バーでお酒を飲んでみたいけれど、扉を開くことができない、という声をよく耳にします。
きっと、上質なお酒を心地よく味わうことよりも、照明を抑えたしっとりとしたオーセンティックな雰囲気の先入観が大きく立ちはだかり、気後れしてしまうのでしょう。未体験の方の、敷居が高く身構えてしまう、という気持ちは理解できます。
このサイト内でカクテルエッセイ『オンドリのしっぽ』を連載され、ウイスキーやスピリッツをはじめとした酒類やバーにも造詣が深いコピーライターの達磨信さんはこうおっしゃいます。
「高級とされるレストランや寿司店なども敷居が高く感じられはずですが、それらのお店には行ったことがあるのに、バーはちょっと、という方がいらっしゃいます。でもバーで過ごす時間も同じです。たしかに非日常の空間ですから、それなりのスマートな振る舞いは必要でしょうが、美味しい時間を楽しむことに変わりありません」
バーテンダーがつくり出す一杯からさまざまな想いが浮かんできたり、バーテンダーとの会話が弾んだりと、日常にはない時間を過ごせるともおっしゃいます。さらには照明が抑えられたなか、カウンター席で過ごす時間には精神的な効用も期待できると教えてくださいました。
文・達磨信
常に自分をプレゼンテーションしつづける時代。ビジネスだけでなくプライベートにおいてもさまざまに他者との関連が生じる時代。ストレスが積み重なることがままある。
フラストレーションを溜めないためにも、現代人には“独り”(ひとり)になる時間はとても重要になる。そこでバー。独りになって自分を見つめ直す場としてバーは最適といえるだろう。臨床心理士の方々が書かれた本のなかに、“独りで行ける酒場を見つける”ことをすすめる文章もあるほどだ。
とくにカウンター席には癒しの効果があるという。ほの暗い照明のなか、ゆったりとグラスを傾けながら自分を見つめ直し、本来の自分を取り戻すことができるというもの。上質なお酒がもたらす心地よさとの相乗効果によってリラックスしていくことで、気分をリフレッシュできるそうだ。
また二人の場合、カウンター席の横並びもリラックス効果が高い。テーブル席で真正面に向き合う関係が必ずしもよいとは限らないともいわれている。
カウンター席で隣り合い、互いが同じ方向、前方のボトルが並ぶバックバー、あるいは夜景を眺める。会話をしながら時折、顔を相手に向けたりグラスを見つめたり。そしてお酒を口にし、再び前を見つめることで自分自身と向き合うことができるらしい。二人、同じ空間、時間を共有しながら、独りの自分も存在することになる。
すると、相手と会話しながらも、自分とも対話できる状況になる。自分のこころとも会話しながら、相手の話もいつもより深く聴くことができるという。
仕事仲間、友人、あるいはご夫婦や恋人の関係で、最近うまくコミュニケーションが取れていないな、と感じられたら、バーのカウンター席での時間を過ごしてみるといいだろう。
そしてバー入門者の方たちには独りで寛げる行きつけのバーを見つけて、カウンター席での時間を過ごしていただきたい。しなやかな接客と上質なお酒のある非日常の空間で、自分を取り戻そう。