サントリー ワイン スクエア

新年への光明

新年明けましておめでとうございます。雨がちながら暖かい11月に続き12月に入っても15℃を越える異常な暖冬となっていたのですが、12月中旬より一気に寒波が訪れ、18日にはボルドーも雪化粧となりました。年が明け、今日1月6日も朝から3cmほどの積雪があり、例年になく雪の多い年末年始となっています。実は今回、この記事は自宅で書いています。ボルドーは温暖な海洋性気候に守られ、雪が降るのは年に1~2度程度ということもあり、雪が降るとボルドーの交通網は大混乱となります。ラグランジュはボルドーから45Kmも離れており、しかもメドック地区は見た目以上に起伏があるため、雪の日にラグランジュまでチェーンなしで車を運転するのは自殺行為と言えます。ということで、今日はゆっくりと2009年を振り返り、自宅で記事を書くこととした次第です。

振り返りますと、2009年はリーマンショック以来の世界的な経済危機の嵐に揺さぶられ、まさに大荒れの一年でした。とはいえ、高価なブランド品としての側面も持つグランクリュ・ワインにとって、こうなることは既に予想された事態でもあります。年初には、まず格付け第1級シャトーとスーパーセカンド(格付けは第2級だが、第1級シャトーに匹敵するワイン)が厳しい洗礼を受けました。わずか数ヶ月のうちに価格が半額にまで暴落し、シャトー・ラトゥールが売りに出るというセンセーショナルなニュースでボルドーに激震が走りました。イギリスなどが、法改正によりワインを年金ファンドの運用対象に出来るようにした事が、ワインを投機化させた一因とも言われています。同じグランクリュでも、ラグランジュなどが含まれる『投機対象ではなく、飲んで楽しむ価格帯』への影響は、2009年前半では-15%程度と限定的だったと言えます。しかし景気の回復のスピードが遅いことが明らかになるにつれ、その影響はじわじわと効いてきて、2009年半ばからは25%程度の価格ダウンを余儀なくされました。

そして、ラグランジュでは8月に、鈴田さんの訃報が届くというショッキングな出来事も重なりました。こんな重苦しいムードを徐々に和らげてくれたのは、ヴィンテージ2009の収穫への期待感でした。当初は『9の付く年は当たり年になる』というジンクス頼りの淡い希望、そして鈴田さんへの贐(はなむけ)としたいという強い願望のみが支えでしたが、収穫直前まで続く好天から、それは徐々に確信へと変わってきました。収穫終了後の巷では、『30年に一度の・・・』や、『2005年を超える・・・』など、来年のプリマーに向けたアドバルーンも打ち上げられるようになってきています。皆が期待するようなミレジムとなるかは現時点ではわかりませんが、少なくとも鈴田さんが20年にわたり築いてくれた土台が今、大きく花開きつつあることを証明できる、かなりの良年となった事は間違いないと思います。

さて、それでは2009のアサンブラージュ(ブレンド)の進捗状況をご報告しましょう。
昨年は2008年産ワインが歴史的に遅い収穫となったことから、例年では12月中旬に始められるアサンブラージュも、1月上旬の開始となりました。これに対しヴィンテージ2009は平年より若干遅い程度の収穫でしたので、例年同様12月中旬にアサンブラージュを開始しています。既に2回のテイスティングと試作を行い、徐々に全体の骨格が見えつつある段階です。ヴィンテージ2009の特徴を一言で表すなら、ぶどうが良く熟しているため畑の区画ごとの品質の差が非常に小さいことと言えます。シャトーものの生産比率を上げようと思えば出来ない事はないのですが、ラグランジュではこれまでどおり量より品質を追求する姿勢は貫き通すつもりでいます。従って、シャトーにもなりうるロットが多く使用されるレ・フィエフの酒質が、例年よりかなりスケールアップされることが期待されます。レ・フィエフはここ数年、樹齢の高まりとともに熟成にも耐えうる酒質になりつつあるのですが、今年はレ・フィエフの熟成ポテンシャルを推し量る良い機会となりそうです。

最後に、新年こそはヴィンテージ2009がもたらした一筋の光明が大きく開いていくことを期待しつつ、今年も地に足のついた地道な活動を積み重ねていく事を改めて誓うとともに、2010年が皆様にとって素晴らしい年となります事を心よりお祈り申し上げます。

季節はずれの12月10日に採れたセップ。12月前半の異常気象の証明。
季節はずれの12月10日に採れたセップ。12月前半の異常気象の証明。
雪化粧となった1月6日のボルドー市内。
雪化粧となった1月6日のボルドー市内。
ヴィンテージ2009アサンブラージュの様子。
ヴィンテージ2009アサンブラージュの様子。