TNFD提言に基づく開示

自然の恵みに生かされる企業として

水や農作物に依存する企業として、その価値の源泉である水源や原料産地などの生態系を守ることはサントリーの責務であると考えています。気候変動、生物多様性、水の危機という深く関連し合う課題に対し、グローバルな食品酒類総合企業として正しい行動を起こすためには、包括的な対策が不可欠です。サントリーグループでは、2023年5月に発表されたScience Based Targets Network(以下、SBTN)によるガイダンス(以下、企業向けガイダンス)のもと、自然関連の科学的根拠に基づいた目標(science-based targets for nature)の設定と、それに向けた活動を進めていくべく、企業向けガイダンスの試験運用を行う企業17社として日本企業で唯一参画しています。

この度、SBTNの試験運用での分析と進捗を踏まえ、Taskforce on Nature-related Financial Disclosures(以下、TNFD)の試行開示を始めました。 TNFDの枠組みであるL(Locate)E(Evaluate)A(Assess)P(Prepare)のステップのうち、LとEについて、SBTNのStep1, 2での、直接操業とサプライチェーン上流の分析結果を活用しました。Aにおいては、L, Eの結果を踏まえ、酒類事業の直接操業(生産拠点)を対象に分析を行っています。SBTNとTNFDのアプローチの相関については、「TNFDとSBTNの連携」図をご参照ください。

今後、SBTNの試験運用の進捗を踏まえた目標設定やリスクと機会の更なる分析、ならびに具体的な対応策を戦略に反映させ、科学に基づく世界の共通基準と整合した「ネイチャー・ポジティブ」の実現を目指します。

  • 当社のほかにはAB InBev、Bel、Carrefour、Corbion、Alpro (Danone Group)、GSK、H&M Group、Hindustan Zinc Limited、Holcim Group、Kering、L'OCCITANE Group、LVMH、Nestle、Neste Corporation、Tesco、UPMが選出
TNFDとSBTNの連携
TNFDとSBTNの連携

「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フォーラム」への参画

「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フォーラム」への参画

サントリーグループは、自然や金融などの専門性を有する企業・団体等が参画し、TNFDによる枠組み構築をサポートするネットワークである「TNFDフォーラム」に参画しています。また、2023年12月には、TNFD提言に賛同し、「TNFD Adopter」に登録しました。

  • TNFD提言に基づく開示を行う意向をTNFDのWebサイトで登録した企業のことで、登録した企業は2024年もしくは2025年会計年度情報に基づく開示が必要とされる

1. ガバナンス

サントリーグループでは、グローバルリスクマネジメント委員会(GRMC)において、グループ全体のリスクマネジメントを推進しています。このGRMCのもと、各事業会社にリスクマネジメント委員会やリスクマネジメントチームを設置しています(例:サントリー食品インターナショナル(株)(SBF)に「リスクマネジメントコミッティ」を、サントリーグローバルスピリッツ社(SGS)に「グローバルリスク&コンプライアンスコミッティ」を、またサントリー(株)など各事業会社に「リスクマネジメントチーム」を設置)。GRMCは年4回開催し、サントリーグループ全体のリスクと機会の把握や対策の実行、クライシスマネジメント体制の整備などの活動を行います。水や原料などに係る自然関連問題は、グループ全体の重要リスクの一つとしてGRMCで議論され、対応状況をモニタリングしています。

グローバルサステナビリティ委員会(GSC)において、気候変動関連、ならびに水や原料、容器包装の取り組み等、サステナビリティビジョンで定めた7つのテーマに関する中長期戦略の議論を行っています。また、各事業においても、より具体的な戦略、取り組みについて議論を行うための組織を設置しています(例:SBFに「サステナビリティ委員会」を、SGSに「コーポレートレスポンシビリティコミッティ」を設置)。

GRMCとGSCは常に連携をとっており、重要な意思決定事項については、取締役会でさらなる議論を行い、審議・決議を行います。気候変動関連も含めた自然関連の戦略・進捗やリスクと成長機会については、四半期に一度の頻度で取締役会に報告を行っています。また、取締役会では、定期的に外部有識者を招いて勉強会を実施するなど、サステナビリティ経営に対するアドバイスを受ける機会を設けています。

気候変動ならびに自然関連の責任者はCEOであり、自然関連リスクと機会の評価および管理に関する責任者はサステナビリティ担当役員となります。役員報酬の決定等の業績評価においては、目標設定に「サステナビリティ」が含まれています。

