TCFD提言に基づく開示

サントリーグループでは、持続的に事業を行い、価値を創造し続けていくために、気候変動によるリスクや事業への影響を特定し、適切に対応していく必要があると考えています。

TCFD

サントリーグループは、金融安定理事会(FSB)により設置された「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を2019年5月に表明し、毎年TCFD提言に基づく開示を行っています。
2022年からは、気候変動問題が社会と企業に与えるリスクと機会の評価・特定に加えて、事業に対する影響額の試算を新たに開始しました。

今後も、顕在化したリスク・機会に対する対応策を戦略に反映させることでレジリエンス向上を目指すとともに、情報開示の拡充を進めていきます。

1. ガバナンス

サントリーグループ全体のリスクマネジメント推進体制を強化するため、グローバルリスクマネジメント委員会(GRMC)を設置しています。このGRMCのもと、各事業会社にリスクマネジメント委員会やリスクマネジメントチームを設置しています(例:サントリー(株)やサントリー食品インターナショナル(株)等に「リスクマネジメントコミッティ」を、サントリーグローバルスピリッツに「グローバルリスク&コンプライアンスコミッティ」を、またその他の事業会社に「リスクマネジメントチーム」を設置)。GRMCは年4回開催し、サントリーグループ全体のリスクの把握や対策の実行、クライシスマネジメント体制の整備などの活動を行います。気候変動関連リスクは最重要リスクの一つとしてGRMCで議論され、対応状況をモニタリングしています。

グローバルサステナビリティ委員会(GSC)においては、サステナビリティビジョンで定めた7つのテーマに関する中長期戦略の議論を行っており、気候変動関連への取り組みについても議論しています。また、各事業においても、より具体的な戦略、取り組みに関する議論を行うための組織が設置されています(例:サントリー食品インターナショナル(株)に「サステナビリティ委員会」を、サントリーグローバルスピリッツに「コーポレートレスポンシビリティコミッティ―」を設置)。

GRMCとGSCは常に連携をとっており、重要な意思決定事項については、取締役会でさらなる議論を行い、審議・決議を行います。気候変動関連の戦略・進捗やリスクと成長機会については、四半期に一度の頻度で取締役会に報告を行っています。また、取締役会では、定期的に外部有識者を招いて勉強会を実施するなど、気候変動関連およびサステナビリティ経営に対するアドバイスを受ける機会を設けています。

経営戦略会議では気候変動関連のKPIを設定しています。気候変動関連の最高責任者はCEOであり、気候変動関連リスクと機会の評価および管理に関する責任者はサステナビリティ担当役員です。なお、役員報酬の決定等の業績評価においては、「サステナビリティ」に関する目標が含まれています。

体制図

体制図

2. 戦略

サントリーグループでは、気候変動関連の課題について重要度に基づいたリスクの評価を行っています。事業への影響が大きいと想定されるリスクについては、中長期目標を定め取り組みを進めています。
リスク抽出・評価のアプローチは、抽出されたリスクに対し、「リスクエクスポージャー」および「対策レベル」の二軸で評価し、特にグループ全体の重要リスクについて、Tier1~3に区分し、うちTier 1を最重要リスク、Tier 2を重要リスクと位置付けています。「リスクエクスポージャー」は「発生可能性(確率)×影響度(インパクト)」によって、「対策レベル」は対策の準備の度合いによって算出されます。評価の結果、気候変動関連リスクは最重要リスクの一つとして位置づけています。

また、消費者・投資家をはじめとするすべてのステークホルダーによる企業のGHG排出に対する関心の高まりを背景に、気候変動関連に伴うリスクと機会がサントリーグループの事業戦略に大きな影響を及ぼすとの認識のもと、シナリオ分析に取り組み、気候変動が事業に与えるリスクや機会の把握および対応策の実施に努め、財務計画において考慮しています。

リスクと機会(リスク・機会の特定、事業に対する影響額を試算)

サントリーグループでは、重要な財務的影響を与えるリスクおよび機会を特定するため、短期(0~3年)・中期(3~10年)・⾧期(10~30年)という時間軸における各項目のインパクトや発生頻度を踏まえ、社内で評価し下記表のように結果を整理しました。特定したリスク・機会のなかでも炭素税の導入によるコスト増加、生産拠点への水の供給不足による機会損失、農産物原料の収量減少による原料価格高騰の3点が特に大きな影響を及ぼす可能性があることを認識し、事業に対する影響額を試算しました。リスク・機会分析の前提となるシナリオは温暖化進行シナリオとしてRCP 8.5、脱炭素シナリオとしてIEA NZE 2050等を使用しました。

