サントリー ワイン スクエア
年が明けてから少々時間が経ってしまいましたが、今年初めての原稿です。本年もよろしくお願いします。
こちらではクリスマス前から早々と休暇に入る人が多いのですが、そのかわり、新年に入ると正月気分に浸ることもなくすぐに仕事が始まります。というわけでラグランジュも今年は早くも1月2日から仕事が再開しました。
気候のほうはというと、ずっと雨が多く暖かい冬が続いていました。12月の平均気温は平年よりも2.4℃高く、また降水量は平年の1.7倍多かったという状況(175mm)で(ちなみに11月の平均気温は観測史上最高=平年+3.6℃でした!)、ぶどう樹はすっかり葉を落としたものの、樹体内にはいまだ樹液が残った状態でした。例年になく暖かい年末年始が過ぎ、1月の中旬になってようやく平年並みに気温が下がってきました。
さて、醸造所内でクリスマス前まで一生懸命やっていたことのひとつは「年末の大掃除」でした。秋の収穫時に使用した機器すべて(タンク・ポンプ・ホース・パッキン・床…などなど)にこびりついた酒石や赤ワインの色素を落としてきれいにし今年の秋再び出番がやってくるのに備えます。
ワインづくりに使用する器具はすべて、衛生上の理由からきれいにしておく必要があります。現場で作業する人にとっては当然の認識です。さらに、彼らの間でもう一つ徹底しているのは“醸造所はお客様が見たときに、常に整然として「美しく」あるべきである。”という意識です。たとえば、セラーに並んでいる樽はきちんと端の位置が揃い、樽同士は全て等間隔で並んでいないといけないのです。ちなみに、どうやって正確に並べると思いますか?それは・・・
まず空の樽を並べる前に、通路に対して平行に凧糸を張っておきます。その凧糸に端がまっすぐ接するように樽を等間隔で並べていきます。(※写真1:参照)さらに、その上に2段目の樽を積みます。このとき、1段目の樽に対して端の位置が揃っているのはもちろん、樽の角度が地面に対して水平、垂直になるよう特製の器具(自前で製作したものです)で測定しつつ、しっかり位置を合わせていくのです。(※写真2:参照)これが終わってはじめて、ワインを満たす作業に入ります。
当初、正直「そこまでするのか!?しかも大雑把なフランス人が・・・」と思いました。しかし、作業の結果、長い通路に整然と並んだ樽を見て「うーんさすが、美しい!」と納得したものです。(※写真3 :参照)大雑把そうに見えるフランス人も自分がこだわりを持っていることについては徹底的にやるようです。
さてもうひとつトピックを。
1985年に設置されたぶどうのレセプション(収穫したぶどうを、除梗・破砕のために受け入れを行う場所)が長い間のお役目を終えることになりました。
タイルで出来た美しいぶどう柄のレセプションは、(※写真4 :参照)実に25年もの間、ラグランジュのぶどうを受け入れてきた伝統の設備です。設置当時は、どこのクリュクラッセのシャトーでも、選別は畑で手摘みするときに収穫人がおこなうもの、という認識で、収穫したぶどうをさらにもう一度選別するという発想が未だ無い時代でした。近年は破砕機に送る前にもう一度選別し病果や果梗片を取り除いて、できるだけ品質の良い、きれいなぶどうのみを使うことが非常に重要であるという認識に変わってきています。
ラグランジュでは3年前から最適な選果方法の検討を重ねてきました。別の場所に臨時のレセプションを設置し、ぶどうを粒単位にしてから目視で選別したり、光センサーに通して選別したりと、様々な実験を行いました。そして今回この25年来のレセプションを一新して、試験結果から現時点で最善と判断される、光センサーによる選果装置を備えたレセプションを新たに2ライン設置することになったのです。一度選果から二度選果。しかも房選果から粒単位、しかも、悪いぶどうを取り除く選果から良いぶどうだけを選りすぐる選果に変えたのです。
これにより、選別されるぶどうの品質や処理能力が飛躍的に向上することが期待されます。
すでに工事が始まり、ぶどう柄の特徴的なタイルは全て外されてしまいましたが、そのうちの一部はしっかりと保存され、その歴史と記憶が語り継がれていくことになります。
今年の秋の収穫から使用される予定の新しい、かつ美しく機能的なレセプションについては完成後にまたご紹介できるかもしれません。請うご期待。
※現在シャトーラグランジュの販売は(株)ファインズで行っております。
詳しくは(株)ファインズのホームページをご覧下さい。http://www.fwines.co.jp/