サントリー ワイン スクエア
2005ヴィンテージという世紀の宴に酔った2006年から年が変わり、各シャトーで2006ヴィンテージのアサンブラージュ(ブレンド)が終盤に差し掛かるに連れ、業界内での話題も2006ヴィンテージに移ってきました。はたして2006ヴィンテージは宴の後の単なる調整役の年となるのか?それとも主張する強い個性を備えたミレジムと成り得るのか?…です。
まだ表立ってミレジムについて語る声は聞こえてきません。…が、各シャトーでのテイスティングを体験したクルチエ(※1)からは、興味深いコメントが聞こえ始めてきています。大枠での今ミレジムの特徴は、少なくともメドックに関しては前号にて報告したラグランジュでの感触、すなわち『タンニンの質が非常に固いクラシックな年』となりそうな感じです。ただしタンニン自体は良く熟していますので、『畑の管理から醸造まで丹精込めて造りこんだワインでは、サプライズがあるかもしれない』とのことでした。
ラグランジュでは、1月10日に、ほぼアサンブラージュの最終骨格が決まりました。シャトーものの生産数量は、平年より15%ほど少なくなりそうです。比較参照する年として想定した2004年と同等のレベルを目指すのであれば、平年並みの生産量も可能な状況ではありましたが、もしミレジムの個性を主張できるレベルを目指すのであれば、敢えて量を絞り込む必要があると判断しました。悩んだ末の決断でしたが、これから1年半の樽熟成を経てどんな答えを出してくれるのか、あとは見守っていくしかありません。私にとって3回目となるこのミレジムは、非常に悩まされるミレジムでした。
さて、今日はもうひとつ別のテーマ『ボルドーのワインクラブ』について触れてみます。ボルドーでは、気の会う仲間が集まって、ワインのテイスティングや研修旅行などを行うワインクラブのようなグループ活動が各地、各階層に存在し活発に活動しています。その中でも活動が活発なことで知られる、とあるワインクラブから、年末にラグランジュワインのテイスティング依頼がありました。このクラブは、ボルドー著名シャトーのオーナーや有力ネゴシアン、そしてクルチエなど約15名で構成されるクラブで、2ヶ月に一度程度、有力シャトーにて正装での晩餐会&テイスティングを企画しています。こういったクラブがラグランジュを指名してくれたことはたいへん光栄な事でしたので、シャトーでの晩餐会として受ける事としました。
会は、ラグランジュの16ヴィンテージを4つのグループ(①慎ましい年、②個性のある年、③クラッシックな年、④グロリアスな年)に分け、料理4品にそれぞれ各4種のワインをブラインドでサーブし、ヴィンテージを当てるという趣向で行われました。タキシードでシャトーでの晩餐会、しかもブラインドテストということが醸し出す独特の雰囲気の中、16本のワインはそれぞれがミレジムの個性をグラスの中いっぱいに主張し、皆を堪能させてくれました。買収後20年にわたり、ミレジムの個性、そしてそのバックボーンとしてテロワールの個性をきっちりと主張するワインを造り続けてきたことが、ラグランジュをボルドーの仲間として一歩ずつ認めてもらってこられたことに繋がっているのだと改めて実感できました。
さて、2006ヴィンテージは、主張する強い個性のあるミレジムになってくれるでしょうか?1991年、そして2001年など、グランミレジムの翌年は、どうしても宴の後として軽視されがちですが、造り手として私たちは、個性を最大限引き出せるよう、細心の気配りで樽での育成を継続していきたいと思います。
椎名敬一
ぶどう栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。