今回のレシピは、甘酒チキンソテー バターキノコソースです。
甘酒は醴の文字を充て、その一文字だけで「あまざけ」と読む事もあります。清水桂一著「たべもの語源辞典」によると、「甘酒は、白米を柔らかい粥のように炊き、麹を加えて甘く醸した飲み物でアルコール分はほとんど無い。日本書紀で木花開耶姫(このはなさくやひめ)が醸した天甜酒(あめのたむさけ)は今の甘酒と同じような味わいの飲み物であろう」と記しています。木花開耶姫は天照大神の孫である邇邇芸命(ににぎのみこと)の奥様で、海幸彦・山幸彦の母でもある方です。日本書紀の第2巻に天甜酒の記述があります。
時神吾田鹿葦津姫、以卜定田、號曰狹名田。以其田稻、釀天甜酒嘗之。又用淳浪田稻、爲飯嘗之。
意味は、神吾田鹿葦津姫=木花開耶姫が、占いで定めた神に供えるための「卜定田(うらへた)」を狹名田(さなだ)と名付けました。その稲で天甜酒を醸して収穫の新嘗祭で奉納しました。また、渟浪田(ぬなた)の稲を炊いて新嘗祭で奉納しました、という事です。日本書紀に出てくる最初の酒は、木花開耶姫の天甜酒なのです。また日本書紀には醴自体の事も記述されています。
応神天皇の19年に、応神天皇が吉野宮に行幸され、国栖の人が醴酒を献じた。
とあります。醴酒は濃酒で、今の甘酒と同じような甘い酒だったと考えられています。
醴酒の販売の記録が、文献に出てくるのは室町時代からです。甘酒の名前になったのは17世紀の頭くらいのようで、京や大阪では夏の夜の飲み物だったそうです。江戸では、最初の頃は冬の飲み物でした。やがて夏も売られるようになり、後には四季を通じて売られるようになりました。19世紀中盤の書物である守貞漫稿には、「浅草本願寺前の甘酒店は古く、四季を通して売っている」と記しています。神社仏閣の境内や門前で売られることが多いのは、全国に1300余りある浅間神社に祀られているのが、甘酒の生みの親の木花開耶姫だからです。木花開耶姫は3人の子供を、母乳ではなく天甜酒で育てたとの記述もあり、甘酒の栄養価の高い事は昔から知れ渡っていました。現代でも甘酒のキャッチコピーに「飲む点滴」と言うのを見た記憶があります。
今回のレシピでは、甘酒を鶏肉の漬け込みに使います。甘酒に白ワインとオリーブオイルを入れて、その漬け汁に、しっかりと塩、こしょうを振った鶏肉を一晩漬けこみます。ソテーする時は皮目から焼き、焼き色をしっかり付けてから、ワインを加えて蓋をして蒸し焼きにします。ソースは、きのこ類と栗をバターでソテーして、鶏を蒸し焼きにした時に出たジュ(蒸し汁)を加えて少しとろりとするまで煮詰め、塩、こしょうで味を整えたら完成です。
この甘酒チキンソテー バターキノコソースにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、サントリーフロムファーム 塩尻メルロでした。サントリーでは、日本ワインのブランドを今年の9月に一新いたしました。
「畑からぶどうづくりと向き合うサントリーの産地が見え、つくり手が見えるワイン」をメインテーマに「サントリーフロムファーム」として発売いたしました。ラインナップは4つです。日本の頂点を目指し、世界のトップ水準に伍していく意気込みの「シンボルシリーズ」、サントリーのワイナリーの伝統と品質のこだわりの「ワイナリーシリーズ」、産地の個性や魅力を愉しんで頂きたい「テロワールシリーズ」と「品種シリーズ」の4つです。フロムファーム 塩尻メルロは、「ワイナリーシリーズ」になります。塩尻ワイナリーは長野県の塩尻市に有ります。長野県のぶどう栽培の歴史は古く17世紀末には、甲州ぶどうが山梨よりもたらされ、育てられたという記録が残っています。欧州系品種も1879年に山辺村(松本市の東部)で豊島新三郎が栽培しました。サントリーも1936年には塩尻にワイナリーを開設しました。当時赤玉ポートワインの販売が好調だったのと、満州事変以降、赤玉の原料になる赤ワインの輸入が徐々に困難になってきたからです。1950年代には、地元栽培者さん達が赤玉出荷組合を結成し、現在も組合は活動を続けています。
