今回のレシピは、ポークロースト ぶどうとバルサミコのソースです。バルサミコは正しくは、アチェート バルサミコと呼ばれます。「アチェート」は「酢」、「バルサミコ」は「芳香性のある、とか、芳しい」と言う意味ですので、「アチェート バルサミコ」は「芳香性のある酢」と言う意味になります。原料は、ぶどうの濃縮果汁で、それがアルコール発酵する事で出来たアルコールを、酢酸菌が更に酢酸に変換する事で、酸味を持つバルサミコになります。皆様は「バルサミコってピンからキリまで有ってややこしくて判らない・・・・」とお感じになっていませんか?確かにネットで検索すると100mlで11万円以上するものから、100mlあたり70円しないものまで、本当に幅広い価格の物が販売されています。バルサミコと名前の付く物の構造は、実はシンプルで、三層構造になっている事を覚えておいてください。
最上級はPDO(原産地呼称保護)を持っているバルサミコ、二番目がPGI(地理的表示保護)を持っているバルサミコ、一番下がコンディメント・バルサミコCondimentiの三層構造です。
PDO(原産地呼称保護)を持っているバルサミコの生産は、2つのエリアでしか許されていません。エミリア・ロマーニャ州のモデナ県のモデナとレッジョエミリア県だけです。PDO(原産地呼称保護)ですから、単にそのエリアで作れば認められるという単純なものでは無くて、厳密な伝統的製法を守らなくては、PDO(原産地呼称保護)のバルサミコとは、認めてもらえません。
モデナの伝統的なバルサミコ酢の正式名称はAceto Balsamico Tradizionale di Modena DOP (ABTM) (アチェート バルサミコ トラディツィオナーレ ディ モデナDOP)で、レッジョエミリア県の伝統的なバルサミコ酢の正式名称はAceto Balsamico Tradizionale di Reggio Emilia DOP (ABTRE)(アチェート バルサミコ トラディツィオナーレ ディ レッジョエミリアDOP)です。主にランブルスコ種とトレッビアーノ種のぶどうの果汁を煮詰めたもの(モスト・コットと呼ばれる)を100%使うことが義務付けられています。木の樽で発酵と熟成を行うのですが、PDO(原産地呼称保護)で認められるには、最低でも12年間の熟成が義務付けられます。バルサミコの熟成はワインの熟成とはちょっと違います。スティルワインを醸造しているワイナリーでも何種類かのサイズの樽を使う場合もありますが、伝統的なバルサミコの熟成はバッテリーエと呼ばれる5個以上の大きさの違う樽で行われます。母樽と呼ばれる大きな樽から、順番に少しづつ小さい樽が並べられていて、まるで樽のマトリョーシカです。フランチェスコ1世の肖像の入ったラベルで有名な、名門アドリーノグロソリ社では、大きい樽が40L、一番小さな樽が8Lです。ワインの熟成の場合、樽材はフレンチかアメリカンの違いはあっても樫の樽である事がほとんどです。伝統的なバルサミコの熟成は生産者が工夫を凝らした様々な樽材が、組み合わされて使用されます。樫、栗、桜、ジュニパーベリー、桑、ハリエンジュやトネリコなど本当に様々です。また、ワインでは、樽に満量まで入れて、減るたびにこまめに補充をしますが、バルサミコでは9割程度までしか入れません。それは酢酸発酵をする酢酸菌が、液体の表面で増殖するので、満量入れると上手く育たないからです。また、こまめな補充はしません。通常は1年に一度、一番小さな樽の減った分を、その次に大きい樽から補充します、次にバルサミコを抜き取った樽に、その次に大きい樽から補充します。順番補充していって、一番大きい樽には母樽から補充します。これを最低、12回、12年間熟成して、やっと、一番小さな樽から、伝統的なバルサミコとして出荷できるものが取り出せるのです。
伝統的なバルサミコの最高峰はエクストラ・ヴェッキオと呼ばれる超長期熟成タイプです。エクストラ・ヴェッキオは最低25年以上の熟成が義務付けられています。25年熟成しエクストラ・ヴェッキオのバルサミコになる頃には元々100Lあったモスト コットが3Lにまで減ってしまうそうです。伝統的なバルサミコは、特許を取った特別な形をしている、2種類の100mlの瓶に詰められて販売されます。モデナは、バルサミコが入る部分は球体状の形をしていて、正面から見ると、トランプのスペードのような形に見えます、横から見るとガラスの台座に球体が乗っかっている様な、特殊な瓶です。レッジョエミリアの瓶も特別な形をしています。マルケ州のヴェルデキオの伝統的なボトル形状である「下が膨らんだ魚の様な形をした瓶」に似た形の100mlの瓶です。PDO(原産地呼称保護)で認められているバルサミコは、必ず、それぞれの100mlの瓶に詰められています。大変手間がかかりますので、とても高価です。12年間熟成で、100mlで、普通1万円以上します。
