今回のレシピは、太刀魚のソテー 甘夏ソースです。タチウオはスズキ目サバ亜目タチウオ科タチウオ亜科タチウオ属の魚です。全く違う形ですが、鯖の親戚なのですねぇ。タチウオ科の下に亜科が3つあり、日本で一般的に太刀魚として流通しているタチウオはタチウオ亜科に属しています。日本語名の太刀魚は日本刀に似ているから、とか、海の中で頭を上にして餌を狙って立ち泳ぎしているから「立ち魚」が転じて太刀魚になった、とか言われています。背鰭が大きく発達しており、背鰭をひらひらさせて泳ぎます。逆に腹鰭や尾鰭は退化しています。銀色に輝く体表をしていますが、これはグアニン色素層を持っているからで、鱗はありません。死んでからも美しい銀色ですが、生きて泳いでいる時は、虹色に光り輝き、それは、それは、美しい魚です。昔は、このグアニン色素層を削り取って模造真珠とかを作っていました。亜科が3つもあり、世界中の大陸棚にタチウオの仲間がいます。日本で一般的に太刀魚として流通しているタチウオは、正式な英語名がLargehead hairtailです。大きな顔のお下げ髪のような魚という意味でしょうか・・・。大きくなる魚で最大級の記録では2mを超えるそうです。肉食で獰猛な牙が沢山生えています。小魚やイカに、がぶりっと喰いつき、甲殻類もバリバリと食べます。太刀魚の身は白身で柔らかく、適度に脂がのってとても美味しい魚です。ヨーロッパ周辺の大西洋では、銀色では無く、黒い色の太刀魚が多数漁獲され、重要な水産資源となっています。クロタチモドキ亜科のクロタチモドキなのですが、立派な胸鰭と可愛い尾鰭があります。いろいろな太刀魚の仲間たちは、英語でhairtail fish、ribbon fish、cutlass fish、scabbard fishなどと呼ばれています。ribbon fishはリボンですよね。cutlass fishのcutlassはサーベルの事です。scabbard fishのscabbardは刀の鞘の事です。外国人に、英語で太刀魚と言うつもりで、 直訳してsword fishと言ってしまうとカジキマグロの事になってしまいます。日本では、昔は、相模湾よりも西のエリア中心の漁獲でしたが、温暖化の影響か、東京湾でも沢山獲れるようになりました。最近では三陸でも漁獲量が増えているそうです。太刀魚の旬は、魚の旬について記した物を読むと7月から11月と記載されていますが、実際に食べてみると、年中安定して美味しい魚です。今日は鈴木薫先生に、太刀魚をソテーにして頂き、ワインスクエアらしい甘夏ソースを作ってもらいました。甘夏は、正式名称カワノナツダイダイ(川野夏橙)というミカン科ミカン属の柑橘類で大分県の津久見市の夏蜜柑(ナツダイダイ=夏橙)畑で枝変わりしたのを川野豊が見つけて育種しました。1935年の事でした。その後1950年に品種登録されました。夏蜜柑よりも甘みが強く、酸が穏やかです。皮は分厚く、薄皮も分厚めです。夏蜜柑よりも甘くて美味しい甘夏は、夏蜜柑から、どんどん植え替えられました。現在、甘夏の生産量第1位は鹿児島県で、日本全体の1/3程度を生産します。2位は熊本県、愛媛県と続きます。枝変わりする前の夏蜜柑は、萩市のHPによると、今から約300年前、山口県長門市青海島の大日比在住の西本チョウが、海岸に漂着した柑橘の種子を庭にまいて育てたのが起源といわれています。その後DNA解析で文旦の自然交配種とされました。この原木は昭和2年に国の「史跡および天然記念物」に指定されています。萩には大日比から夏蜜柑が伝わりました。明治にはいり、藩からの禄が無くなり困窮した旧藩士を救うために、苗を配り、夏蜜柑栽培を推奨しました。夏蜜柑は5月ごろに花が咲き、実が成ります。秋には大きく成長するのですが、その頃は酸っぱくて生食用には向きません。年を超え、5月ごろになると酸が落ちてきて、甘みも増すのです。その越年した実を収穫しなければ、前年の実と今年の実が、同時に木になることから「ナツダイダイ=夏代々」という名前が付きました。「代々」は「ヨヨ」とも読め、近畿地方では中風のことを「ヨイヨイ」と称していましたので、「夏代々を食べると中風になる」と言う間違った噂が流れました。大阪の商人が、縁起が悪いので改名した方が良いと忠告し、夏橙や夏蜜柑の名前に変更したのだそうです。