東京オリンピックや大阪万博などで、日本人が西洋料理に親しむ機会が増えると共に本格的な辛口ワインが徐々に増えていきました。一方で、甘味果実酒は頭打ちになってきました。サントリーでは1970年代から、将来の本格的な辛口ワイン増加を睨んで、赤玉組合員に苗木を配布し、メルロやマスカット・ベーリーAの栽培を開始してもらいました。1975年には果実酒が甘味果実酒の生産量を上回りました。1989年にはメルシャンの桔梗ヶ原メルローがリュブリアーナ国際ワインコンクールで大金賞を獲った事もあり、塩尻はメルロの産地として一躍注目されるようになりました。サントリー塩尻ワイナリーの塩尻 桔梗が原メルロ 2002も2008年洞爺湖サミット晩さん会ワインとして提供される栄誉を受けました。
サントリーフロムファーム 塩尻メルロは、「ワイナリーシリーズ」の2つの柱である登美の丘ワイナリーと塩尻ワイナリーの1本である塩尻ワイナリーのワインです。「協力者さん」とわたくしたちが呼んでいる腕利きの契約農家さんと赤玉出荷組合の農家さんが、丹精込めて育ててくださったメルロを使い丁寧に仕込んだ新たな看板商品です。マリアージュ実験に使った2018年は、8月は晴天に恵まれた年です。8月の雨量は平年の半分以下でした。9月には日本列島を3度の大型台風が襲いましたが、塩尻は晴天率も高く、色の濃い、凝縮したぶどうが獲れた年でした。
グラスに注がれたワインを見ると、日本のメルロとしては濃い方です。熟したチェリーや、小豆を煮ている時のニュアンスがあります。しっとりとしたシダ植物などを連想させる香りに、湿り気を帯びた土の様な落ち着いたアーシーさと、仄かに感じられる植物の新芽のタッチがあります。凝縮した果実味と、まろやかな酸味が上手くバランスしています。タンニンはキメ細かで、ワインに溶け込みつつも、きちんと骨格は形作る力感があります。優しさと力強さを併せ持った、実に塩尻らしいメルロです。
甘酒チキンソテー バターキノコソースと合わせると、しみじみとした鶏の旨味が口一杯に広がりました。
「鶏の味わいがメルロと出会うと変わりますね。一段と旨みが増す感じです」
「甘酒に漬けこんでいるから、鶏が甘く感じられます。その甘いタッチと違和感なく合って、メルロが活きている感じがします。果実の完熟した甘いタッチがあるからでしょうかね」
「栗とも美味しいです。栗が、メルロでほろほろと崩れて心地良いです。その時に栗の味わいがベリーと煮込んだ感じで広がります」
「きのこも凄く美味しいです」
「フロムファーム 塩尻メルロには大地を思わせる土のニュアンスがあるからね」
「塩尻メルロと合わせると、バターが強調される気がします」
「もちろん、マロラクティック発酵をしていますので、乳製品のニュアンスは持っています。それと甘酒とバターのニュアンスって良く合いますからね」
皆様も鶏を焼く時に、一度甘酒に漬け込む事を思い出してください。そしてフロムファーム 塩尻メルロとの抜群のマリアージュをお楽しみくださいませ。フロムファーム 塩尻メルロは、先日、3年振りに開催された日本ワインコンクールで、銀賞を頂戴いたしました。