二番目のPGI(地理的表示保護)を持っているバルサミコを製造出来るのはエミリア・ロマーニャ州のモデナだけです。PDOよりも原料の規制が緩くなり、ぶどうを煮詰めた果汁を80%以上使わなくてはいけないのですが残りはワインヴィネガーを20%まで混ぜて熟成させることが許される、と規定されています。着色料は、PDOはすべて禁止だったものが、PGIは天然のカラメルを2%までならば使用可能になります。熟成期間もぐっと短くて60日以上でPGIが名乗れます。長期熟成タイプのインヴェッキアートは3年以上の熟成が必要にはなりますが、それでもPDOの12年よりはずっと短くて済みます。
三番目のコンディメント・バルサミコですが、「コンディメント」=「調味料」と呼ばれるものですから、言ってみれば「みりん風調味料」のような存在です。これには熟成期間の規定などはなく、バルサミコのような風味を持ったブドウ原料のヴィネガーですが、バルサミコ酢とは別物だとお考え下さい。ただ、中には、PGIには認められないモデナ以外の場所で、長期熟成で、美味しいコンディメント・バルサミコを作っている生産者も、あるには、あります。
今回、ソテーした豚肉は肩ロース肉です。塩、胡椒をして、保存袋などにオリーブオイル、豚肉を入れて軽くもみ、1~2時間ほど馴染ませます。ソースは、ぶどうとバルサミコと赤ワインのソースです。マリアージュ実験には巨峰を使いました。工程の写真のように沸騰したお湯で湯剥きにすると簡単に皮が剥けます。また、バルサミコは、煮詰めて使いますので、PDOの物では無く、PGIのバルサミコを使いました。
このポークロースト ぶどうとバルサミコのソースにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、フレシネのカルタ ネバダでした。フレシネは、世界No.1※カヴァとして、150カ国以上で愛されている、スペインを代表するスパークリングワインブランドです。カルタ ネバダは、CARTA NEVADA、スペイン語で「雪の手紙」というロマンチックな名前を持つ、やや甘口のタイプのカヴァです。上質感あるフロスティ瓶にオレンジラベルの柔らかな装いで、ドイツでは黒いボトルのフレシネよりも沢山売れているシリーズです。ぶどう品種はチャレロ34%、マカベオ 33% 、パレリャーダ 33%いずれも、カヴァの定番品種です。それぞれ違う持ち味があります。チャレロはスパークリングワインの味わいに重要なキレのある酸味とミネラル感、フレッシュさをもたらします。マカベオはビウラとも呼ばれ、リオハの白ワインに重要な品種です。フルーティな香りと爽やかさが持ち味です。パレリャーダは花の様な華やかな香りを与えます。カルタ ネバダをグラスに注ぐと、長期間の瓶内二次発酵後の熟成によって溶け込んだ泡が、真珠のネックレスのように連なって昇ってきます。ハチミツやコンポートの黄桃、白い花を思わせる甘やかな香りに、やわらかくふくよかな果実味と程よい酸味が広がる、すっきりフルーティな味わいのカヴァです。
ポークロースト ぶどうとバルサミコのソースと合わせると、カルタ ネバダの甘さと豚肉が良く合っています。
「豚は甘い素材や甘みのあるソース、そして甘さを持ったワインと相性が良いですね」
「賛否はあるけれど、酢豚にパイナップルの組み合わせですよね」
「バルサミコの甘さと酸味のバランス感にも、豚のソテー良く合っています。そして甘さのレベル感が一致しているカルタ ネバダは合わない筈がありません!」
「余韻というか、後口に当然、甘さが残るのですが、しゅわしゅわした泡の爽やかさがあって、全く気になりませんね」
これから、年末年始の華やかな食卓の季節です。フレシネは特別なお祝いの日から、ちょっと特別な気分になりたいときまで、皆様の最高の乾杯を彩るのにとっても便利なアイテムです。その時のお料理やおつまみが、フルーツやチョコレートなどのデザートや、味醂やお砂糖を使った甘さのある和食やスパイスのきいたエスニック料理だったら、このカルタ ネバダの事を思い出してください。甘みのある料理との相性は抜群ですよ。
※IWSR2020 スペインスパークリングワイン販売数量