今回のレシピは、鰯とじゃがいもの香草パン粉焼きです。食材にパン粉を纏わせて油で揚げるフライ料理は、実に魅力的な料理です。わたくしもコロッケやアジフライ、メンチカツなど、フライが無性に食べたくなる事があります。ただ、揚げ物はハードルの高い料理でもあります。自分で作ると、レンジの周辺に油が跳ねて掃除が大変です。残った油を処理するのも少し気が重かったりします。また、揚げ物はカロリーが多いという理由で敬遠せざるを得ない方も沢山いらっしゃると思います。文部科学省の日本食品標準成分表2020年版(八訂)によると、<魚類> (あじ類) まあじ 皮つき 生は、100gあたり471kcalです。これに穀類/こむぎ/[小麦粉]/薄力粉等を2g付けて7kcal、鶏卵 全卵 生を10g付けると14kcal、パン粉を[パン類] 角形食パンと仮定して10g付けると25calです。合計すると122gで517 kcalとなります。フライの怖いのはここからです。食品の揚げる前と上げた後の重量変化から吸油率を調べた方がいらっしゃいます。その結果を見るとフライでも、付けるパン粉が生か乾燥か、粗挽きか細かい粉にしているかで、大きく吸油率が違います。最も吸油率の高いのが生の粗挽きパン粉だそうで、生の状態のフライ材料重量の20%も油を吸うそうです。(ちなみに乾燥してパン粉の細粒だと吸油率は10%ちょっとまで減るそうです。)そうすると、なんと24.4gも油を吸うことになります。油は穀類などよりもg当たりのカロリーが高く1gで9kcalもありますので、その油だけで220kcalにもなるのです。合計すると737calのアジフライの出来上がりです。なんと、元の鯵本体だけのカロリーの1.5倍以上になってしまうのです。パン粉焼きにすると、そのカロリーの増加を抑えることができます。パン粉の量も全体を包むフライよりもずっと抑える事ができますし、掛けるオリーブオイルの量をコントロールする事で油の量を減らす事が出来ますのでカロリーを大幅に抑える事が出来るのです。しかもレンジ周りに油が跳ねる事もありませんし、廃油もでません。その良い事ずくめのパン粉焼きを、鈴木薫先生に、今日は鰯で、それもワインに良く合う香草たっぷりバージョンで作っていただきました。今年も秋刀魚が不漁というニュースが8月10日の解禁直後は流れました。2022年は最盛期の1/20の漁獲量しかなかったそうです。鮭もピーク時の1/5でホタルイカやイカナゴ、太平洋の真鯖も深刻な不漁だそうです。そんな不漁のニュースが沢山流れる中で、鰯は、従来は漁場では無かった北海道を中心に豊漁だそうです。今回の鰯も正に北海道の真鰯でした。パン粉にはローズマリーやタイム、にんにくみじん切りを入れて香り豊かにします。
さて、この鰯とじゃがいもの香草パン粉焼きにテイスティングメンバーが選んだイチオシは、サントリーフロムファーム 登美の丘 赤 時のかさねでした。サントリーでは、昨年秋に日本ワインをサントリーフロムファーム ブランドに一新しました。私共の旗艦ワイナリーである登美の丘の地でぶどうが栽培されるようになって100年余り、私共がワイナリーを引き継いでから87年が経過しています。ずっと、日本の自然、風土と畑から向き合い、匠の技と愛情をこめてワインをつくり続けてまいりました。引き継いだ初期には、本場欧州からハインリッヒ ハム氏に指導を仰ぎ、日本醸造用ぶどうの父である川上善兵衛氏や酒の博士の坂口 謹一郎先生に教えを請いました。地道な努力の積み重ねで、今の登美の丘ワイナリーは在るのです。その歴史や伝統は重視しつつ、つくり手達が、自由な発想で、新しいワインづくりの挑戦を続けるサントリーの日本ワインとして、昨年「SUNTORY FROM FARM 水と、土と、人と」を掲げました。その歴史の、現在の担い手である醸造家 吉野 弘道は「100年以上挑戦してきた『登美の丘のテロワール』を表現する新しいチャレンジとして、香りと味わいが多層的に重なり合うハーモニーを実現したい」と考えました。新しいハーモニーを模索し、繰り返し繰り返しアッサンブラージュを続けました。その修行とも思える苦闘の中で「従来にはなかった熟成期間の異なる原酒のアッサンブラージュが一つの答えではないか?」とたどり着いたのです。吉野の考えた新しいハーモニーとは「フレッシュな果実味と熟成によるまろやかな味わいを併せ持つワイン」です。そのために、4つのヴィンテージ、12種類もの異なる品種、200を超えるキュベを使いました、そして完成したのがサントリーフロムファーム 登美の丘 赤 時のかさねなのです。
2019年から2022年までの熟成期間の異なる4年分の原酒を使うことで、フレッシュな果実味を持ちながら、同時に熟成によるまろやかさをも合わせ持つ多層的な味わいになりました。ぶどう品種はプティ・ヴェルドとカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロを主軸にビジュノワール、カベルネ・フランと初めて製品にいれたタナと、なんと白品種も6種も僅かではありますがアッサンブラージュしています。そのことによりアタックから中盤、余韻まで切れ目のない調和感があるハーモニーを楽しめるようになりました。
時のかさねをグラスに注ぐと、暗さの中に紫とほのかに褐色を含んだ独特の色調です。桑の実やプラム、濃い色調の果皮を持ったベリーを連想させる果実の香りに、熟成が生むドライフルーツの様な複雑さのある香りもあります。ゼラニウムなどの花と僅かにインクのタッチに、オーク樽由来の甘いスパイス感が厚みを感じさせます。口に入れると、甘くまろやかな果実感と滑らかな酸味とタンニンが一体となって感じられます。落ち着きと若々しさが溶け込んで一体となったミディアムボディのワインです。
時のかさねと鰯とじゃがいもの香草パン粉焼きを合わせると、鰯の旨味が素直に広がります。
「鰯は赤ワインと相性の良い魚ですね」
「以前やったフェンネルといわしのパスタの時もそうでした」
「今回は、ローズマリーやタイムの香りが漂ってきますから更に赤ワインとの相性が高まりますね」
「ちょっと焦げたパン粉が凄く美味しいです」
「いわしの独特な風味とハーブが複雑さを醸し出しています。そこに時のかさねを合わせると、いろいろな部分で、いろいろなパーツがマリアージュしているのが判ります」
「この時のかさねとパン粉焼きのマリアージュは、最初に受け止める部分と次に味わいを広げてくれる部分、最後に余韻を伸ばしてくれる部分が違う気がするのです。その違う部分が切れ目なく顔を覗かせて、ハーモニーが続いていく感じです」
皆様、新鮮な鰯を見かけられましたら、鰯とじゃがいもの香草パン粉焼きに挑戦してみてください。そして、今まで、ヴィンテージを名乗るのが当たり前だった、良いワインの世界に新しい調和の世界観を提案した「時のかさね」との素晴らしいマリアージュを、是非お試しくださいませ。