さて、この太刀魚のソテー 甘夏ソースにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはミオネット プロセッコ DOC トレヴィーゾ ブリュットでした。世界の酒の統計を取っているIWSRによるとプロセッコは、1991-2020年からの20年間で、なんと15倍に急増しています。スパークリングワイン販売数量で絶対王者だったシャンパンを2013年に抜き去り、差をどんどん広げているのです。プロセッコは、2009年にDOC認定された、イタリア北部の特定のエリアでつくられるスパークリングワインです。ヴェネト州とフリウリ州にかけての9つの県にまたがるエリアで栽培総面積約30,000haです。このエリアの土着品種であるグレーラ種を最低でも85%使用する事が義務付けられています。グレーラ種の名前には面白い逸話があります。グレーラ種はかつてプロセッコ種と呼ばれていました。プロセッコは産地の名前でもあり品種の名前でもあったのです。軽やかで飲み心地の良いプロセッコはアメリカでも人気で、売り上げを伸ばしていました。それを見たブラジルなどの生産者が、安価なプロセッコをつくって、アメリカなどに輸出するようになったのです。イタリア政府はブラジル政府らに抗議しプロセッコの名前を使わないように要請しました。でもブラジル政府らに拒絶されたのです。イタリア政府は一計を案じました。DOCに関する法律を変更して品種名をグレーラとし、プロセッコはDOCやDOCGなどの産地の名前であると定めました。こうする事で「お互いの原産地を保護する条約」であるマドリッド条約を批准している国ではプロセッコの名前が使えなくなったのです。
ミオネット社は、最古のプロセッコメーカーの1つ(1887年創業)で、しかも、プロセッコで最も高品質な物を生み出すエリアに与えられるDOCGの一つであるヴァルドッビアーデネにワイナリーを構えています。高品質と味の評価のお陰で、プロセッコブランドの中で年間販売数量世界No.1※1になっています。
ミオネット プロセッコ DOC トレヴィーゾ ブリュットをグラスに注ぐと、ふんわりとした泡立ちです。軽やかな香り立ちです。白い花、フレッシュなリンゴや白桃を思わせる香りがやさしく立ち昇ってきます。口に含むとキメ細かな泡が心地よいです。穏やかな酸味と充実した果実味、後味のほろ苦さが味わいを引き締めます。
太刀魚のソテー 甘夏ソースと合わせると、甘夏の爽やかさとミオネットの酸味とが口の中で共鳴し、爽やかさを倍増させます。
「うわぁ・・・、夏のお料理ですね」
「爽やかさが広がって、目が醒めます」
「ミオネット自体はそんなに、切れるタイプの酸ではないのですが、甘夏と共鳴していますね」
「太刀魚って鱗が無いから、そのまま塩を振って焼きますよね。皮目下の脂で皮がパリパリになって、それが、しゅわしゅわした泡とテクスチュアが合っていて、気持ちが良いのです」
「甘夏のほろ苦さとミオネットのほろ苦さも、大人の楽しみですよね」
太刀魚の旬は、7月から11月と記載されている事が多いですが、6月も、とっても美味しいですよ。特に卵をお腹に持っていると、美味しさ倍増です。皆様も大きめの太刀魚を見つけられましたら、この太刀魚のソテー 甘夏ソースの事を思い出してください。そしてミオネット プロセッコ DOC トレヴィーゾ ブリュットとの素敵な「甘夏の経験」をお楽しみくださいませ。
※1 IWSR 2021 International Brand