今回のレシピは、仔牛のシュニッツェルです。シュニッツェルは肉を薄切りにして揚げた料理です。使われる肉は仔牛、豚、鶏、成牛、七面鳥など様々です。代表的なのはオーストリア料理のヴィーナー シュニッツェルで、名前の通りウィーンの名物料理です。ヴィーナー シュニッツェルは基本的には仔牛で作ります。ドイツとオーストリアでは、仔牛以外の場合は、ヴィーナー シュニッツェルとは名乗れません。必ずSchnitzel Wiener Art(ウィーンのシュニツェル風)と表記しないといけません。どうしてもヴィーナー シュニッツェルと表記したい場合は、Wiener Schnitzel vom Schwein/Pute/Huhn(「豚/七面鳥/鶏肉のウィーンのシュニッツェル」)のように原材料を明記せねばなりません。シュニッツェルはバイエルン・オーストリア語ではdas Schnitzerlと表記されます。シュニッツェルの語源は、古いドイツ語のsniz=薄く切るです。オーストリア料理のヴィーナー シュニッツェルは仔牛を薄切りにして、更に肉伸ばし用のハンマーや麺棒で叩いて薄くして、細かいパン粉を付けて、少量のラードやバターで揚げ焼きにします。揚げる時には、片面は1回限り火を通します。二度揚げは厳禁なのです。スペインやイタリア、フランスからドイツ、オーストリア、そして東欧からロシアやアメリカ大陸からオーストラリアからアフリカまで、それこそ世界中で愛されています。シュニッツェルはフランス、イギリスやスペインではエスカロープと呼ばれ、イタリアではコトレッタと呼ばれます。コトレッタ アッラ ミラネーゼは、特に有名です。ただ、歴史を遡るとコトレッタの方がシュニッツェルよりも遥かに古いようです。シュニッツェルの単語が文献に登場するのが19世紀なのですが、コトレッタ アッラ ミラネーゼはなんと12世紀です。しかも年月日まで正確に記録されているのです。ピエトロ ヴェッリは、彼の著書「ミラノの歴史」の中で、ミラノ風カツレツの起源に正確に結びついたエピソードについて記述しています。「1134 年 9 月17 日、サテュロスはサンタンブロージョ大聖堂のカノンにおいて、パン粉をまぶして揚げた仔牛料理をメイン料理にした宴会を催した」と言う記録があるのです。コトレッタ アッラ ミラネーゼは、伝統的には骨付きの仔牛ロース肉が使われますが、最近では骨無し、ひらひらバージョンが増えてきている気がします。ヴィーナー シュニッツェルに似た、骨無しのひらひらバージョンは、その姿かたちから、象の耳:oregia d'elefantと呼ばれます。
ヴィーナー シュニッツェルは仔牛の薄切りを更に薄くして、細かいパン粉を纏わせて、少量のラードかバターで揚げ焼きにした料理ですが、レモンを絞って食べる事が多いです。クランベリージャムを添える事も多いですが、赤ワインで合わせる時に美味しい工夫だと思います。
さて、この仔牛のシュニッツェルにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはロス ヴァスコス ソーヴィニヨン・ブランでした。ロス ヴァスコスはチリに移住したスペイン人により1750年創業されました。シャトー ラフィット ロートシルトを擁するドメーヌ バロン ド ロートシルト(DBR)はチリでワインを造ることを決め、銘醸地や生産者の調査を行っていました。その中で選ばれたのが、このロス ヴァスコスです。1983年からラフィットのテクニカルディレクターを派遣し、植え替えや水源の確保、畑の区画毎のミクロクリマの把握などを行い、1988年から経営を開始。2000年にはラフィットのディレクターであるクリスチャン ル ソメール氏を派遣するなど、ラフィットの知識と技術を注いできました。現在はラフィットをはじめとするボルドーシャトーの新醸造責任者に就任したエリック コレール氏を引き継ぎ、オリヴィエ トレゴワ氏がDBRの海外ワイナリーの醸造責任者を務めています。昔、クリスチャン ル ソメール氏が責任者の時代にロス ヴァスコスを訪問した事があります。迎賓館に宿泊し、翌日醸造所を見学する前に、醸造所や迎賓館を見下ろす小高い丘に案内されました。クリスチャンに「ロス ヴァスコスはどの辺りまでですか?」と尋ねると「目に見える、この盆地全部だ」という答えでした。なんと所有面積は3,600ha、その内作付け面積は580haとコルチャグア ヴァレー中部で最大なのです。
グラスから穏やかにグレープフルーツを思わせる香りが立ち昇り、アカシアなどの白い花の印象もあります。ソーヴィニヨン・ブランとしては香りの量は控えめなタイプで、ナチュラルでエレガントな香りです。味わいはフレッシュでピュア、瑞々しい酸とミネラルの余韻が心地良いワインです。
ロス ヴァスコス ソーヴィニヨン・ブランを仔牛のシュニッツェルと合わせると、シュニッツェルにかけられたレモン果汁とロス ヴァスコス ソーヴィニヨン・ブランの柑橘系の香りとが口の中で共鳴し、爽やかさを倍増させます。
「うわぁ・・・、めちゃくちゃ美味しいですね」
「仔牛は、牛肉でも白ワインなのですね」
「仔牛の甘いニュアンスが強調されますね。控えめながらしっかりとある旨味が素直に広がります」
「ウィーンでは、シュニッツェルに合わせる定番ワインはグリューナー・フェルトリーナーです。グリューナー・フェルトリーナーはオーストリア原産の白ぶどう品種で、オーストリアで全世界の80%以上を栽培している、固有品種とも言えるぶどうです。グリューナー・フェルトリーナーのグリューナーは「グリーンの」で、フェルトリーナーは北イタリアのヴァルテリーナ:Valtellina (Veltlin)から来ています。特徴的な白胡椒のニュアンスと、ソーヴィニョン・ブランに似た柑橘系を思わすタッチや植物的な印象があり、完熟するとメロンやトロピカルフルーツのような甘い香りも出てきます。サントリーの取り扱いにグリューナー・フェルトリーナーのワインが有れば、それがイチオシになったかもしれませんが、ソーヴィニョン・ブランでも、あまり強く主張し過ぎないロス ヴァスコスは本場のグリューナー・フェルトリーナーに劣らない素晴らしい相性でした」
日本では、仔牛の肉は普通のスーパーには、まず在りません。でも、ネット通販サイトなら簡単に手に入れる事が出来ます。是非この仔牛のシュニッツェルを作ってください。揚げる油やバターは少量で大丈夫です。そしてロス ヴァスコス ソーヴィニヨン・ブランとの素敵なマリアージュをお楽しみくださいませ。