ティスティング会のメンバーからも、「素直に美味しく、品格があるチーズだ」と高評価。ブルゴーニュが誇るこのチーズに合わせるワインとして選ばれたのは、同郷の名門ドメーヌ、ブシャール ペール エ フィスが手がける「ブルゴーニュ ピノ・ノワール “ラ ヴィニェ”」です。ブシャール ペール エ フィスは1731年、ミッシェル ブシャールによってボーヌの街に創業。当初は織物商としてのスタートでしたが、息子ジョセフの代にワイン業にも参入し、1775年には現在の1級畑にあたる優れた区画を購入。醸造元でもありワイン商でもあるという、今日まで続く会社形態の礎を築きます。1789年のフランス革命で、それまで協会や貴族の所有だったブドウ園が国に没収され、民間に払い下げられ始めると、3代目のアントワーヌ フィリベールは、優秀な畑を購入しつづけ、会社は大躍進を遂げます。現在では、他の追随を許さぬ大ブドウ園主に成長。ブルゴーニュの伝統を担って来た名門として、常に進化し続けています。
現オーナー、ジョセフ アンリオ氏が求める「理想のワイン」とは、まず何よりも「ひとつひとつの畑の個性が忠実に反映されていること」。そのためには、伝統的な農法で畑の土壌を活性化し、同時に収穫量をぎりぎりまで制限することが大切です。こうして凝縮味を増したブドウを熟練した摘み手が一房一房、手で選別しながら収穫。醸造槽に入れる前に、もう一度テーブルの上で選果するという厳密な工程がとられています。
この「ラ ヴィニェ」は、コート・ドール産のピノ・ノワールを100%使用。透明感のある明るい赤色、小さな果実のような繊細なブーケ。果実味とほのかな樽香とのバランスが絶妙です。合わせる「アベイ ド シトー」は食べる前によく室温に戻しておくと、より香りが立ち口溶けも良くなります。どちらも華やかというよりは、一歩引いた謙虚な印象。しかし合わせてみると、チーズのミルキーさがピノ・ノワールのベリー系の要素を引き上げてくれます。そして一瞬時が止まったかの様な静寂を与えてくれる、落ち着きのある組み合わせとなります。大切な誰かと語り合うとき、もしくは家族を思いながら一人センチメンタルに、秋の夜長を静かに過ごすときには、これ以上無いお供になってくれそうです。
もう一つ、遊び心ある組み合わせとして満場一致で選ばれたのは、「ボッラ アマローネ デッラ ヴァルポリチェッラ クラシコ」です。イタリア ヴェネト州ヴェローナの町にあるボッラ社は1883年創業の歴史ある名醸造所です。アマローネとは、苦みの意。収穫した房を翌年の2月中旬まで陰干しし、半乾燥状態にして糖度を高めたブドウを醸してつくる最高級品です。紫がかった濃い赤色。グラスを近づけると、ドライフルーツやコンフィチュールのような濃縮した果実の華やかな香りに包まれます。ヴァルポリチェッラの法的熟成期間は2年ですが、ボッラ社のものは最低4年の逸品です。派手ではないけれど確かな存在感がある「アベイ ド シトー」と合わせると、チーズの表皮の香ばしさと「アマローネ」のトロリと甘くほろ苦い味わいが重なり合い、心地よくビターでスモーキーな味わいに。どちらかと言うと真面目で優等生的なイメージの「アベイ ド シトー」ですが、「アマローネ」により大変身。大人の恋のような妖艶なマリアージュを楽しませてくれます。
コート・ドールのブドウの丘がその名のごとく黄金色に輝く頃、日本もあちこちで紅葉の見頃を迎えるでしょう。収穫の秋。天の恵に感謝を込めて、至高のワイン&チーズを御堪能ください。