLOW FLAG TALK 第3回「山下 大悟×佐藤 真海」
イエローフラッグトーク第3回は、佐藤 真海選手をゲストに、サンゴリアスの山下 大悟選手が対談を行いました。テーマは「自分だけの『いちばん』を見つける」。
◆佐藤 真海
サントリー(2004年~)/早稲田大学在学中(応援部チアリーダーズ在籍)の2002年に骨肉腫のため右足膝下を切断、義足の生活になるが陸上競技を始め、2004年アテネパラリンピック陸上競技・走り幅跳び日本代表となり9位(3m95)。2005年パラリンピックワールドカップ4位(4m14)、2006年パラリンピックワールドカップ3位(4m11)の成績を残し、現在は2008年北京パラリンピック代表を目指す。
◆山下 大悟
サントリーサンゴリアス・キャプテン
『早稲田に山下あり』
—— お2人は大学の先輩・後輩になるのでしょうか?
大悟:そうです。
真海:大悟さんが1つ上です。
—— ということは、学生時代からお互いに知っていたんでしょうか?
真海:いいえ、それはないです。大悟さんはラグビー部キャプテンだったので、私はもちろん一方的に知ってましたけど、私はその時はただの一応援部員でしたので・・・。今でも少し緊張します。早大で超有名人でしたからね。
—— そのころのイメージは?
真海:近づきがたいというか、プレーの細かいところは分りませんでしたが、試合でも目立ってましたし、「早稲田に山下あり」という感じだったんで・・・。
—— ということは、山下選手は真海さんのことは知らなかったのですか?
大悟:そうですね、知りませんでした。
—— お2人はサントリーへ入る前には知り合っていたのですか?
大悟:知らなかったよね?(サントリーに)入って僕が2年目の時に、「今度早稲田の応援部からサントリーに入ったんだよ」と聞いたのが初めてでしたね。
真海:そうですね。だけど、実際に話したりするようになるのはそれからまた1年ぐらい後でしたね。
—— その頃すでに真海さんは陸上をやっていたんですか?
真海:はい、やっていました。
大悟:僕は知りませんでした。話を聞いて知りました。
『トレーニングルームで会った』
—— 義足で陸上を始めて今、何年目ですか?
真海:この4月から4年目です。
—— これまでお互いのコミニュケーションはあったのですか?
真海:私がサントリー府中スポーツセンター内のトレーニングルームに来るようになってからですね。去年から来るようになりました。
大悟:僕は昨シーズン怪我をしていてずっとトレーニングルームにいたんで、結構会いましたね。
—— 山下選手は真海さんの競技する姿は見たことりますか?
大悟:ないですね。トレーニングしている姿はありますが、競技会での彼女の姿は見たことがありません。トレーニングは真剣に、一生懸命やってますよ。
—— 真海さんはラグビーの試合はよく見るのですか?
真海:東京で試合がある時は必ず行ってます。いつもチーム席の近くで見させてもらってます。
—— 去年は山下選手のプレーは見れませんでしたが、それまでずっと見てきて、学生時代の山下選手のイメージと違いますか?
真海:サントリーに入ってからの黄色いジャージを着た大悟さんのイメージはあまりないんです。
大悟:東京での試合に限ると、僕は3つ目の試合ですぐ怪我してしまったので・・・
真海:そうですねエンジ(早稲田大学)のイメージが強いです。
大悟:その前のジャージは白でしたね。その時は僕ウイングでしたからね。
真海:正直言って、サントリーで活躍している姿はまだちゃんと見れていないような感じです。
—— では、今年ですね。
真海:はい、その時が来るのがすごく待ち遠しいです。
『キツイところなんて見せなくていい』
—— 山下選手が怪我をしていて試合に出られない姿を見ていて思うところはありますか?
真海:そうですね。それでキャプテンをやっているという心理状況はすごく計り知れないところもありますし、私よりすごく辛い思いをしているんじゃないかなと思います。聞くに聞けないところでもありますね。
—— 昨シーズン後半は開幕当初に比べて、だんだん山下選手のコメントが少なくたように感じましたが、シーズンを通して心境の変化はありましたか?
大悟:そうですね。まぁ、自分自身の問題ですけど、チームの中で何かできる役割はないかとずっと考えていました。当然キャプテンなのでチームを引っ張っていく役割もありますし、自分なりに考えてやっていました。
—— 早稲田でキャプテンをやった時とは環境も違いますが、やり方は変わりましたか?
大悟:根本的には変わってないと思いますが、プレーをしていないんで、僕が変わったというよりも、ほかの選手のみんなの感じ方の方が変わったんじゃないかなと思います。
—— 先が見えるようになってきて、口数が減ったように思えましたが・・・
大悟:キツイ所なんて見せなくていいと思うんです。試合で活躍してナンボだと思ってますから・・・。うん、そう思いますね。
—— たまにここで会って話していてどうでしたか?
