サントリー ワイン スクエア
いよいよ2004年産のプリマーのオファーが始まりました。今年のプリマー販売に関しては、1)ビッグイヤー2003年の翌年であるためアメリカは購入量を減らす、2)ユーロ高が輸出全般の足を引っ張る、3)ボルドーの過剰在庫状況に2004年の豊作が重なった、ことなどから、業界では価格は下落方向であるというコンセンサスが出来あがっており、興味は既にその下落の程度に移っているといえます。昨年遅い方でオファーしたシャトーでは、30- 100%アップという無理な値付けで売り残したシャトーも多く、こうしたシャトーでは半値になるところもあると言われており、一方、適正なレベルで値付けしたシャトーでも5- 15%ダウンは避けられず、2002年レベルを維持できるかが一つの目安とも言われています。特に右岸エリアではここ数年、実態よりも高く値付けされてきた反動もあり、2002年を大きく割り込む値付けも散見されています。
品質に関しては、フランスで影響力のある雑誌『Le Point』のテイスター、エストューヴ氏がオンラインサイトの記事の中で、ボルドー2004年は2003年とタイプが異なるが、1982、1990、1996年に似たスタイルで2003年にも負けないポテンシャルであるとコメントしていました。2004年のキーワードは『クラシック』で、すなわち長期熟成後に花開くタイプとも言えるため、購入側の立場からは慎重になる年ともいえます。プリマー価格には品質が反映されるのはもちろんですが、購入する側(ネゴシアン等)にとっては大事な資金を将来に投資するものですから、商品相場同様、需給バランスや為替レート等も大きく影響しますし、長期熟成型はそれだけギャンブル性が高まりますので、市況の悪い環境下では、ネガティヴに影響します。アメリカのカリスマ評論家、パーカー氏は、90点を超えた67シャトーの評点を4月末に発表しましたが、全シャトーの評点は6月以降の発表となるため、プリマーへの影響力は昨年より小さいようです。
さて、現時点までの結果はといいますと、5/13時点で約90シャトーの売り出しが開始されました。現時点で完売できているシャトーは1割にも満たないとのことで、厳しい市況となっているようです。今後のネゴシアンの動きとして、著名シャトーに関しては次年度以降のアロケーション確保のため購入しても、その他のシャトーに関してはかなり慎重になってくる可能性が高く、売り出すシャトー側へは値付けに関して更なる下方圧力がかかって来ると想定されます。ラグランジュでも13日(金)にオファーを開始しました。リーズナブルに設定した昨年価格を5%下回る価格ですが、ベンチマークとして意識される2002年よりは上のレベルでのオファーとなりました。これまでも変動幅の少ないリーズナブルな価格でのオファーを心掛けてきたラグランジュの姿勢を評価してもらえればありがたいのですが、さてどうなりますことやら。
最後に、ぶどうの生育状況報告です。3月上旬の寒波、および4月中旬の低温により、ぶどうの萌芽や生長は平年より約1週間遅れとなっている感じです。また、4月8日、15日、16日には続け様に1cm大の雹が降り、肝を冷やしました。15日の雹ではラグランジュでもメルロの畑の一部で葉に損傷がみられたが、幸い生育が遅かった故に開いている葉が少なく、軽微の被害で収まりました。ただし柔らかい幼葉に傷が付きましたので、ベト病やうどん粉病などの原因にならないよう、畑の管理には細心の注意を払っていきます。やはり、ワインづくりの基本は農業です。
椎名敬一
ぶどう栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。