今回のレシピは、ワインに良く合う芋煮です。芋煮は、里芋と肉類と様々な野菜を煮込んだ料理で、日本各地にあります。農林水産省のHPに掲載されている「うちの郷土料理」で、芋煮の名前で掲載されているのは、山形県だけですが、岩手県と秋田県の両県で掲載されているいもの子汁も里芋の煮ものです。また愛媛県では、いもたきと言う名前で掲載されています。山形の芋煮は、農水省の「うちの郷土料理」では、牛肉が主流で醤油味と紹介されています。板こんにゃくと長ネギが良く入っています。岩手のいもの子汁は、「うちの郷土料理」では、鶏肉で醤油味です。秋田のいもの子汁は鶏肉で味噌が多いと記載されています。愛媛県のいもたきは、鶏肉で醤油味なのですが、白玉粉でつくった団子とお揚げが入ります。農水省の「うちの郷土料理」には掲載されていませんが、宮城県や福島県、岩手県でも芋煮は深く愛されています。宮城の芋煮は豚肉で味噌味が定番です。岩手では、「うちの郷土料理」では鶏が主体と書かれていますが豚もあります。味付けも醤油か味噌の掛け合わせが自由に楽しまれている感じです。福島は豚肉で味付けも味噌派も結構多くあります。旅の手帖という雑誌で10年くらい前に日本三大芋煮の特集をした事があります。その時は山形県中山町、島根県津和野町、愛媛県大洲市が三大芋煮の名誉ある称号を貰いました。島根県津和野町の芋煮は、出汁は昆布、小鯛を炙って作ります。具材は里芋だけで、柚子をあしらうシンプルな芋煮です。島根県はお雑煮も澄まし仕立てで餅だけがはいったものも有り、シンプルを愛する美学が有るエリアだと思いました。
山形の芋煮が出来たのが1600年代半ばともいわれています。当時、最上川舟運の終点だったといわれる山形県東村山郡中山町長崎付近は、上方から酒田経由で運ばれてきた荷物を降ろし、大江町などの青苧(あおそ)や紅花を積み込む場所でした。青苧は高級織物に使われる糸で米沢織や奈良晒 (ざらし)、小地谷縮みなどの原料でした。当時は舟が遅れることを知らせる通信手段がなかったため、舟の船頭たちは荷受人が現れるまで何日も待たされることがありました。船頭たちは退屈をしのぐために河原で鍋を囲んで宴を開いていたそうです。船着場の在った中山町は、里芋の名産地である小塩が、すぐ近くにありました。船頭たちは手に入れた里芋と積み荷の棒ダラなどを鍋で煮て酒盛りをしていたそうです。それが現在の「芋煮」のルーツとされるのです。牛肉を使うようになったのは、昭和の始めごろからといわれます。現在でも河原に集まってみんなで楽しむ芋煮会があちらこちらで開催されています。山形県の芋煮は地域によって味付けや具材の種類が違います。最上地方風芋煮は醤油味で、具材には豚肉とキノコがたっぷり入ります。庄内地方は養豚業が盛んな地域ですから、豚肉で味噌味です。村山地方風は、甘味の強い醤油味です。味わいはすき焼きに似ています。〆がうどんなのも似ていますね。置賜地方風は、米沢牛の名産地でもありますので牛肉で、醤油味ベースですが、隠し味に味噌を少しだけいれます。根菜や糸こんにゃくも入ります。山形では「日本一の芋煮会」が開かれます。馬見ヶ崎川の河川敷で毎年開催され、直径が6m50㎝もある大鍋で芋が煮られます。今年は9月17日に開催され3万食の芋煮が振舞われたそうです。ちなみにこの日の最高気温は34℃を越えたそうです。
岩手には、有名なブランド里芋が2つもあります。ひとつはねっとりやわらかい舌ざわりが特徴の「二子さといも」と、もうひとつはホクホクした食感の「津志田芋」です。それぞれに人気があるのです。「二子さといも」の産地の北上市二子地区では、さといもの味をしっかり味わえるようにするために、皮は出来るだけ薄く剥き、里芋以外の根菜は入れないシンプルな「いもの子汁」です。
秋田の県南地方では芋煮が、県北のきりたんぽ鍋と比肩される秋の代表的な郷土料理です。県南地区の小学校では、生徒が材料を持ち寄って作って食べる「なべっこ遠足」という恒例行事があるそうです。
愛媛県の「いもたき」の発祥の地は、松山市から南西に、車で1時間ほど行った大洲市とされています。具材は鶏肉、里芋、こんにゃく、しいたけ、かなり甘みの強い醤油味です。加藤家が大洲藩の藩主をしていた350年以上前にまでさかのぼる歴史だそうです。山形の芋煮が1600年代半ばと言われていますので、それと同じくらいの時期に生まれたのですね。江戸時代の親睦行事だったお籠りでふるまう鍋を作る為に、みんなが地元名産の里芋を持ち寄ったことが始まりといわれています。愛媛県でも河原に集まっていもたきを食べるのですが、東北と違うのは、伝統的に夜開催です。そして、持ち寄りでは無く業者が全部準備してくれます。手ぶらで参加できる芋煮会なのです。今日はワインによく合う芋煮を鈴木薫先生に考案して頂きました。牛肉は和牛の小間切れです。芋煮にするのには脂身が多めの方が、バランスが良いです。その他の具材は、こんにゃく、ごぼうと長ネギです。味付けは山形風らしく醤油味です。甘さは少し控えめで白ワインをたっぷりと入れました。
