今回のレシピは、たことじゃがいものガリシア風です。ガリシア州はスペインの一番西側にある自治州です。南側をポルトガルと接していて、北側はビスケー湾、西側は大西洋です。州都は、聖地巡礼の終着点であるサンティアゴ・デ・コンポステーラです。一番大きな街はビーゴで、ガリシア州の人口は275万人ほど、面積は29,500 km²ですから岩手県と秋田県を足したより少し広い感じです。ガリシアの名は古代ローマの時代に現在のスペイン西部とポルトガル北部にあったと言われる属州ガラエキアから来ているそうです。ガラエキアは、古代にドウロ川よりも北の地域に住んでいたケルト系の民族を指していたそうです。ケルト民族は一時期、東ヨーロッパからフランス、英国やアイルランドからイベリア半島の北側を勢力下に収めていたそうですが、もともと、ケルトとは古代ローマで「未知の人」を意味しており、特定の、ひとつの民族を示す言葉ではないとする資料もあります。ただ、かつてケルト系の民族が大きな国を形成していた、そして、ガリシアには、そのケルトの名残があって、スコットランド的なバグパイプや巻きスカートのような「キルト」も見かける事があります。9世紀にサンティアゴ・デ・コンポステーラでサンティアゴ(聖ヤコブ)の遺骸が発見され、サンティアゴ・デ・コンポステーラはキリスト教の三大巡礼地のひとつとなりました。ガリシア州で有名なワイン産地といえば、何と言ってもDOリアス バイシャスです。リアスは「入り江」で入り組んだ海岸線を指すリアス式海岸は、ここが語源となった場所なのです。入り組んだ入江に深い森からの栄養分が流れ込んで、豊かな海産物の恵みがある場所なのです。たこのガリシア風はガリシア語でpolbo á feiraと呼ばれます。「祭礼のたこ」と言ったところでしょうかね。ガリシアだけでなくカスティーリャ イ レオン州のビエルソやサモラでも例祭で食べられます。たこのガリシア風の作り手の事をポルベイラと呼び、通常女性が務めるそうです。たこは、通常銅製の大鍋で何匹も一緒に煮られます。ゆで上がると鉄製の鉤爪で引き上げ、鋏で切り分けられます。最大のたこ祭りはカスティーリャ イ レオン州のカルバリーノのたこ祭りで、1962年以降毎年8月の第2日曜日に開催されます。今年は8月13日です。人口14,000人の町に10万人もの観光客が訪れ、40トン以上のたこを食べ尽くします。また最高のポルベイラを選ぶイベントも行われるようです。
鍋に水、茹でたこ、玉ねぎ、ローリエを入れます。煮立ったら弱火にし、たこが柔らかくなるまで1時間ほど煮ます。じゃがいもは電子レンジで火を通し皮を剥いて5㎜位の厚さに切って皿に並べます。茹でて柔らかくなったたこを薄切りにしてじゃがいもに載せパプリカパウダーを振って、塩、オリーブオイルを掛けたら、たこのガリシア風の出来上がりです。
この、たことじゃがいものガリシア風にテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、前回のガスパチョで2オシになったラ マンチャ デ ビエント (白)でした。ラ マンチャ デ ビエントはフレシネ グループがカスティーリャ ラ マンチャ州で醸している地理的表示保護(ビノ デ ラ ティエラ デ カスティーリャ)のワインで、フランスだとIGPに相当する格付けのワインです。カスティーリャ ラ マンチャ州はスペイン内陸部にある自治州で、丁度スペイン首都のあるマドリッド州を飲み込もうとしているパックマンのような形をした州です。カスティーリャは「城」の事で、「城が点在する土地」です。ラ マンチャはアラブ語で「水のない土地」の意味だそうです。イベリア半島の中央部にはメセタと呼ばれる広大な乾燥高原があります。