今回のレシピは、ガスパチョです。ガスパチョは、スペインの伝統的料理で、パン、オリーブオイル、酢、水、生野菜、トマト、きゅうり、ピーマン、ニンニクなどの材料が入った冷たいスープです。夏、非常に暑いアンダルシアが発祥の地だと言われています。アンダルシア州はスペイン南部に位置し、南側は、地中海・ジブラルタル海峡・大西洋に面していて、西はポルトガルと接しています。州都はセビリアです。アンダルシアには世界的に有名なシェリー酒がありますし、フラメンコと闘牛の故郷でもあります。冒頭に冷たいスープと書きましたが、暖かいガスパチョもあります。日本人が、一般的にガスパチョと聞いて思い浮かべるのは赤からオレンジ色に、少し緑を帯びたものだと思いますが、イベリア半島では、白いガスパチョや、濃い緑色をしたガスパチョもあるのです。ガスパチョが、赤色からオレンジ色になる原動力は、主にトマトです。トマトはナス科ナス属の植物で、原産地は南米ペルーのアンデス高原と言われています。最初にトマトの栽培を始めたのはメキシコのアステカ族だと言われていますが、南米・中米でもトマトの栽培は限定的だったようです。欧州にトマトを伝えたのは、1519年にメキシコへ上陸したスペイン人のエルナン・コルテスです。アステカ族がトマトを食べていたのを知っていたエルナン・コルテスは食用として広めようとしましたが、上手くいかなかったのです。当時の貴族が使っていた食器は錫合金製で鉛が多く使われていました。その鉛がトマトの酸で溶けだし、鉛中毒者が続発したため、トマトは毒リンゴと呼ばれて怖れられてしまったのです。またトマトは、実の形が、毒があるベラドンナに良く似ていたので、そういう噂が出た時に「やはりそうだ、きっと毒が有るに違いないと思ったよ!」と勘違いされたそうです。その誤解が解けるには150年余りの歳月が掛りました。17世紀の後半には、ようやく南イタリアでソースにされ始めたみたいで、レシピが残っているようです。そして、ほぼ同じころ、スペインでも食用にされていた記録があります。いくつかの参考文献によると、イタリアで栽培された最初のトマトは黄色で、1554年にイタリアの植物学者ピエロ アンドレアマッティ オーリによってpomo d'oro(「黄金のリンゴ」)と名づけられた事から、イタリアではトマトの事をポモドーロと呼ぶのです。で、ガスパチョなんですが、起源は諸説あって、しかとは判らないのですが、スペインでトマトが食用にされる以前からあったのは間違い無いようです。その原型の一つがアホブランコ(白ニンニクの意味)だと言われています。アホブランコは堅くなってしまったパンを美味しく食べる為の工夫のようですが、パン、挽いたアーモンド、ニンニク、水、オリーブオイル、塩と酢で作ります。これはスペインからポルトガル南部で食べ継がれてきました。時を経て、トマトが入るようになり、キュウリやピーマンも使われるようになって次第に現在のガスパチョに近づいて行ったようです。ガスパチョの語源も諸説あるのですが、小さな断片を意味する古いラテン語「カスパ」からではないか?という説が一般的です。緑色のガスパチョは、赤くなったトマトは使わないで、キュウリとピーマンを主力として緑色にします。ポルトガルやポルトガルに国境を接するスペイン南部では、パクチーで強化するバージョンもあります。今日は、鈴木薫先生にワインスクエアらしく、ワインに良く合うガスパチョレシピを考案して頂きました。
このガスパチョにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、ラ マンチャ デ ビエント (赤)でした。ラ マンチャ デ ビエントはフレシネ グループがカスティーリャ ラ マンチャ州で醸している地理的表示保護(ビノ デ ラ ティエラ デ カスティーリャ)のワインで、フランスだとIGPに相当する格付けです。ワイン名称のラ マンチャ デ ビエントのビエントは「風」と言う意味ですので、ラ マンチャの風、と言った所ですね。ラ マンチャ地方は名作であるドン キホーテの故郷でもあるのです。ラベルを見ると荷車を曳いたロバに跨った男が風車の方に向って進んでいます。小説の世界を少し彷彿とさせますよね。
ぶどう品種は、シラー50%とモナストレル(ムールヴェドル)50%を使用しています。グラスに注ぐと、少し明るさのある赤色です。ラズベリーやブルーベリーベリーの思わせる凝縮した果実味があります。スパイシーさも有りながら、口に含むと優しい舌触りとタンニンキメ細かさが感じられ充実した味わいです。ぶどう栽培に適した乾燥した大地であるラ・マンチャ地方で、太陽を燦々と浴びて育ったぶどうの凝縮感があります。ガスパチョに合わせると、ガスパチョの、良く熟した夏野菜の大地のエネルギーが感じられて、ラ マンチャ デ ビエントの自然な凝縮感と良くマッチしています。
「バゲットが、丁度良い繋ぎになっています。自然なトロみというのでしょうかね。それに、このワインを合わせる事でまろやかに味わいが広がります」
「With ベリーで楽しい感じです。ラ マンチャ デ ビエントと出会う事で、夏野菜のスープが、夏野菜と赤い果実のスープに変身したみたいです」
「ワインも料理のどちらも、一層、美味しくなる良い組合せだと思います」
「夏野菜とワインビネガーとシンプルな素材だけで、こんなに美味しくなるんですね」
今回、ソーヴィニヨン・ブランなどの野菜的なニュアンスのワインが美味しいのだろうなぁ・・・・と想像しながら実験に臨みました。もちろん、ソーヴィニヨン・ブランなども準備していつも通り16種類のワインとでのマリアージュ実験だったのですが、イチオシワインは意外にも果実味溢れるラ マンチャ デ ビエント (赤)でした。夏は酷暑になるラ マンチャ地方は、ガスパチョの故郷であるアンダルシアに似ているのかもしれません。ガスパチョは、夏に元気の出る夏野菜のスープ、言わば酷暑の時の力の源です。一見、面倒くさそうですが、ミキサーかハンドブレンダーがあれば、簡単に出来る料理です。多めに作っても1-2日なら作り置きもできます。食べるまで、ぎゅっと冷やし込んでからお召し上がりください。そしてラ マンチャ デ ビエント (赤)との生命力溢れるマリアージュをお楽しみください。