今回のレシピは、山賊焼きです。山賊焼きがメジャーなエリアは2つあるようで、長野県の中部の塩尻から松本にかけてのエリアと山口県から広島県にかけてのエリアです。どちらも鶏をニンニクダレに漬け込んで豪快に調理した料理なのですが、長野県の塩尻から松本バージョンは揚げる料理で、山口県から広島県バージョンは焼きます。今回、鈴木都先生が塩尻バージョンをベースに山賊焼きをワインスクエア流のワインに良く合うレシピにアレンジしてくださいました。塩尻から松本にかけてのエリアの山賊焼きは、出自がはっきりしています。塩尻ワイナリーで早朝から仕事がある時は塩尻で前泊するのですが、その宿泊の時に良く使うホテル中村屋さんの目の前にある飲食店の元祖山賊で発明されたレシピなのです。発明したのは現在のオーナーのお爺様です。元祖山賊がまだ、松本食堂と言う名前だった時代に考案されたそうです。「元祖山賊焼」の大きな石碑がお店の敷地にあります。初めて山賊焼きを食べた時に「揚げているのに、何故、焼きなんですか?」とお店の方に尋ねました。すると「山賊は旅人から金品を『取り上げる』から『鶏、揚げ』ています」と説明され、なるほど!!と、膝を打って納得しました。帰りのあずさのなかで、「でも、それは山賊の説明だよなぁ・・・焼きの説明にはなっていないなぁ・・・」と気が付きましたが後の祭りでした。塩尻市の市役所のホームページにも山賊焼きの規定が書いてありました。「材料は骨付き鶏肉である事」「醤油だれに漬け込みニンニクを効かせる事」「片栗粉をまぶして揚げる事」の3要素が必須であると明記してあります。鈴木都先生のワインに良く合う山賊焼きは、漬け込みダレにワインとブルーベリージャムを入れます。この2つを入れる事でワインとの相性が劇的に良くなります。にんにくはみじん切りにして、鶏腿肉(出来れば骨付きの)を、ニンニク、しょうが、醤油、ワイン、ブルーベリージャム、粗挽きブラックペッパーに漬けます。漬ける時間は30分から1晩程度までが良いです。
出来上がった山賊焼きは、見るからにボリューム満点です。お皿からは香ばしいニンニクの香りと、ほのかにブルーベリージャムの甘い香りが漂ってきます。齧ると、カリカリを遥かに超越したバリバリとした食感で、山賊になった気分になれますね。
さて、この山賊焼きにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはサントリーフロムファーム 塩尻メルロでした。サントリーフロムファーム 塩尻メルロはJR中央本線の塩尻駅の目の前にあるサントリー 塩尻ワイナリーで醸されたワインです。塩尻ワイナリーは1936年の7月に開業しました。実は登美の丘ワイナリーをサントリーが引き継いだのは1936年の10月なので、ほんの数か月だけですが塩尻ワイナリーの開業の方が早いのです。赤玉はサントリーの創業者の鳥井信治郎の手で1907年に発売されました。当初は赤玉ポートワインという名前で、主にスペインから輸入された赤ワインを原料につくられていました。日本初のヌードポスターを作ったりして、赤玉は順調に数量を増やしていきました。第一次世界大戦が終わり、第二次世界大戦の足音が徐々に近づくにつれて、安定して輸入赤ワインを調達する困難さを感じていた鳥井信治郎は日本国内で赤玉の原料ぶどうを調達する道を模索していました。一方塩尻の五一ワインの林五一氏は、当時は共同組合桔梗ヶ原購買販売組合長をされていたのですが、コンコードの販売不振に悩んでいました。林五一氏は師匠であった川上善兵衛氏に相談したところ、鳥井信治郎との仲を取り持ってくれました。赤玉ブドウ酒ブドウ供給組合も結成され、赤玉の好調は第二次世界大戦後も続きました。赤玉がピークを迎えたのが1964年の事で、その数量は、なんと年間に168万ケースにもなっていました。1964年は東京オリンピックが開催された年です。選手村の料理長だった帝国ホテルの村上料理長がテレビで選手村のレシピを紹介したりして、日本人の食の洋食化が徐々に始まりました。その後1970年に大阪万博が開催され各国のパビリオンのレストランでは各国料理と各国のワインが振舞われ、洋風料理がどんどん受け入れられるようになったのです。日本人は、それまで赤玉のような甘い味わいのワインしか親しめなかったのですが、食の洋風化と共に本格的な辛口ワインも許容するようになってきました。甘味果実酒と果実酒の数量が逆転するのが1973年の事です。その頃、コンコードやナイアガラなどの甘味果実酒向けのぶどう園の面積は広大なものになっていました。サントリーやメルシャンではメルロやマスカット・ベーリーAの苗木を配布したりメルロの買い取り契約を結んだりして、本格的な辛口果実酒向きのぶどうを増やそうとしました。努力の甲斐があって、徐々に良い物が出来るようになり、「リュブリアーナ国際ワインコンクール」でシャトー・メルシャンが大金賞を受賞したり、洞爺湖サミットでサントリーの塩尻メルロが晩餐会に採用されたり、塩尻は日本のメルロの聖地となっていきました。今回イチオシに選ばれたサントリーフロムファーム 塩尻メルロは長野県塩尻市産のメルロを醸しました。グラスに注ぐと日本のメルロとしては、色が濃く、少し黒みを帯びたラズベリーレッドです。熟したさくらんぼのニュアンスや、小豆の皮、しっとりとしたシダ植物などを連想させる香りに、湿り気を帯びた土の様な落ち着いたアーシーさと、仄かに感じられる植物の新芽のタッチがあります。しっかりと完熟感のある果実味と、まろやかな酸味です。タンニンは、そこそこ量は多いのですが溶け込んでいて優しさがあります。バランスの取れた、実に塩尻らしい味わいを持ったメルロです。 山賊焼きを齧って塩尻メルロを飲むと、鶏肉の旨味が口一杯に広がります。
「旨い鶏ですね。有名な地鶏ですか?」
「いえ、普通の国産鶏です」
「タレに漬け込む事で旨みが肉に入っていくんですね」
「揚げられて焦げた皮の香りと、このメルロが抜群に合います」
「片栗粉がタレを吸って、それが揚げられて香ばしくなっています。その香ばしさが樽熟されたメルロと絶妙にマリアージュしていますね」
「ブルーベリーの果実感が鶏から、ふわっと立って、それを塩尻メルロが受け止めて押し広げて行きます・・・・・本当に美味しいです」
「ごっくんした後も、美味しい余韻がずっと漂うのです。とても心地良いです」
「ちょっと強めに振られた黒胡椒と塩尻メルロも、良く合っていますね」
皆様も、骨付き鶏腿が店頭にあったら、是非、このワインに良くあうワインスクエア流山賊焼きに挑戦してみてください。そしてサントリーフロムファーム 塩尻メルロとの素晴らしい相性をご体験ください。手羽元だと、もっとお手軽に楽しめます。少しニンニク控え目で、漬けタレにワインとブルーベリージャムを効かせると、ワインとの相性が抜群に良くなります。