今回のレシピは、芹と蛤の醤油パスタです。セリはセリ科 セリ属 の 多年草で日本原産です。セリ科はハーブ、スパイス、野菜の多くが含まれている科です。人参、パセリ、セロリ、ミツバ、アシタバ、ウイキョウ、ディル、チャービル、コリアンダーなど、みんなセリ科です。芹の学名はOenanthe javanicaで、属名のOenantheはギリシャ語でワインを表すoinosと、花を表すanthosを合体させたものだと言われています。Javanicaの方は、もちろん「日本の」です。芹は皆さんも覚えられた春の七草の筆頭に出てきますよね。和名の芹の語源は、2つあって春先に競い合うように伸びるから「競り」と、密集して生えるので「迫り」ではないか?との2説だそうです。四国各地では、おしくらまんじゅうの事を、せりせりごんぼと呼びますが、壺井栄先生の「母のない子と子のない母と」と言う小説のなかでは、芹芹牛蒡と漢字で表記されていました。芹は日本全国の水辺や田んぼの傍に自生しています。農作物としての生産は宮城県がトップで次いで茨城県です。生えている場所にもよりますが、7月から8月にかけて、白く可憐な花を咲かせます。花言葉は「清廉で高潔」です。芹の花らしいですよね。旬は春ですが、施設栽培もされており、一年中買い求める事が出来ます。仙台芹鍋という料理が、ここ15年くらい前から、仙台で数多く食べられるようになり新しい名物料理になっています。仙台駅から車で30分くらいの名取の芹農家の三浦さんが「根っ子が美味しい名取の芹が主役の料理を作りたい」とずっと考えて来られて、2003年に仙台駅近くにある居酒屋の「いな穂」と共同開発して仙台芹鍋と言う名前で売り出されました。その後、仙台芹鍋が美味しいと評判になって、2009年頃から、仙台市内の飲食店に広がりを見せ始め、震災以降に急速に広まりました。
蛤はマルスダレガイ科の二枚貝です。マルスダレガイ科には、クラムチャウダーに使うホンビノスガイを含むハナガイ亜科や蛤亜科、アサリ亜科も含まれ、重要な科です。日本で普通、蛤として販売されるのはハマグリとチョウセンハマグリ、シナハマグリの3つで、3つとも蛤属です。うちシナハマグリは外来種、ハマグリとチョウセンハマグリは在来種です。チョウセンハマグリは汀線=汀の線で、外海の汀の線辺りにいるからそう呼ばれ、朝鮮蛤では無いのです。
さて、この芹と蛤の醤油パスタにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、ウィリアム フェーブル シャブリでした。ウィリアムフェーブル社は1850年設立の老舗です。1950年にウィリアム フェーブル氏が相続しました。ウィリアム フェーブル氏は積極的に畑を買い増し拡張しました。当時のワインはドメーヌ ド ラ マラディエールと呼ばれていて、新樽を多用したリッチなスタイルでした。グランクリュやプルミエクリュの良い区画を多数所有してましたので、ドメーヌ ド ラ マラディエールのシャブリは大人気でした。総面積で、たった100aしかないシャブリ グランクリュの畑をなんと15.2 haも所有していたのですよ。その頃のサントリーのシャブリは、カルベ社のシャブリしか取り扱いが無かったので、いつかはこういう美味しいシャブリを取り扱いしたいものだ・・・・と思ったものでした。フェーブル氏が引退を決意した時、氏には跡継ぎが居ませんでした。フェーブル氏が引退を決意したと言う噂はあっと言う間に広がり、多くの人が「私に売って欲しい!」「いやいや、是非、わが社に!!」と購入希望の手を挙げました。ウィリアム フェーブル氏が譲る事に決めたのは、シャンパンメゾンのジョセフ アンリオ氏でした。LVMHグループの副社長を引退して、当時疲弊していたブシャール ペール エ フィスを見事再生させた手腕に惚れたからだと仰っていたそうです。1998年に売却手続きが完了したら、ジョセフ アンリオ氏は当時31歳だった、まだ若いディディエ セギエ氏を醸造責任者に抜擢しました。ディディエ セギエ氏はまず、収穫方法を変更しました。現在もそうですが、シャブリでは機械収穫が95%を占めています。機械収穫は、何よりも収穫に掛る人件費が安くて済みます。また、収穫適期に一気に収穫できる等のメリットがあるからです。セギエ氏は、上級のキュヴェだけではなく通常のシャブリクラスに至るまで、総て手収穫に変更しました。しかも背負い籠での収穫では無く、ぶどうが重なり合って潰れる事のない13kg入りの小型プラスチックケースを使用しました。そうする事で、潰れて出た果汁が腐敗する事を防いでクリーンな、本来のシャブリの味わいを表現したかったのです。また、酸素に触れずに圧搾する為に窒素を充填してから圧搾する最新鋭のプレス機を導入しました。醸造所は極めて清潔です。収穫期には1日に2回熱湯と蒸気で殺菌、洗浄用の水にも精製水を使用する徹底ぶりです。また熟成では、シャブリならではのミネラルとフレッシュさを生かすために、新樽はほとんど使用しません。新樽比率は1%未満だそうです。そういったセギエ氏の努力の積み重ねにより、ウィリアム フェーブルはフランスで著名なワインガイド ”ベタンヌ・エ・ドゥソーヴ“で最高の5つ星の評価を受ける、シャブリ最高峰のつくり手となったのです。またセギエ氏自身も世界最大規模のワインコンクールであるインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)2018において、世界最高の白ワインメーカーに贈られる“IWCホワイトワインメーカー・オブ・ザ・イヤー 2018”と言う栄誉のある賞を受賞したのです。
今回、イチオシに選ばれたウィリアム フェーブル シャブリはメゾンものと呼ばれるもので、契約農家が育てたぶどうを使用しますが、その契約期間は、平均で20年以上の長期に渡るもの。畑の管理はウィリアム フェーブル社の栽培担当者が協働で行い、収穫時期を見極めます。シャブリならではのフレッシュさを楽しめるようにするために、敢えて樽は使用せず、ステンレスタンクで熟成します。
グラスに注ぐと、色は淡いレモンイエローです。清々しい柑橘類を連想させる香りと、シャブリらしいミネラルの少しスモーキーな印象があります。そうです!テイスティング用語で火打石と言われる、あのニュアンスがほんのりと感じられるのです。沢山シャブリをお飲みの方はお判りかと思いますが、この火打石のニュアンスは、通常プルミエクリュ以上の上級のキュヴェでないとなかなか出ないのが普通なのです。キレのある酸、ミネラル感豊かで、旨味を感じます。余韻が長くて、ついもう1杯飲みたくなる深い味わいです。
芹と蛤の醤油パスタと合わせると、蛤の素材の甘みをくっきりと感じさせます。
「シャブリの貝類との相性の良さは、定番中の定番ですよね」
「貝のほんのりとした甘味が強調されますし、ヨード感というかミネラルのタッチが強まります」
「芹の清々しい香りとも、良く合っています」
「芹って根っ子がこんなに美味しいんですね」
「根っ子も美味しいと言うよりは、根っこの方が大地の力を感じてシャブリと良く合っている気がします」
「根っ子って滋味深い味わいですよね」
「他のワインだと、少し生臭く感じる蛤の内臓部分も美味しく感じました」
皆様も、新鮮な芹を見掛けられたら、是非、この芹と蛤の醤油パスタを思い出してください。そしてウィリアム フェーブル シャブリとの素晴らしいマリアージュをお楽しみください。