今回のレシピは、オッソブーコです。 オッソブーコはロンバルディア州のミラノの郷土料理です。濃厚なシチューでOssobuco alla Milaneseが正式名称です。仔牛の骨付きすね肉のぶつ切りを煮込んでいます。オッソ(osso)はイタリア語で骨、そしてブーコ(buco)は穴を意味し、その名の通り、煮込んだぶつ切りのすねの骨の中心が、穴の開いたかのように見えるからです。オッソブーコは、ルネッサンスのパトロンとして有名なスフォルツァ家や中世の騎士たちに愛された記録が残っているのですが、その起源があまりにも古いため、いつから作られるようになったのを確定することは不可能だそうです。スフォルツァ家が栄えたのは、15世紀から16世紀までなので、オッソブーコはそれ以前から有ったのは間違いありません。その時期は、イタリアでトマトが食べられるようになる前です。なので、その頃のオッソブーコのレシピはトマト無しバージョンです。オッソブーコがイタリア国外で普及し始めるのは19世紀末の事です。ペッレグリーノ・アルトゥージが『台所の科学と、よく食べる技術』を1891年に著わしオッソブーコを紹介したからです。また、アメリカ大陸に大量にやってきたイタリア人移民もオッソブーコをアメリカ大陸で広めたと考えられています。 2007年にオッソブーコはDe.C.O.(市町村原産地呼称)に選定されました。
ミラノではオッソブーコを食べる時には、直前にグレモラータ を振ります。グレモラータの材料はたったの3つだけです。 レモンの皮、パセリ、にんにくを使ったフレッシュで軽い味わいで、さまざまな料理を引き立てますよ。オッソブーコは伝統的には、リゾット アラ ミラネーゼと呼ばれるサフランのリゾットと一緒に食べられますが、クリーミーなポレンタを添えるレストランもあります。
オッソブーコ作りに挑戦する為には、まず子牛の骨付きすね肉を調達する必要があります。昔は、イタリア料理店に強い業務用の肉屋さんに予めお願いしないと手に入りませんでしたが、今はネットでポチッとするだけで簡単に手に入れる事が出来ます。ネットで値段をご覧頂くと「おっ、結構するなぁ」と思われたかもしれませんが、その1ロットで4-5人前くらいなので決して高すぎは、しません。
すね肉は筋切りします。輪切りにされた、すね肉の一番外側にある薄皮に包丁で数ヶ所切れ目を入れるのです。これは、焼き色を付ける途中に肉が反り返ってしまわないようにするためです。塩、こしょうをし、小麦粉をまぶして、鍋で焼き色を付けます。玉ねぎ、にんじん、セロリとにんにくのみじん切りを炒め、トマト粗みじん切り、トマトペーストとたっぷりの白ワインで煮込んでいきます。90分程度煮込んで塩胡椒で味を調えたらオッソブーコ本体は出来上がりです。
さて、このオッソブーコにテイスティングメンバーが選んだイチオシは、シャトー ラグランジュ 2019 でした。以前、ミラノで絶品のオッソブーコを食べた店のソムリエに「あなたの店のオッソブーコが一番美味しくなるワインは何か?」と尋ねた時に「バルベーラだ。それもスピネッタとか名手のバルベーラが一番美味しい」と即答してくれました。現在のサントリーのラインナップには、残念ながらバルベーラはありません。
イチオシに輝いたシャトー ラグランジュがボルドーのワインの歴史に登場するのは1631年で、17世紀頃のワイン地図には既に“ ラ・グランジュ”と いう名で記載されていました。これはメドックでは14番目に古い記録です。1824年には12,000c/sの生産量が有りました。1842年には、ルイ・フィリップ朝において内務大臣などを歴任したデュシャテル伯爵が所有者となり、生産量を1200樽に伸ばしました。この生産量は現在よりも2割ほど多く、栽培面積も現在よりもずっと広かったです。1855年のパリ万博の時に行われたメドック格付けで第3級に選ばれました。20世紀にはいり、所有者が入れ替わり、前のオーナーだったスペインのセンドーヤ家は二度の世界大戦や世界恐慌で深く傷つき、ラグランジュの品質や名声も低下しました。センドーヤ家は畑の周囲(最も力の劣った部分)から切り売りをしながら、なんとか生き延びていたのです。1983年12月にサントリー株式会社が経営を引き継ぎました。先代のセンドーヤ家が、一番良くない区画から切り売りした結果、優秀な部分のみが残っていました。切り売りして減っても、ボルドーの格付けのあるシャトーとしては一番広い118haの面積の畑があるんですよ。総責任者にボルドー大学のペイノー教授の門下生であるマルセル・デュカス氏、副会長に鈴田健二氏を招き、畑から醸造施設、城館や庭園に至るまで徹底的な改革に着手しました。それから40年の時が経ち、日本人のトップも椎名、そして桜井に代わっていきました。
ラグランジュの畑は二つのなだらかな丘陵にあります。全般的に氷河期末期に流れてきた沖積層の大粒の砂礫質土壌で、表土には珪土・砂利質土壌厚く積もっています。その下(7mから10m位の深さ)には粘土があり、更にその下には石灰質土壌があるのですが、粘土層に阻まれてぶどうの根が石灰質土壌に届く事はありません。ぶどう品種はカベルネ・ソーヴィニヨン67% メルロ28% プティ・ヴェルド5%の作付です。
サントリーが経営権を取得して40周年となる今年、40周年を記念したイベントも行っています。まずは4月25日、ラグランジュを世界中で販売してくれる重要なビジネスパートナーの方々を招待した300名規模のディナーを開催しました。また、6月23日には、1983年からサントリーを仲間として迎え入れ、共に歩んできてくれた周辺シャトー、ボルドー大学、ワイン関連団体、その他取引業の方々を招待しての感謝の会を開催しました。
シャトー ラグランジュ 2019の使用比率はカベルネ・ソーヴィニヨン80% メルロ18% プティ・ヴェルド2%です。グラスに注ぐと濃いダークチェリーレッドです。ヨーロッパで見かける黒いさくらんぼやブラックカラント、薔薇、甘草(リコリス)を思わせる香が華やかに立ち昇ります。アタックはシルキーで、肉厚で、力強いのですが、ビロードのように滑らかなタンニンが感じられます。
オッソブーコと合わせると、物凄い調和感です。
「濃厚なオッソブーコとリッチでフルボディのラグランジュが良く合っています」
「どの部分が美味しいという感じではなく、見事に溶け合っていますね」
「敢えて、どの部分が、と分析すると骨髄ですかね」
「子牛の肉って、ミラノ風のカツレツとかを食べて判ると思うのですが、割とあっさりとして脂も少ないですよね。塊で煮込むとちょっと脂が足りなくてパサッとした感じになる所が、オッソブーコなら、骨髄から濃厚な味わいの脂分が溶け出すので、充実した美味しさになっています」
「その脂分と若いラグランジュの力強いタンニンとが出会って甘さに転換しています」
「家で、この超絶的なマリアージュが食べる事が出来るのは、ある意味驚きですよ」
子牛の骨付きすね肉も、そんなに安い食材ではありません。ラグランジュも決して安くはありません。でも、レストランでこのマリアージュを楽しむ為には少なくとも原価の3倍のお値段は覚悟する必要があります。1年間頑張った自分へのご褒美に、是非ともオッソブーコとラグランジュのマリアージュに挑戦してみませんか?素敵な夜になる事、間違い無しです。