体制図

体制図

2. 戦略

サントリーグループでは、直接操業とサプライチェーン上流を対象に、自社事業の自然に及ぼす影響ならびに自然との依存関係を評価し、その結果を踏まえて優先順位付けを行いました。なお、この評価ではSBTNで推奨されているツールやデータベースを活用しています。
さらに、自社事業が自然に及ぼす影響におけるマテリアリティとして水使用や水質汚染に焦点を当てて、酒類事業の直接操業を対象に優先拠点の特定やリスク・機会の分析を試行しました。

自社事業と自然との影響・依存関係

自社事業の自然に及ぼす影響および自然との依存関係は、直接操業とサプライチェーン上流について評価を実施しました。直接操業については、国際標準産業分類ISIC(International Standard Industrial Classification)の経済活動区分から自社の事業活動が該当する活動区分を選択することにより、評価対象とするサントリーグループの各事業活動を分類して定義するとともに、SBTNが開発したMST(Materiality Screening Tool)を活用することにより、事業活動による自然への影響を俯瞰的に把握しました。サプライチェーン上流では、当社の原材料を対象にMSTによる評価を行うとともに、SBTNが自然への影響が大きいとされる原材料をリスト化したHICL(High Impact Commodity List)を活用して、特に自然への影響が大きい原材料を特定しました。一方、自然への依存関係については、自然資本分野の国際金融業界団体と国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCSC)などが共同で開発したオンラインツールENCORE(Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure)を活用し、依存関係を俯瞰的に把握しました。

自然への影響関係
自然への影響関係
  • SBTNの対象外の項目であるため、地域の状態の評価や優先順位付け、リスク・機会の評価では対象外とした。
自然への依存関係
自然への依存関係

直接操業における事業活動では、全体として水使用および排水中の水質汚染物質により自然に影響を及ぼす可能性が高く、サプライチェーン上流での事業活動(大麦、コーン、サトウキビ他の非多年生作物の栽培、家禽類の飼育、鉄鉱石の採掘等)では、全体として土地の利用及び転換、水使用、水質・土壌汚染物質の排出によって自然に影響を及ぼす可能性が高いことを特定しました。一方、自然への依存関係については、直接操業において地下水と地表水への依存度が高く、サプライチェーン上流では地下水と地表水に加え、花粉媒介サービス、土地の肥沃度や水循環の健全性の維持、水質、土壌侵食や病害虫の抑制作用、自然災害の影響緩和などの自然の作用に依存度が高いことを特定しました。

優先拠点の特定

直接操業における優先拠点の特定にあたり、水使用と水質汚染物質の観点で拠点の優先順位付けを行いました。優先順位付けにおいては、水使用量あるいは排水中の水質汚染物質量と自然状態指標(事業が依存関係にある地域の水資源あるいは水質の状態)から算定した負荷指標と、生物多様性指標(地域の生物多様性の状態)の両者を考慮して拠点ごとにランク付けを行いました。さらに拠点を中心に半径20km圏内を生物多様性統合評価ツールIBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool)で評価し、保護地域や生物多様性重要地域(Key Biodiversity Area)と近接する拠点のうち、ランクが上位10%となる拠点、もしくは上位10拠点を優先拠点として特定しました。

優先度の高い拠点数
  • 生産拠点のみ抽出(事務所は含まず)
負荷指標 飲料事業 酒類事業 その他
水使用量 13 6 0
水質汚染物質量 16 3

サントリーグループの事業のうち、水使用と水質汚染の両面で重要度が高く、優先度の高い拠点が含まれる酒類事業の生産拠点を対象に、リスクと機会の分析を行いました。

酒類事業の地域別優先拠点数
酒類事業の地域別優先拠点数
リスクと機会の抽出

優先拠点の特定結果や事業活動と自然との影響・依存関係を踏まえ、酒類事業におけるリスクと機会について「リスク発生可能性」と「事業への影響」の2軸で定性評価を行いました。

リスク分析結果

1. 主要なリスクの抽出 2. 各リスク・機会の事業への影響
リスクの種類・分類 リスク項目 依存/影響の重要項目 想定される事業への影響
物理リスク 慢性 取水水質の悪化リスク 水質
  • グループにとって最も重要な原料である水の品質悪化による、製品品質への影響
  • 処理コストの増加
移行リスク 評判 企業として水の取組が不十分であると社会からみなされ、ブランド価値が低下するリスク 水量・水質
  • 企業イメージ悪化による売上減少
評判 取水や排水に関する地域住民との対立による、事業への影響リスク 水量・水質
  • 追加調査や設備投資によるコスト増加
  • 操業への影響による売上や事業継続性への影響

