SUNTORY CHALLENGED SPORTS PROJECT

vol.16「人生を賭けてアーチェリーに向き合い、東北の人たちを勇気づけたい」 パラアーチェリー 小野寺公正選手

vol.16「人生を賭けてアーチェリーに向き合い、東北の人たちを勇気づけたい」 パラアーチェリー 小野寺公正選手

2004年アテネ、2008年北京、そして2016年リオと、3度に渡って世界の大舞台を経験しているアーチェリー界きってのチャレンジド・アスリート小野寺公正選手。ベテランになった今もなお、飽くなき向上心とともにアーチェリーに向き合い、上をめざし続ける彼の原動力になっている思いとは!?

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── 小野寺さんはどのようにしてアーチェリーと出会われたのでしょうか?

小学校は野球、中学ではバスケをそれぞれ義足でやっていたのですが、バスケで大きな怪我をしてしまったことでどうしても転部をしなくてはならなくなり、そのタイミングでたまたま通っていた中学校にアーチェリー部が新設されたことで入ってみたというのが始まりです。

── そのように怪我をきっかけに始めたアーチェリーで、現在のように世界をめざそうと思うようになった経緯を教えてください。

最初は30〜40人いた部員の中で最下位だったんですよ。野球、バスケとスポーツを続けてきた自分がまさかそんな下になるとは思ってもいなかったから本当に悔しくて。そこから1番上手な子に勝ちたい一心で黙々と自主練をするようになり、その甲斐あって翌年の全国大会に出場して入賞することができたんです。当時はただただチームメイトに負けたくないという気持ちだけでアーチェリーをやっていましたが、後に高校、大学と続けていくうちに、いつしか世界で戦いたいという気持ちに変わっていきました。

── 以来、長きに渡ってトップカテゴリーでコンスタントに活躍されていますが、どのようにしてモチベーションを保ち、技術を向上させ続けているのでしょうか?

日本代表という肩書きを背負うようになってからはやはり結果が求められますので、そこに対するプレッシャーでアーチェリーがしんどく感じることもありました。実際2004年のアテネで団体のメダルを獲ることができましたが、2008年北京の3位決定戦に敗れたことで2012年ロンドンの出場枠を獲得できず、それを機に一旦競技から離れて自分を見つめ直したこともありました。しかし競技のシーンと少しの間距離を置いたことで、自分の気持ちはやっぱりアーチェリーにあると気づいたんです。まさにターニングポイントでした。そこからは、迷いなくアーチェリーに取り組みながら年々レベルアップができている気がしています。

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── その後は見事2016年リオ大会にも出場されました。いろんな葛藤を経て現在の小野寺さんがいらっしゃると思いますが、現在はどのような心境でアーチェリーと向き合っていますか?

他に世界ランキング一桁台の日本人選手もいますし、若い子たちもどんどん出てきてくれています。自分はパラアーチェリーの選手会長にもなり、自分だけではなく選手みんなが頑張れるような環境作りなども考えながら競技と向き合っています。ただ、いちアスリートとしては、「まだまだ若い選手たちに負けるつもりはないぞ」と、強い気持ちを持ちながら日々練習していますよ。

── 当然ながら来年の大舞台を当面の目標にされていると思いますが、小野寺さんは何歳くらいまで世界のトップをめざしたいと思っていますか?

若い選手が出てきたとはいえ、まだまだ地元の東北には少ないんですよ。だから自分と同じ東北出身の選手をもっと発掘して、彼らを世界で戦えるレベルに引き上げることができた時が本当のバトンタッチのタイミングだと思っています。それができるまで、50歳くらいまではバリバリ現役で頑張りたいと思っています!

── 今後、健常者の分野で世界にトライしようというような思いはあるのでしょうか?

実はずっと挑戦しているんですよ。今はアーチェリーそのもののレベルが上がっているのでなかなか届かないのが現状ではありますが、健常者の全国大会に出られるレベルの選手でありたいという思いは常にあります。今後も自分のライフワークとして目標にしていきたい部分ですね。

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── 普段、アーチェリー以外ではどんな時間を大切にしていますか?

いろんな場所に行くのが好きなので、国内のいろんな山を登ったり、何百、何千段あるというような階段に実際にチャレンジしたり。日常でも何かしら達成感を得られることが好きですね。また根本的にスポーツが好きなので、バッティングセンターやゴルフの打ちっ放し、ボルダリングなどアーチェリー以外にもいろんなスポーツにトライするようには心がけています。

── 「達成感」という言葉が出ましたが、アーチェリーという競技においてはどのようなときにそれを実感しますか?

風が吹いても雨に降られても、いかなる環境下でも平常心で矢を放たなければならないアーチェリーはメンタルがそのままパフォーマンスに影響するスポーツ。だからこそ、逆境になればなるほど的の真ん中を射抜いたときの快感は大きいですし、そういった経験がさらに自信に繋がります。またアーチェリーは一般の選手も障がいを持つ選手もルールが全く同じなので、ハンデを感じずに上のレベルをめざすことができるところも魅力だと感じています。

── 来年の大舞台まであと1年、どのような思いでアーチェリーに向き合っていきたいと考えていますか? 最後に抱負をお願いします。

2つある出場枠のうち、1つは世界選手権の最高順位の選手で決定しましたので、私はもう1つの枠をめざして他の日本人選手たちと競い合うことになります。まずはそこに全力を尽くし、もし本大会に出場できれば前回大会の自分を超えることをノルマに掲げるつもりです。それに、やはり私のような東日本大震災を経験した選手が東京の舞台で躍動してこそ、地元の東北の人たちに勇気や元気を与えられると思うので。競技成績だけにとらわれず、とにかく人生を賭けて世界と戦っている姿というものを見せたいと思っています。

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PROFILE

おのでら きみまさ●サントリー チャレンジド・アスリート奨励金 第1〜5期対象
1983年生まれ、宮城県登米市出身。2歳の頃に病気で右脚の膝から下を切断。義足での野球、バスケを経て中学2年時に創部された地元・東和中学のアーチェリー部に入部し、中学、高校と全国大会で好成績を残す。その後拓殖大学でさらに技術を磨き、2004年アテネ大会ではリカーブ団体2位、2008年北京では同4位。2016年リオ大会ではリカーブ個人で17位。現在はトヨテツ東北に勤務しながら、来年の大舞台をめざしている。

Photos:Go Tanabe Composition&Text:Kai Tokuhara

PASSION FOR CHALLENGE
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