1.主要なリスク・機会の抽出 2. 各リスク・機会の事業への影響を評価
(最重要リスクは事業に対する影響額を試算)
3.対応策の検討/実施
リスク・機会の種類・分類 想定される事業への影響 リスク軽減・機会取り込みへの
対応策
移行
リスク
新たな
規制
カーボンプライシング導入による生産コスト増
  • 炭素税の導入や税率の引き上げによる財務上の負担増
  • 事業に対する試算影響額 190億円(2030年)、350億円(2050年)(※1)
  • 内部炭素価格を導入し、投資意思決定の際に考慮
  • 2030年までに脱炭素を促進する1,000億円規模の投資(再生可能エネルギーへの転換・ヒートポンプの活用など)を実施予定
  • 「サントリー環境目標2030」 「サントリー環境ビジョン2050」で設定した目標を達成した場合には、95億円(2030年)、350億円(2050年)の削減効果

気候変動の取り組み

物理的
リスク
慢性
リスク
生産拠点への水供給不足による操業影響
  • グループにとって最も重要な原料である水の供給不足で工場が操業停止することによる機会損失
  • 事業に対する試算影響額 265億円(※2)
  • 自社工場の全拠点を対象に、工場流域の利用可能な水資源量に関するリスクを評価
    (「水リスクの評価」に詳細を記載)
  • 工場での水総使用量の削減の検討や、水源涵養活動により工場で使用する水の100%以上還元する目標を掲げて取り組み実施

水リスクの評価

農産物の収量減による調達コストの増加
  • 現状と同品質の原料調達のためのコスト上昇
  • 事業に対する試算影響額80億円(RCP 8.5シナリオ、2050年)(「原料安定調達の取り組み」に詳細を記述)
  • 原料産地別に気候変動による将来収量予測などの影響評価を行い、原料の安定調達のための戦略を策定
  • 持続可能な農業に向けたパイロットの開始
    (「原料安定調達の取り組み」に詳細を記述)

原料安定調達の取り組み

急性
リスク
大型台風やゲリラ豪雨を要因とした洪水等の発生
  • 洪水被害による浸水、バリューチェーン分断などによる操業停止
  • グローバルリスクマネジメント委員会において、全ての自社生産拠点のリスク評価を行う仕組みを構築
機会 商品/
サービス
気温上昇に
伴う健康
への影響
  • 平均気温の上昇や猛暑等により、熱中症対策飲料や水飲料へのニーズが高まる
  • 生産能力増強や安定供給体制構築のための設備投資を実施
  • 消費者ニーズを捉えた商品開発

消費者ニーズを捉えた商品開発の取り組み

環境意識の高まりによる顧客行動の変化
  • 水資源を大切にする企業姿勢が社会に認知されることによるブランド価値の向上
  • 科学的データに基づく水源涵養活動、工場での節水・水質管理の取り組み、水に関する啓発プログラム「水育」などを継続・強化するとともに、社外に情報発信

水資源に関する取り組み

資源
効率
新技術導入による
コスト削減
  • 新技術開発による石油資源の使用量とCO2排出量の削減
  • ワンウェイプラスチック関連課税に対するコスト削減
  • PETプリフォーム製造プロセスの効率化を目的とした新たな技術開発(「FtoPダイレクトリサイクル技術」など)
  • 効率的な使用済みプラスチックの再資源化技術開発(株式会社アールプラスジャパン)

容器包装に関する取り組み

  • 注1
    2019年の自社排出量(Scope1、2)をもとにIEA NZEの予測値から独自に推計した炭素税価格使用し試算
    ● 2030年 日本、欧州、米州 140ドル/t、APAC 90ドル/t
    ● 2050年 日本、欧州、米州 250ドル/t、APAC 200ドル/t
  • 注2
    水ストレスが高いエリアに立地する全自社工場において、取水制限を想定した場合の利益インパクトを試算。なお、工場所在地の水ストレス評価は、世界資源研究所のAqueduct 3.0と世界自然保護基金(WWF)のWater Risk Filter 6.0を使用
    (為替は1ドル=145円で計算)

