今回のレシピは、レンコンのビーフサンドフライ バルサミコソースです。蓮根の文字はハス=「蓮」の「根」と呼ばれていますが、根ではなく、地下茎です。蓮の漢字は日本でつくられました。花と実が相連なって出来るので、蓮の文字が充てられました。余り広くは知られていませんが「藕(ぐう)」の一文字で蓮根の事を指します。蓮根を食用にするのは、東アジアに限られるようで、中でも中国と日本では良く登場します。ちなみに中国語でも蓮根は藕の簡体字が入る莲藕です。日本で古くは、ハチスと呼ばれていました。花が受粉し種子が育ってくると、花托が大きくなって円錐状になっていきます。円錐の底部にあたる丸い所に種子の入った穴が、ぽこぽこ沢山出来て、丁度アシナガバチの巣の様に見える事からハチスと呼ばれたのです。ハチスが、時間の経過と伴に、縮まってハスになりました。ハスは、インド原産の多年性水生植物で、ヤマモガシ目ハス科ハス属に属すとされています。特徴のある地下茎が、もともと泥の中にあるので、化石になり易く、ヨーロッパでも見つかっています。日本の福井県でもレンコンの化石が発掘され、白亜紀には存在していた事が判っています。ただこの頃のレンコンは、細くて現在食用にされる肥大した地下茎とは大分違いました。日本で古代ハスとして有名なものに大賀ハスがあります。1951年(昭和26年)千葉市検見川遺跡の地下から様々な出土品と共に蓮の種子が見つかりました。蓮の権威であった、大賀一郎博士により3粒採取されて、発芽に成功して大賀ハスと名付けられました。大賀ハスは、千葉県の天然記念物に指定されています。千葉では、大賀ハスまつりと言うお祭りが開催されており、昨年は6月17日(土曜日)~25日(日曜日)千葉公園蓮華亭周辺で開かれました。この大賀ハスのレンコンも現代の蓮根ほどには肥大していませんが、福井の化石よりは大分立派なので、弥生時代あたりに、中国から再度伝わったのではないか?と推測されています。ハスは、仏教では泥の中から生えて、美しい花を咲かせることから重要視されて、花ハスは多く栽培されました。奈良時代末期には、レンコンを食べる記述もあるにはありますが花ハスが中心でした。元禄時代の農業全書に食用のレンコンの育て方の記述があるので、江戸時代には食用の地位も確立していったようです。東日本で多少栽培されている在来種と呼ばれるレンコンは、在来種の名前を貰ってはいますが、中国から伝わったようです。現在、日本で食用にされている蓮根の殆どは明治以降に伝わった支那蓮種と備中種です。レンコンには複数の穴が空いていて、向こうが見えので、先を読む力を授けてくれる、とお節料理に使われたり、食用になる種子が多く採れる事から『子孫繁栄』の縁起物になりました。
レンコンの旬は9月から2月と言われています。東京都 中央卸売市場日報、市場統計情報によるとレンコンが一番安いのは11月から12月に掛けてで、一番高いのは6月です。値段の幅は大きくて、毎年大体4倍くらいの価格差になります。農水省の新しいレンコンの都道府県別の出荷実績が見つけられなくて、少し古いのですが、平成28年産野菜生産出荷統計では、1位は茨城県で全体のほぼ半分、2位が佐賀県、3位が徳島県です。大田市場を見ていると最も高価なレンコンは加賀れんこんで、小坂の物は特に高価です。今回はそのレンコンでレンコンのビーフサンドフライ バルサミコソースを作って頂きました。うちの家では、レンコンの挟み揚げは、鶏のミンチで作ります。今回は牛肉で部位は「いちぼ」でしたが、部位は腿でもロースでもどこでも構いません。焼肉くらいの厚さに切って塩、こしょうをして、タイムと赤ワインとオリーブオイルでマリネしておきます。油を温め、薄く切ったレンコンで挟んで揚げます。レンコンを調理する時、つい皮を剥いたり、スライスすると水に晒したりしがちですが、体に良いポリフェノールや食物繊維、さらに豊富に含まれるビタミンCなどが失われますので、水に晒さない方が良いです。色変わりを防ぐために、切ったら直ぐに挟んで揚げてしまいましょう。ソースは、バルサミコ酢で作って頂きました。
