今回のレシピは、赤ワインに良くあう鶏もつ煮です。鳥もつ煮は甲府の名物料理です。山梨県のHPの「地元の名物・人気のグルメ」で、いの一番に出てくるのが、甲府鳥もつ煮です。山梨県の伝統的なご当地グルメの筆頭格は、なんと言っても、ほうとう、次いで信玄餅、煮貝と言ったあたりでしょうか?甲府鳥もつ煮は、発祥とされる国母にある奥藤本店さんによると、始まりは昭和25年で、お店のまかない料理として生まれたそうです。それが美味しいと評判になり、じわりじわりと他の店にも広がって行ったそうです。私が初めて甲府に来たのが、昭和59年で、駅からほど近い繁華街でほうとうを食べたのですが、その時には甲府鳥もつ煮の存在には気が付きませんでした。一気に有名になったのは、2010年9月に「第5回B-1グランプリin厚木」で甲府鳥もつ煮がゴールドグランプを受賞してからです。B-1グランプリは、当時の正式名称は「B級ご当地グルメの祭典 B-1グランプリ」で、現在「ご当地グルメでまちおこしの祭典!B-1グランプリ」に名称変更されています。主催者は通称「愛Bリーグ」と呼ばれる「ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会」です。グランプリを選ぶ投票方法もユニークで、参加者が有料で試食した後、使ったお箸で投票する、と言うものです。第1回目は2006年に青森県八戸市の八食センターで開催され、富士宮やきそばが初代グランプリに輝きました。このまちおこしの活動に目を付けたのが、甲府市役所の若手職員でした。2008年に有志が集まり、まちおこし団体「みなさまの縁をとりもつ隊」を結成して「鳥もつ煮」の名前を甲府の新しいB級グルメの顔として全国に向けて発信を始めました。そして3年後、見事ゴールドグランプを受賞したのです。甲府鳥もつ煮は鶏レバー、砂肝、はつ、きんかんを多めの砂糖と醤油で、強火で炒り煮にしたものです。我々も「甲府鳥もつ煮がゴールドグランプを受賞した」という知らせを受けて、直ぐにワインとの相性を確認しに行きました。砂糖醤油の濃い味わいタレを纏ってテラテラと輝く鳥もつ煮は、ほうとうにも、ご飯にも良くあうのですが、辛口の甲州などの白ワインは、タレのインパクトに圧倒されて玉砕、マスカット・ベーリーAなどの赤ワインも甘じょっぱいタレに跳ね返されてマリアージュとは程遠い結果になってしまいました。そこで今回鈴木都先生に、赤ワインに良くあう鶏もつ煮を作って頂きました。このレシピは鈴木家でずっと作られて、毎回赤ワインと合わせて楽しんで来られた伝統の味だそうです。今回の材料は鶏レバーとはつだけで、きんかんは使いませんでした。と、言いますのも、鶏レバーの調達に築地市場の鶏肉屋さんを2軒回ったのですが、その2軒とも「最近きんかんが入荷していません」との事だったのです。炒り煮にする時に赤ワインとバルサミコ酢をたっぷり使い、仕上げに黒胡椒を効かせる事で、物凄く赤ワインに良く合う鶏もつ煮になりました。
この赤ワインに良くあう鶏もつ煮にテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、登美の丘ワイナリー ビジュノワールでした。ビジュノワールは山梨県果樹試験場が開発した品種です。山梨県果樹試験場は正式名称が山梨県農政部果樹試験場で、山梨市江曽原の山梨県笛吹川フルーツ公園の直ぐ南側にあります。標高は490mで、登美の丘ワイナリーと大体同じくらいの高さです。ビジュノワールは2006年に品種登録された比較的新しい品種で、「山梨27号」を母にして「マルベック」を交配したものです。「山梨27号」は甲州三尺を母にメルロを父の品種で、栽培し易い品種です。ビジュノワールは、一粒平均2.3gですから、特に小粒という訳ではありませんが着色性に優れ、糖度も上がり易く、酸は比較的穏やかです。何より裂果に強いので、裂果が原因の病気には、罹り難い品種です。このビジュ(Bijou)はフランス語で宝石、ノワール(Noir)は黒、なので「ビジュノワール(Bijou Noir)」は「黒い宝石」を意味するのです。素敵な名前です。ビジュノワールの房を見ると、色素が濃く、「ブルーム」と呼ばれる粒の表面を覆う白い粉の間から見える果皮の色は、まさしく「黒い宝石」という名前がぴったりの印象で、メルロなどよりずっと色が濃くなる品種なのです。
グラスに注ぐと、日本ワインとしては濃いめの色合いです。グラスからは華やかな香りが立ち昇ります。桑の実や、プラムやブルーベリーのような青紫色の果実の香りがあります。そしてその奥に、スミレの花を思わせる香りもあります。味わいの前半はたっぷりの果実味が感じられ、中盤からは豊かなタンニンが口中に広がります。鶏もつ煮と合わせるとビジュノワールと鶏レバーとの相性の良さが光ります。火が入ることで、ちょっとぽくぽくとした食感になった鶏レバーがビジュノワールで解けて滑らかな口当たりになります。その時レバーの血っぽさと独特な香りがビジュノワールのベリー系を思わせる香りと絡まり合って絶妙です。
「凄く良く合いますね。肝が甘く溶けていきます」
「熱の通ったレバーって、水分を吸い取るような、ぱさつきがあるのですが、ビジュノワールとのマリアージュだと、滑らかで、まるでムースのような舌ざわりになります」
「ビジュノワールの凝縮感が、鶏レバーソースのボリューム感と丁度バランスが取れています」
「バルサミコと黒胡椒が良い仕事してるなぁ・・・・って感じですね」
皆様も新鮮な鶏レバーを見かけられましたら、是非、この赤ワインに良くあう鶏もつ煮に挑戦してみてください。そして登美の丘ワイナリー ビジュノワールとの素晴らしいマリアージュをお楽しみくださいませ。