シナリオを考慮し、顕在化した上記リスク・機会に対して戦略的な対応を行うことで、レジリエンス獲得を目指しています。リスクへの対応としては、主に水の供給リスクの把握や適切な水マネジメントの実行や水源涵養活動など、特に水のサステナビリティへの取り組みを推進してきましたが、原料調達等、他リスクについても検討を進めています。また、GHG削減については、原材料調達から製造・物流・販売・リサイクルに至るまで、バリューチェーン全体でGHG排出量を削減するため、部門ごとに課題を設定して活動しています。一方、機会面では、気候変動関連対策の適応商品として環境省が推奨する成分を配合した熱中症対策飲料のポートフォリオを拡充しています。また、水源涵養活動や水に関する啓発プログラム「水育」などを継続・強化するとともに、サントリーグループの水に対する姿勢をグループ外に情報発信することでブランド価値向上、ひいては売上の増加につながるものと考えています。資源効率性の面では、ペットボトルのリサイクル促進に積極的に取り組んでいます。

3. リスク管理

サントリーグループでは、「リスク」を事業戦略遂行ならびに事業目標の達成に影響を与える可能性のある現在および将来の不確実性と定義しています。グローバルリスクマネジメント委員会(GRMC)および各事業会社に設置したリスクマネジメント委員会やリスクマネジメントチームを通じて、グループ全社を対象に気候変動関連を含めた重要リスクの抽出・評価を行い、サントリーグループにとって優先的に取り組むべきリスクを特定して対応策を検討し、毎年見直しを行っています。

リスク管理体制

リスク管理体制

特定したリスクの管理方法

特定した優先的に対応すべきリスクについては、責任者およびモニタリング機関を任命の上、リスクへの対応策を実施します。対応状況はグローバルリスクマネジメント委員会(GRMC)において報告・議論し、対応結果を踏まえて次年度の重要リスクを選定することで、抽出・評価・対策・モニタリングのPDCAサイクルを回しています。

特定したリスクの管理方法

4. 指標と目標

サントリーグループでは、事業への影響が大きいと想定される気候変動および水について、2030年を目標年とする中期目標として「環境目標2030」を、2050年を目標年とする長期ビジョンとして「環境ビジョン2050」を定め、取り組みを進めています。

指標と目標
  • ※1
    製品を製造するサントリーグループの工場
  • ※2
    2015年における事業領域を前提とした原単位での削減
  • ※3
    コーヒー、大麦、ブドウ
  • ※4
    2019年の排出量を基準とする

取り組み実績

サントリーグループは、2030年目標の達成に向け、自然環境の保全・再生活動など、水に関わるさまざまな取り組みをグローバルに推進しています。水を育む森を育てる「天然水の森」の活動を2003年から開始し、全国16都府県23カ所、国内工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水を涵養する「天然水の森」を12,000haを超える規模まで拡大しています。また2023年には、水の保全やスチュワードシップ(管理する責任)をグローバルに推進する国際標準の権威ある機関「Alliance for Water Stewardship(AWS)」から認証レベルの中で最高位である「Platinum」認証を取得しました。現在、サントリーグループでは、合計4工場がAWSからの認証を獲得しています。

気候変動

サントリーグループは、世界各地域での再生可能エネルギー電力の導入を進めており、2022年には、日本、米州、欧州の飲料・食品および酒類事業に関わるすべての自社生産研究拠点63ヵ所で、購入電力を100%再生可能エネルギーに切り替えました。また、内部炭素価格制度を2021年から導入し、2030年までに脱炭素を促進する1,000億円規模の投資を実施する予定です。これらの取り組みにより、2030年に想定されるGHG排出量を、約100万トン削減できる見込みです。また、サントリーグループでは2022年に、山梨県と環境調和型の持続可能な社会の実現に向けた基本合意書を締結し、「グリーン水素」をつくることができる国内最大16メガワット規模の「やまなしモデルP2Gシステム」を、2025年にサントリー天然水 南アルプス白州工場およびサントリー白州蒸溜所へ導入することを目指しています。本システムにより、工場で使用する熱エネルギーの燃料をグリーン水素へ転換するとともに、周辺地域などでのグリーン水素活用についても山梨県と共同で検討し取り組んでいく予定です。
なお、GHGのScope 3の排出量削減についても、ペットボトルリサイクルの取り組み強化とともに、再生農業の取り組みを開始しました。併せて、原料サプライヤーへの働きかけ、協働を進めました。

2023年実績