さて、このレンコンのビーフサンドフライ バルサミコソースにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、サントリーフロムファーム かみのやま カベルネ・ソーヴィニヨンでした。山形県の上山市は新幹線のかみのやま温泉駅もあって、温泉がいくつも湧き出ます。宮城県と山形県の間に聳えている蔵王の西側にあたります。上山市には2軒の栽培農家さんがサントリーの為にぶどうを育ててくださっています。原口の木村園ではシャルドネを、上生居の奈良崎園では、メルロとカベルネ・ソーヴィニヨンです。奈良崎園は花森湖展望台に行く途中の、南に向いた素晴らしい斜面です。サントリーでは、登美の丘ワイナリーのフラッグシップワインとして登美と塩尻ワイナリーの岩垂原で岩垂原メルロをつくってきました。登美の丘ワイナリーでは、このところ、地球温暖化の影響か、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロが上手く色付かない現象に悩まされてきました。登美の丘でも、高畝栽培や、副梢栽培で何とか良いぶどうをつくる取り組みは、一生懸命にしているのですが、お天道様には敵いません。2021年の春に、二代目園主の奈良崎洋一さんに「このかみのやまの地は登美の丘よりもずっと冷涼です。世界に誇れる素晴らしいワインがつくれる可能性があると思っています。是非そのために、カベルネ・ソーヴィニヨンの畑で、今までよりも収量を制限する取り組みをしませんか?」と投げかけました。それまで奈良崎園のぶどうは、kgあたりの価格で売って頂いておりましたから、収量制限をすると奈良崎さんの収入減に直結してしまいます。それでも、奈良崎さんは「良い物がつくりたい。是非やろう!」と仰ってくださいました。その初めて取り組みの成果が、マリアージュ実験でイチオシに選ばれたサントリーフロムファーム かみのやま カベルネ・ソーヴィニヨン2021だったのでした。従来までは、新梢の元気さを見ながら、1本の枝に2房から1房、ぶどうを成らせるように剪定していただいていましたが、この年のカベルネ・ソーヴィニヨンは1新梢に1房を徹底してもらいました。実は奈良崎さんの畑にはサントリー向け以外にもカベルネ・ソーヴィニヨンが少し植わっているのですが、そちらのカベルネ・ソーヴィニヨンが、ヴェレゾンが全く始まっていない時に、サントリー区画はヴェレゾンが進行していて、糖度の上がり方も遥かに良かったのです。収量制限の効果は抜群だったのです。
グラスに注ぐと、例年の色よりもずっと濃いダークチェリーレッドです。紫の色素が多く、脚もしっかりと出ています。良く熟したダークチェリーやカシスを連想させる豊かな香りに、複雑さを与える樽からのヴァニラのタッチ。凝縮感がしっかりとあり、カベルネ・ソーヴィニヨンの良さであるがっちりとした骨格が感じられながらも、しなやかさもあります。上品で力強い味わいとなめらかで長い余韻を楽しめる赤ワインです。レンコンのビーフサンドフライ バルサミコソースを齧って、かみのやま カベルネ・ソーヴィニヨンのグラスを鼻に近づけると、レンコンが揚げられた香りだけでマリアージュしているのが判ります。口に含むと口中の牛肉の味わいに深みがでます。牛脂とカベルネ・ソーヴィニヨンの若くて力強いタンニンとが出会って甘く感じられます。
「ワインと料理のマリアージュの鉄則の、いの一番ですね!」
「レンコンの大地の力を髣髴とさせる風味とかみのやま カベルネ・ソーヴィニヨンが共鳴する感じです」
「レンコンの、ねっとりとしつつ、シャキッとしたところもある独特のテクスチュアが楽しいですね」
「今回、レンコンをスライスしてから水で晒してないのです。いつも晒すので忘れていたのですが、レンコンってこんなに風味豊かなんですね」
「丁度良い、火の通り具合で、半生っぽい灰汁の強さがあるのですが、それがカベルネ・ソーヴィニヨンと一緒に楽しむと、長所として美味しく感じる事が出来ました」
「バルサミコソースはかなり濃厚なので、ワインによっては、太刀打ち出来ていないワインもありましたが、かみのやまカベルネ・ソーヴィニヨンは、何の問題も無くマリアージュしていますね」
皆様も是非、レンコンのビーフサンドフライ バルサミコソースに挑戦してみてください。
上山では、コロナの前から上山城周辺や月岡公園で山形ワインバルというワインイベントを開催してきました。「山形ワインバル2024」は2024年5月11日(土)と5月12日(日)の2日間で開催されます。サントリーももちろんブースを出展します。園主の奈良崎さんもお手伝いに来てくださいます。タイミングが合えば奈良崎さんのお話も聞けるかもしれません。是非お越しくださいませ。