このメセタはマドリッドの北側の中央山系で南北に分けられます。北側のメセタがカスティーリャ イ レオン州に属し、南側がカスティーリャ ラ マンチャ州に属しています。カスティーリャ ラ マンチャ州はアラビア人がもたらした、運河による灌漑のお陰で、乾燥した高地でも農業が盛んで小麦やぶどう栽培をしています。小麦を挽く風車も沢山あります。ワイン名称のラ マンチャ デ ビエントのビエントは「風」と言う意味ですので、ワインの名前はラ マンチャの風、と言った所ですね。ラ マンチャ地方はスペイン の作家 ミゲル・デ・セルバンテスの小説ドン キホーテの舞台でもあるのです。ラベルを見ると荷車を曳いたロバに跨った男が風車の方に向って進んでいます。小説の世界を少し彷彿とさせますよね。ラ マンチャ デ ビエント (白)のぶどう品種は、マカベオとモスカテル(マスカット)です。マカベオはスペインの白ぶどうでの生産量のナンバー2です。ちなみに白ぶどうの1位はアイレンというニュートラルで、個性が無いのが個性と言われる品種です。海外に大量にバルクとして輸出されています。アイレンは2020年までは、現在1位のテンプラニーリョを押さえて、ぶどう全体での、堂々の第1位だったのですよ。マカベオはカヴァの主要3品種の一つです。またリオハではビウラという名前で呼ばれていて、リオハでの白ぶどうとしては一番多く栽培されている品種です。
ラ マンチャ デ ビエント (白)のグラスからは、柑橘、洋梨、桃などを思わせる香りと、白バラのような華やかで上品な香りが立ってきます。マカベオ種がもたらす程よい酸味と爽やかな柑橘系果実の香り、モスカテルの個性的なマスカット香が甘く広がる、華やかで心地良い味わいのワインです。たことじゃがいものガリシア風と合わせると、ガスパチョと合わせた時とは、ラ マンチャ デ ビエント (白)の表情が一変しました。ガスパチョと合わせた時にはラ マンチャ デ ビエント (白)の清々しさが強調されましたが、たことじゃがいものガリシア風と合わせるとラ マンチャ デ ビエント (白)のフローラルで華やかな香り立ちが強調されました。
「ガスパチョと合わせた時と、全く別のワインに思えます」
「柔らかく煮られたたこを噛むと、じゅわりとたこの旨味が迸り出ます。その美味しさをラ マンチャ デ ビエントがしっかりと受け止めています」
「そうそう、ラ マンチャ デ ビエントの方も深みが出て、2ランクくらいランクの上のワインを飲んでいる気がします」
「ワインが味わい深くなって、コクを感じますよね」
「ワインも料理も、両方が美味しくなるのが、幸せなマリアージュなんでしょうね」
皆様も真夏に美味しいたこを、いつものお刺身や酢の物では無く、ガリシア風で挑戦してみてください。今回のレシピは茹でたこのレシピでしたが、もし活けたこを見つけた時は生から茹でて作ってください、更に美味しいたことじゃがいものガリシア風になります。活けたこの下ごしらえは、大量の食塩の準備からです。ざるにたこをいれてひたすら揉みます。ぬるぬると粘液が大量にでますが、粘液を洗い流しながら、更に塩で揉み続けます。すると、ある所からぬるぬるだった表面が、突然すべすべに感じられるようになります。そこまで揉んだら揉み込みは終了、頭のなかの墨や内臓を取り除きます。大きめの鍋にたこがひたひたになるくらいのお湯を沸かし、玉ねぎ、ローリエを入れます。たこの足先から沸騰したお湯にちょんちょんと何回かに分けて漬けると足先がくるくると綺麗に巻き上がります。その後、たこ全体をお湯に沈め、茹でて1時間です。
是非是非、たことじゃがいものガリシア風とラ マンチャ デ ビエント (白)との素晴らしい相性をお楽しみくださいませ。