真海:トレーニングの時はトレーニングに集中してますし、私はただ早く復帰してほしいなと思うだけですね。
『両足で走ることが自分にとって大きなこと』
—— 真海さんが陸上を選んだのは何でですか?
真海:話すと長くなりそうですが、小学校では水泳をやっていて、中学から高校までは陸上部で長距離をやりました。大学ではチアリーディングをみんなでワイワイやってました。けどやっぱり自分に向いているのは個人種目だなと思いましたね。
陸上に戻った、というのは「両足で走る」ということが自分にとって大きなことで、それをして初めてすべてを乗り越えられた感覚でした。両足で走れるという喜び、気持ちよさ、走ること自体はもともと好きだったし、それが長距離から短距離と幅跳びに変わっただけで、昔の自分に戻ったなという感じです。
—— 種目としては全然違いますが、その辺の新鮮さと難しさってありますか?
真海:まったく別競技をやっているような感じはしますけど、競技場の独特の雰囲気とか試合の緊張感とかはもちろん一緒で、その点では全くの初心者ではないと思うんですが、幅跳びに関しては素人です。ただ、幅跳びがいちばんの世界への近道だったということもあって、選択しました。
—— 長距離をやっていた中でも自身の瞬発力などは感じていたんですか?
真海:もともと体育は得意だったし、走り幅跳びも練習しない割には昔から跳んでいた方だと思います。なんとなくそういうところから入っていったんだと思います。いかんせん、短距離が遅いのがネックです。でも昔、自分の足で走ってた頃より今の方が記録が速いので、やればできるんだなと思っています。
—— 走るということはお互い共通していると思いますが、トレーニングのメニューは同じこともやるんですか?
大悟:もちろんやりますよ。
—— では真海さんはクリーン(※SPIRITS OF SUNGOLIATH #83をご参照下さい)などもやるんですか?
真海:クリーンまではいきません。スクワットなどはやります。同じといっても私は基礎的な部分を作っていくトレーニングなので、レベルは全然違います。
『体の左右の筋力も違う』
—— 山下選手から見てどういうところが大変そうですか?
大悟:体のバランスをとるのが大変なんじゃないかなと思います。体の左右の筋力も違うと思うので、その辺が大変なんじゃないかなと、いつも走る姿を見て思っています。
真海:大悟さんの怪我した方の足が筋力が付きにくいのと一緒で、どうしても義足側の筋力が欲しくて、そこを鍛えようとしているんですけど、なかなか付きにくいです。日常生活でも使いにくかったりするところなので、どうしても難しいですね。そこが一緒だなと思ったりもします。
—— 痛いという時はあるんですか?
真海:動きによりますが、衝撃がやっぱり強いので、跳ぶのは大丈夫ですが、走ると歩く時の3倍ぐらいの体重がかかるので、摩擦で傷ができたり化膿したりはしますね。足に血豆ができるような感覚ですね。血豆というか靴ずれというか。皮膚もだんだん強くなっていくとは思うんですが、まだ切断して4、5年なので。
あとはしびれたりもします。寒かったり、緊張したりするとしびれることがあります。足を切ってすぐ幻肢痛(げんしつう)という症状が出て、ないはずの足首がしびれて痛く感じたりすることがありました。それが今では足首ではなく切断面に近づいてきているんですが、緊張したり、集中したりすると神経が行き渡ってる感じがして痺れます。
—— 逆に自分が集中しているというサインにはなりませんか?
真海:適度ならいいのですが、あまりにもしびれちゃうと走っている間に感覚がなくなっちゃうので怖いですね(笑)。
—— その感覚はわかりますか?
大悟:分らないですね。
—— 治ってくるという感覚はあるんですか?
大悟:もう長すぎて分らないです。あんまり覚えてないです。徐々に治っていったようでもあり、いきなり治ったようでもあり、わからないですね。
—— 足の太さは一緒になりましたか?
大悟:まだですね。あとは太さだけじゃなくて出力も一緒にしないといけないので、まだそういうところも徐々に戻ってきてはいますが完璧ではないです。練習ができるようになってるので、よくなっているとは感じます。変な自信があって、「良くなるだろ!」みたいな感覚はあります。
リハビリをしていれば良くなるかといったらそうでもないし、逆に全くやらないのも良くないです。たとえば、ちょっとハワイに行ったら良くなったとか、温泉に行ったら良くなったとかいうこともあるんです。僕の場合は感覚的にいけると思ったらいけるという感じです。「そろそろいけるだろ」ってことで、やってみたらいけました。