リスクについては、グループにとって最も重要な原料である水の品質悪化による、製品品質への影響や処理コストの増加、企業イメージ悪化による売上減少、地域住民との対立による事業影響などが見込まれます。

機会については、水使用効率の向上による取水・排水関連のコスト削減が見込まれます。また、水源涵養活動や水に関する啓発プログラム「水育」などを継続・強化するとともに、サントリーグループの水に対する姿勢をグループ外に情報発信することでブランド価値向上、ひいては売上の増加につながるものと考えています。

3. リスクと機会の管理

サントリーグループでは、「リスク」を事業戦略遂行ならびに事業目標の達成に影響を与える可能性のある現在および将来の不確実性と定義しています。グローバルリスクマネジメント委員会(GRMC)および各事業会社に設置したリスクマネジメント委員会やリスクマネジメントチームを通じて、グループ全社を対象に水資源をはじめとする自然関連を含めた重要リスク、および機会の抽出・評価を行い、サントリーグループにとって優先的に取り組むべきリスクを特定して対応策を検討し、毎年見直しています。

リスク管理体制
リスク管理体制
特定したリスクの管理方法

特定した優先的に対応すべきリスクについては、責任者およびモニタリング機関を任命の上、リスクへの対応策を実施します。対応状況はグローバルリスクマネジメント委員会(GRMC)において報告・議論し、対応結果を踏まえて次年度の重要リスクを選定することで、抽出・評価・対策・モニタリングのPDCAサイクルを回しています。

特定したリスクの管理方法

4. 目標と指標

サントリーグループでは、事業への影響が大きいと想定される気候変動および水について、2030年を目標年とする中期目標として「環境目標2030」を、2050年を目標年とする長期ビジョンとして「環境ビジョン2050」を定め、取り組みを進めています。

水の目標と進捗
水の目標と進捗
テーマ 環境目標 2030 2023年実績

工場節水

自社工場※1の水使用量の原単位をグローバルで35%削減※2
特に水ストレスの高い地域においては、水課題の実態を評し、水総使用量の削減の必要性を検証。

  • 原単位15年比28%削減

工場節水に関する取り組み

水源涵養

自社工場※1の半数以上で、水源涵養活動により使用する水の100%以上をそれぞれの水源に還元。
特に水ストレスの高い地域においてはすべての工場で上記の取り組みを実施。

  • 全世界の自社工場の41%で水源涵養活動を実施
  • 水ストレスの高い地域にある工場においては、その37%で活動を実施

水源における取り組み

原料生産

水ストレスの高い地域における水消費量の多い重要原料※3を特定し、その生産における水使用効率の改善をサプライヤーと協働で推進

  • 再生農業による大麦生産の取り組みの一環として、土壌の保水性向上による水使用効率の改善に関する検証をサプライヤーと協働して開始
  • ブラジル・セラード地域のコーヒー農家に対して、再生農業を通じた水利用の評価・支援等を行うパイロットプログラムの構築を開始

原料生産に関する取り組み

水の啓発・安全な水の提供

水に関する啓発プログラムに加えて、安全な水の提供にも取り組み、合わせて500万人以上に展開。

  • 累計107万人に展開
    次世代環境教育「水育」などの水啓発プログラム:71万人
    安全な水の提供:36万人

水の啓発に関する取り組み

  • ※1
    製品を製造するサントリーグループの工場
  • ※2
    2015年における事業領域を基準とする
  • ※3
    コーヒー、大麦、ブドウ

水に関する実績は「実績データ一覧」をご覧ください

世界での水源涵養の取り組み
世界での水源涵養の取り組み

<日本> サントリー天然水の森

「地下水」の安全・安心と、サステナビリティ(持続可能性)を守るために、サントリーグループでは、『国内工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水』を、工場の水源涵養(かんよう)エリアの森で育む、「サントリー天然水の森」活動を行っています。
良質な地下水を育む森は、生物多様性に富んだ森です。森林が本来持っている機能を回復すれば、そこに生育する動植物相にも変化があります。「天然水の森」では、鳥類を含む動植物の継続的な生態系モニタリングによる計画的な管理を行っています。
環境のバロメーターといわれる野鳥たちに注目することで、彼らを支える生態系全体の変化の状況を総合的に把握できると考え、専門家による野鳥調査を毎年行っています。 また、国内すべての「天然水の森」において、生態系の最上位に位置するワシ・タカ類の営巣・子育ての実現を目指した「ワシ・タカ子育て支援プロジェクト」を進めており、「天然水の森」を鳥類の目から見つめ、生物多様性豊かな森づくりを進めることを目指しています。

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