サントリー ワイン スクエア
フランスの2015年の幕開けは、衝撃的なテロとなってしまいました。事件そのものもさることながら、翌日にはフランス各地で推定350万人もがデモ行進をしてアンチ・テロと表現の自由を行動で示した事に、改めてフランス人気質を見た気がします。ボルドーでも推定12万人がカンコンス広場を埋め尽くした様子が翌日の新聞一面を飾りました。フランス魂は健在!です。
さて、そんな状況下でも2014年産アッサンブラージュは粛々と進められています。間が空いてしまいましたがヴィンテージ2014の収穫状況から始めましょう。8月の報告では、涼しく雨がちな夏であったため9月からの好天を期待すると述べましたが、9月はまさにミラクルな天候となりました。8月末から夏のような好天が一か月以上続き、9月の平均気温は平年より2℃以上高く、雨が降ったのはわずか2日のみで、日照時間に至ってはもともと晴天率の高い9月の平年を30%も上回りました。降水量はボルドーで20mm、ラグランジュの雨量計ではわずか9mmという乾燥した天候が続いたのです。
白の収穫は9/3-11の好天の下で行われ、フレッシュな酸を持つ良好な葡萄が収穫できました。8月の段階では黒葡萄の収穫は10月に入ってからのスタートを覚悟していいました。しかし、嬉しいことに、9月のミラクルな好天で葡萄の熟度は一気に遅れを取り戻しました。メルロは9/25の開始となりました。好天すぎて、樹齢が若く根の張りが浅い区画の一部で極度の乾燥に耐えられず果粒が萎み始まった樹が出て来たからです。天気予報は引き続き好天の予想でしたので、慌てる必要はありません、まずは縮みの始まった樹だけを収穫しました。その他の区画は毎日毎日、畑で葡萄を口に含んで熟度を確認しながら、ピンポイントでの適期収穫を実行していきました。10月に入っても安定した好天が続き、カベルネ(写真2)は、満を持して10月7日に収穫を開始。その後若干の雨はあったものの、9月の乾燥で皮が分厚くなっていたため腐敗の心配はまったくなく、笑顔で17日の収穫終了を迎える事が出来ました。収穫期間23日はこれまでの最長記録で、土日も休まず14日間で一気に収穫した昨年とは好対照です。2011年、12年、そして13年と3年続きでの『造り手の技量が試された年』のあと、ようやく生産者の顔に笑顔が戻ったヴィンテージと言えそうです。
アッサンブラージュは1月7日に開始しました。12日、15日と計3回のアッサンブラージュを経て、ほぼ骨格が固まりました。昨年末よりメドック著名シャトーでのアッサンブラージュを既に進めていたコンサルタント、ボアスノ氏によると、『ヴィンテージ2014は偉大な年とまでは言えないものの、良年を遙かに上回るヴィンテージとして認識している。具体的に挙げるなら、2005、2009、2010年のレベルではないものの、2006もしくはそれを上回るレベルだろう。』との事でした。収穫量は残念ながら少なめでしたが、品質は十分期待できるレベルと思いますので、2年後を楽しみにお待ちください。
なお、このヴィンテージのトピックとしては、シャトーもののカベルネ比率が2000年同様76%と、ラグランジュ歴代で最も高いカベルネ比率となりそうなことです。一方で、シャトーものにブレンドされるメルロの品質も秀逸で、ロットによってはIPT(タンニン総量の指標)がカベルネを上回るという、極めて珍しい現象が見られています。個人的には、2006年の強いタンニンにふくよかな旨味を加えたような仕上がりと感じており、ボアスノ氏のコメントに納得しているところです。プリムールで皆様がどのように評価されるのか、今から私も楽しみにしております。
椎名敬一
葡萄栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。