サン・マルスランのふるさとは、冬はミストラルが吹き荒れるドーフィネ地方。夏は乾燥してしまう土地柄から、昔は山羊が飼われていました。つまり、本来は「サン・マルスラン」は山羊乳製のチーズだったのです。このチーズを一躍有名にした事件が1445年にありました。狩りに出かけ熊に出くわした、後のルイ11世となる皇太子を、地元のきこり達が助け、サン・マルスランを振る舞ったのです。皇太子はいたくチーズを気に入り、それ以来このチーズの名声は確立されたのです。
19世紀、鉄道が開通すると「サン・マルスラン」はボジョレーのすぐ南の都市、美食の町リヨンへと広まり、需要が高まっていきました。ついには山羊乳だけでは足りなくなり、20世紀には牛乳も用いられるようになっていきました。そして今日では「サン・マルスラン」といえば、牛乳100%をさすようになりました。
田舎生まれの「サン・マルスラン」をさらに有名にしたのは、地元の三つ星シェフ、ポールボキューズでした。彼は、リヨンの中央市場にあるチーズ屋さんのリシャールさんが熟成させた、トロトロのサン・マルスランを自分のチーズプラトーに並べ、多くの人に紹介したのです。いつしか「サン・マルスラン・アフィネ」はグルメの間に評判になっていきました。今日では表面が乾いたものよりも、すこし青カビがついているほどのアフィネ(熟成)が人気です。
という事で、ボジョレー ヌーヴォーとサン・マルスランは「リヨンで結ばれたカップル」というわけです。