いよいよ放映開始のアニメ『バーテンダー 神のグラス』。私たちサントリーも制作協力として、ともに作品の魅力や素晴らしさを伝えていきます。バー・バーテンダーの間で“バイブル”の呼び声も高い原作漫画『バーテンダー』を、いま再びアニメ化した狙いはどこにあるのか。プロデューサー・中澤貴昭さんに、サントリー・荒木由香がうかがいました。
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中澤貴昭さん(左)
TOHO Global株式会社 戦略本部 企画・製作グループ
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荒木由香(右)
サントリー株式会社スピリッツカンパニーRTD・LS事業部 事業開発部 課長
今こそ「魂を癒す場所」バーが必要
荒木:原作『バーテンダー』は過去にアニメ化、ドラマ化されたことのある名作ですが、今回のアニメ化にあたってはどのような思いがあったのですか?
中澤:おっしゃるとおり、原作『バーテンダー』は、過去に何度か映像化されていますし、続編はありますが、漫画の連載は2011年に終了しています。でも私は、今の時代にこそこの作品に注目していただきたいんです。
荒木:今の時代にこそ、ですか?
中澤:はい。「バーは魂を癒す場所」という意味合いの言葉が原作である漫画『バーテンダー』に登場します。コロナ禍を経た今、“魂の癒し”を求めている人はますます増えている、そう感じます。一方で、近年、何人もの日本人バーテンダーが世界で活躍し、注目を集めています。そうした最近の動きもあわせて、今の時代にあらためて映像化したいと思ったんです。そしてなによりも、私自身が原作『バーテンダー』の大ファンなので(笑)、この作品をもっと世の中に広めたいという気持ちが一番大きかったかもしれません。
荒木:コロナ禍を体験したことも、原作『バーテンダー』のアニメ化につながったのですね。
中澤:お店を閉めなくてはならず、大変な思いをしているバーをたくさん見てきました。そこで、休業中もいつもと同じ時間に出勤し、リズムを崩さないようにしているバーテンダーさんがいたと知りました。原作に登場するセリフの通り、バーテンダーって、「仕事」というより「生き方」に近いんだなと感銘を受けました。バーテンダーの生き方については原作のメインテーマのひとつでもありますし、それを改めてアニメを通じてお伝えできれば、と思っています。
アニメをきっかけに、世の中にもっとバー文化を広げたい
荒木:中澤さんがこの企画を私たちサントリーに持ち込んできてくださったこと、本当に感謝しています。私も原作『バーテンダー』が大好きだったので驚きました。なぜ私たちに声をかけてくださったんですか?
中澤:今回、アニメの世界をリアルでも追体験してほしいという思いがあります。作品の世界にとどまるのではなく、実際にお酒を手に取ったり、バーに足を運んだり、世の中にそういった体験も含めて広げるキッカケを一緒につくってくださる会社はどこか。最初に頭に浮かんだのがサントリーさんでした。お酒をつくるだけでなく、文化として発信し、広げている。まさに今回の企画にぴったりです。
荒木:ありがとうございます。私たちサントリーは、1931年に現在の「カクテルアワード」の起源ともなる国内初のカクテルコンクールをはじめました。長きにわたって、バーとともにあり、バー文化を支援させていただいてきました。コロナ禍でバーの皆様も苦しまれている中、私たちに何ができるのかと思っていた時にいただいたのがこのお話です。アニメであれば、国内だけでなく、世界中に日本のバーの魅力が伝わるのではないかと大きな可能性を感じました。私たちだけではできないことを実現する機会をいただけたと思っています。
中澤:作品にリアリティを与えることも重要で、そういう部分でもサントリーさんにご協力いただきました。
荒木:お忙しい中、みなさん都合をつけて山崎蒸溜所や大阪工場にきていただきましたよね。「サントリー ザ・カクテルアワード」も取材いただきました。本当にありがとうございます。
中澤:山崎蒸溜所では、まず歴代の工場長がこれだけいらっしゃるという……100年という歴史に圧倒されました。また、椎尾神社や「利休の水」、3つの川が合流する場所も見せていただき、あの場所に蒸溜所があることの意味がよく理解できました。大阪工場でも、普段の見学ルートにはない場所も拝見させていただき大変勉強になりました。
バーを、暮らしの中で、もっと身近に感じてほしい
荒木:先ほどバーテンダーの「生き方」のお話が出ましたが、中澤さんはバーテンダーという仕事をどのようにとらえていらっしゃいますか?
中澤:液体を混ぜて提供する仕事、というとそこで終わってしまいます。でもバーに通えば通うほど、一杯のカクテルに込めた想いや工夫を知ることができる。知ることで凄さがわかるし、楽しくなってくる。バーでの体験を通してバーテンダーの仕事の奥深さを知りました。
荒木:私もよくバーへ伺いますが、バーテンダーさんの「一杯」への向き合い方は本当に凄いですよね。
中澤:銀座の名店「ガスライト本店」に取材にうかがった時の話です。マティーニをつくるとき、100回くらいステアしていると、ある瞬間に香りが「ふっ」と立ちのぼってくる。そこでステアをやめる。だからステアのときにはあまりお客さんと会話をしないとおっしゃっていました。それくらいストイックにカクテルと向き合っているんだと、とても印象に残っています。
荒木:私たちメーカーがお酒をつくって、それをバーテンダーの皆様に「調理」していただいてはじめてお客様に届く。バーテンダーの皆様がいらっしゃらなければ、お酒の魅力も引き出せないし、そもそもお客様の口にも入らないかもしれない。あらためて、バーテンダーの皆様の存在はとても大切ですし、大変感謝しております。この作品を通じて、もっと多くの方々にバーやバーテンダーを身近に感じてもらえたらうれしいです。
中澤:実際、うれしいときやつらいときに行けるバーを何軒か知っていると、日々の暮らしの中で役立つんですよ。バーで心のトゲを抜いてもらうと、明日もまた頑張れたり、うれしいことはじっくり噛み締めたり。「かかりつけ医」みたいな感じで、気軽に行けるバーを見つけてほしいです。
荒木:バーって、ひとりで訪れても、決してひとりではないですよね。バーテンダーさんがいて、適度に放っておいてくれたり、時にはじっくり話を聞いてくれたり。バーテンダーさんのおかげで、いい距離感で人と人とが心を通わせることのできる場所になっているのだと思います。
中澤:アニメ『バーテンダー 神のグラス』は、まず初めにバーという場所があって、バーテンダーという人がいて、そこに人間ドラマがある。お酒の知識やうんちくは二の次です。構えずに楽しんでもらえればうれしいですね。サントリーさんのご協力のおかげで、アニメで登場したお酒や場所を実際に体験できる機会を広くつくることができましたので、ご覧になった方は、ぜひ行ってみたり、飲んでみたりしてほしいです。
荒木:お酒やバーがリアルに描かれているので、実際に体験もしていただきたいですね。また、これだけ丁寧に取材していただいていますから、実際にアニメになにが登場するのか、楽しみにしていただきたいと思います。そしてなにより、アニメ『バーテンダー 神のグラス』を通して、日本のお客様はもちろん世界中のお客様に日本のバーやバー文化について関心を持っていただけると、とてもうれしいです。中澤さん、今日はありがとうございました。