このワインに良く合う芋煮にテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、サントリーフロムファーム 高山村シャルドネでした。サントリーフロムファーム 高山村シャルドネは、昨年リニューアルしたサントリーフロムファームの、4つあるラインナップのテロワールシリーズです。高山というと岐阜県の飛騨高山を思い浮かべられる方が多いかと思いますが、あちらは高山市です。サントリーフロムファームの高山村は長野県の北信の高山村です。最近では、藤井聡太王将が史上最年少名人と史上2人目の7冠を達成した大一番の舞台となった高山村藤井荘のお蔭で高山村の知名度が少し上がりました。高山村では15年くらい前からずっとサントリー向けにシャルドネなどを育ててくださっている農家さんがいらっしゃいます。大内さん、篠原さん、涌井さん、佐藤さん、宮川さんや22ワインぶどう会の皆さんです。高山村とサントリーのお取引は、小布施ワイナリーの曽我さんからのご紹介がきっかけです。当時は未だ、高山村を名乗るワインはこの世の中にありませんでした。曽我さんは「高山村はとてもよい白ワイン用ブドウ品種を生むポテンシャルがある。自分達も白ワインはこの土地のものでずっと作り続けようと思って、有機栽培にも早くから取り組んでいました。だた、こんな素晴らしい土地にもかかわらず、自分達は、小布施ワイナリーですので、この土地名を前面に出して売ることはできないのです。だから、サントリーさんにこの地の葡萄とワインのポテンシャルを理解してもらって、一緒にブドウを栽培してくれたらと思ってご紹介しました」と仰ったそうです。素晴らしいお話です。
その後高山村はワイン特区をとったり、ワイナリーも出来たりで、日本ワインファンの方々には、少しずつ知名度も上がってきました。
畑の標高は、涌井さんの神明下園の490mから大内さんの福井原2園の730mまで様々な高さにあります。マリアージュ実験に使用した高山村シャルドネは2021年なのですが、この年の最初の農家の皆さんとの打合せ会で、私共から「高山村シャルドネで、サントリーのフラッグシップをつくりたい!そして日本一の白ワインになりたい」とお話をさせて頂いたら、農家の皆さんも「よし!やろう!!」と乗り気になってくださいました。従来からも、ぶどうの単位面積当たりの収量は少なくする設計にはしていたのですが、更なる収量制限に取り組んでもらう為に「1新梢に1房」を徹底して頂きました。その成果が今回のイチオシワインになったサントリーフロムファーム 高山村シャルドネ2021です。2021年は少し遅い萌芽、お盆の頃の前線の停滞と、気温低下の影響を受けて若干生育が遅れ気味ではありました。9月に入り冷涼な好天により、酸の低下が緩やかで、糖度は順調に上がりました。この高山村シャルドネになったぶどうで言うと、収穫は10月の頭の佐藤さんの畑から始まり、涌井さんの裏原園、篠原園、大内さんの福井原2園と続き大内さんの福井原1園が10月19日で最後でした。樽醗酵からそのまま樽熟成した原酒が半分、タンク発酵からタンク熟成のものが半分です。樽を使用した物の60%が新樽で約5か月の熟成でした。
グラスに注ぐと、淡いレモンイエローです。脚は、少し強めです。グラスからは、心地良い香りがしてきます。ミラベルや程よく追熟された洋梨などの果実を連想させる黄色く甘い果実の香りに、そこをキュッと引き締める爽やかな柑橘のタッチがあります。穏やかに複雑さを与える樽熟成由来のトーストのアクセントも感じられます。果実の熟度の高さを感じる膨らみのあるボディ感と、それに負けない引き締まった芯のある酸味を持った、良年の高山村らしい充実感のある味わい。力を感じる辛口シャルドネです。
芋煮と合わせると、里芋のねっとり感に負けない強さが高山村シャルドネに感じられます。
「旨いですね」
「牛肉だったら、赤ワインと思い込んでいましたが、高山村シャルドネはバッチリ合っていますね」
「ソムリエ協会の田崎会長も『和牛の上物は白ワインの質感の高いものの方が美味しい事が良くある』と仰っています」
「高山村シャルドネのキレのある酸と芋煮の味わいが充実したスープと良く合っています」
「里芋のねっとりとしたしたテクスチュアって、余韻の長いワインじゃないと、しっくりこないですよね。でもこの高山村シャルドネは、上手く支えてくれています」
里芋の上品な甘みも、辛口でかつ、厚みのある高山村シャルドネと合わせる事で、より一層引き立てられていました。
これから、里芋の出盛りを迎えます。是非、芋煮に挑戦してみてください。そしてサントリーフロムファーム 高山村シャルドネとの素晴らしい相性をお楽しみくださいませ。