今月ご紹介するのは、コニャックの産地として有名なフランス西部ポワトゥー シャラント圏で作られるドーム型の山羊乳チーズ「トピネット」です。名前の意味はフランス語で「小さなモグラ塚」。モグラ???そうです、あの土の中で生活をしているモグラです。彼らは地中に巣穴を掘る際、地表に土をモコモコ盛り上げてモグラ塚を作り出しますが、「トピネット」はまさしくこのこんもりとした形に見立てられています。「トピネット」の表面は灰色で覆われており、その正体は木炭。シェーヴルの酸味を和らげ、湿度を吸収し熟成状態をよくする効果があり、表皮ごと食べることができます。
フランスでは山羊乳チーズをシェーヴルと呼び、小さな子どもからお年寄りまで全ての世代で日常的に食べられています。雌山羊が春から初夏にかけてミネラルたっぷりの若草を食べて質量ともに最高のミルクを出すため、シェーヴルはこの季節が旬。マルシェ(市場)には産地直送の作り立てが並び、街中のチーズ屋はこぞって種類豊富なシェーヴルを揃えます。
出来立てのシェーヴルはヨーグルトの様なしっかりとした酸味を持ちますが、熟成が進むにつれて、酸味が落ち着き後味にコクが出て来ます。その熟成段階による味わいの変化とともに、合わせるワインも変えられるのがシェーブルの面白いところです。
テイスティング会では入荷直後のトピネットだったため、
「今日のトピネットは若めの熟成で水分を多く含むため、軽い口溶け、際立つ酸味、淡白な味わいです。2週間ほどおいて熟成が進むとまた違った美味しさが楽しめます。」と説明の後にテイスティングスタート。
「これシェーヴルですか?こんなにフレッシュな状態のものは初体験です。今まで食べてきたシェーヴルのイメージと全然違って、とてもマイルド。」
と、シェーヴル再発見だと言う声が続出。
合わせるワインの中でメインに選ばれたのは、「トピネット」の産地から程近い、ボルドーの白ワイン「バルトン&ゲスティエ グラーヴ」です。約3世紀にわたる歴史と豊富な経験により裏付けられた確かな技術をベースに、フランス各地約250ものブドウ生産者とパートナーシップを結んで高品質で安定的なワインづくりを行っています。今では、イギリス、アメリカをはじめ5大陸130カ国以上で親しまれています。
「グラーヴ=砂利」という名の通り、小石の多いグラーヴ地区の土壌で育てられたソーヴィニヨン ブラン由来のフレッシュハーブを思わせる素直で爽やかな香り。そこにセミヨンの力強い骨格が調和したバランスの良いワインです。
ワインとチーズを合わせると、シェーヴル独特の絹の様な滑らかな口当たり、舌にねっとりと広がる旨味の上に、柑橘類のようなワインの酸味がアクセントとなります。また、ワインのその清々しい酸はシェーヴルの酸味ともマッチします。草原に吹く風のように爽やかな春のマリアージュに仕上がります。
「トピネットがもう少し熟成してくるとより相性が良さそう」
という意見が出た通り、深みのあるワインなので、「トピネット」も水分が少し抜けて、酸味が丸みを帯びたくらいの熟成状態だと、また違ったマリアージュが完成するかもしれません。
もう一つお勧めとして選ばれたワインは、ほんのり甘いスペインのスパークリング「フレシネ カルタ ネバダ」です。
フレシネと言えば、世界中で愛される、スペインを代表するカヴァ(スペイン産スパークリングワイン)のワイナリー。「カルタ ネバダ」は上品な透かしガラスのボトルに入っています。チャレロ、マカベオ、パレリャーダという3種類のブドウを均等にバランスよくブレンドし、12ヶ月以上の瓶内熟成をしている本格派。洋ナシや干したあんずの様な甘酸っぱくフルーティーな香り。ピーチを思わせるやさしい甘さやリッチでフルーティーな味わいがあります。ワインと合わせることで、チーズの香りが押し出されて、心地よさを感じます。「トピネット」からくる梅のような甘酸っぱい酸味を「カルタ ネバダ」の甘い泡が包み込み、まるで口の中で一皿のデザートが完成されるようです。
最後にフェルミエの代表、本間から興味深い裏話が。
「実はトピネットの生産者は、ピノ デ シャラント(ブドウ果汁にコニャックを混ぜ、醗酵を中断させた甘口白ワイン)も生産していて、ここの地元では土地のシェーヴルと合わせて飲む事もあるんですよ。」
なるほど、どおりで甘口ワインとも合うんですね〜と一同納得したのでした。
今までシェーヴルと聞いただけで避けていたあなた、この春はワインを味方に挑戦してみませんか?熟成の若い状態からチーズの表皮が乾燥して来る頃まで、合わせるワインも変えながら・・・。食わず嫌いだった事をきっと後悔しますよ。