今回のレシピは、スペアリブの白ワイン煮です。スペアリブは、通常は豚のアバラの肉の、それも骨付きのものを指します。英語ではSpare Ribsで、スペアの綴りはスペアタイヤのスペアと一緒ですが、予備という意味ではありません。語源は中世のオランダからドイツにかけて話されていた西ゲルマン語のribbespêrではないか?と言われています。ribbeは肋骨で、spêrは槍とか串を意味する言葉です。それがオランダ語のribbesperに転換され、更に英語のSpare Ribsに変化したようです。先ほども申し上げましたが、スペアリブは、通常は豚ですが、牛や鶏もスペアリブとして販売されている部位があります。牛は豚と同じく、アバラの骨付きの部分、通常はショートリブと呼ばれる部分です。鶏はちょっと強引なのですが、手羽先の「く」の字の先端部分を関節ごと切り取り、根本の2本の骨と身を切り離したものを鶏のスペアリブとして販売しています。豚のスペアリブと「骨に肉が付いた感じ」が似ているから名付けられたと思われます。槍とか串に似ているという意味では語源に忠実なのかもしれませんが、肋骨ではない手羽先の一部です。
さて今回は、豚のスペアリブを白ワインで煮込みます。スペアリブは塩をまぶして一晩置きます。この塩を馴染ませるひと手間で、出来上がりが格段に変わります。胡椒、小麦粉をまんべんなくまぶして、しっかりと焼き色をつけます。一緒に煮込むのは玉ねぎ、セロリ、タイムの3つだけです。シンプルでしょう?煮込みに使うのは、白ワインです。豚1kgくらいに対して白ワイン400ml、ワインボトルの半分以上を使いました。水よりも沢山いれて、贅沢に煮込みます。マリアージュ実験ではフロムファームの甲州を使いました。2時間ほど煮ていきます。途中水分が少なくなったら水を加えて、仕上がりの30分ほど前にひよこ豆を加えます。煮詰めて水分を減らしていくイメージです。電磁調理器のとろ火設定で蓋をして煮込むと、水分がもっと残りますので、電磁調理器のとろ火設定の時は蓋を外して煮込みましょう。塩、こしょうで味をととのえたら出来上がりです。
さて、このスペアリブの白ワイン煮にテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、カロ アルマ マルベックでした。カロ アルマ マルベックを醸しているボデガス カロ社は1998年創設です。ボルドーのメドック格付け1級のしかも筆頭格付けであるシャトー ラフィット ロートシルトを擁するDBR(ドメーヌ バロン ド ロートシルト)社とアルゼンチンマルベックのパイオニアと称されるカテナ社のジョイントベンチャーです。「ボデガス カテナ社」は、1902年創設です。1980年代頃に、カリフォルニアワインが高級路線を目指し、それが世界で認められ著しく発展を遂げた事に刺激を受け、「アルゼンチンで、世界に認められる最高のワインを造ること」を目指し、高級ワイン造りに取り掛かりました。その後、世界各地で行われたブラインドテイスティングで1位、2位に入る快挙を果たし、世界にカテナの名が知れ渡りました。カテナ社の3代目当主であるニコラス・カテナ氏は、アルゼンチンワインの世界的向上の功績を認められ、英国Decanter(デカンター)紙の「マン オブ ザ イヤー2009」に選ばれる快挙を成し遂げているアルゼンチンのみならず世界を代表する作り手なのです。「カロ」の名前は「カテナ社」の「CA」とロートシルト家の頭文字「RO」を合わせて生まれた名前(エリック男爵の夫人がイタリア人であることから、「愛しい人」というイタリア語にも訳されるこの言葉が選ばれました)。「CA」が前者にきているのもアルゼンチン母国に敬意を評しているからとのことです。両者の「調和」を尊重していることがネーミングからも感じられますよね。ぶどうは「ボデガス カテナ社」が所有している畑はもちろんの事、優良な栽培家と契約を結んで栽培をお願いしています。標高の異なる8つの畑の中から毎年優れた区画を選んで醸造します。メンドーサは高地なので、豊富な日照量のおかげで黒ぶどうは、ポリフェノールの含有が高まり色素の濃い果実となる事が出来ます。また標高が高く乾燥しているため、除草剤や殺虫剤に頼る必要がないと言われています。カロ アルマ マルベックはワイン界トップクラスの夢のようなジョイントから生まれたスペシャルなワインなのです。「アルマ」とは、インカの言葉〈ケチュア語〉で「夜の力」の事です。アルマのぶどう畑のある標高950~1400mに広がるアンデス山の麓、その漆黒の夜空やピュアな空気によっても たらされる神秘的ともいえる力、マルベックのぶどう由来の色の濃さ(黒)に由来しています。グラスに注ぐと、まさにアルマ、黒い色を思わせる濃さがあります。自然で豊かな香り立ち、ブルーベリーを思わせる香りとスパイスを連想させる香りがあります。心地よい果実の凝縮感とラフィットらしいエレガントさがあるワインです。スペアリブの白ワイン煮に合わせるとスペアリブの脂身の部分とカロ アルマ マルベックのしっかりとしたタンニンとがマリアージュして甘みに転換するのが判ります。
「旨いですね」
「鍋に甘さの要素は何も入れないのですが、甘いです。豚の脂の甘みでしょうかね?」
「若いタンニンと動物性脂肪が出会うと甘く感じるのです」
「ことこと煮られたコクと豚の旨味をアルマがしっかりと受け止めています」
「素材が白にも赤にもあう豚肉で、それを白ワインたっぷりで煮ていますから、どちらかと言うと白ワインに分のある料理かなぁと思っていましたが、イチオシは赤ワイン、それもしっかりとした赤になりましたね」
「かなり煮詰めていますので、旨味が凝縮しているのでしょうね。力のあるアルマで丁度良いバランス感でした」
「豚肉とアルマを合わせると、口の中からスパイシーさが戻ってきます」
「口中から戻ってきて香る香りをフレーヴァーと呼びますが、スパイシーさが際立ちますね」
「スパイスはタイムと胡椒しか使っていないのですが、グローブやナツメグ、リコリスなど甘苦系のスパイスを感じます。アルマに秘められていたスパイシーさが呼び起こされたのでしょうね」
ワインも料理も、ともに複雑に感じる、良い相性だと思いました。
皆様も是非、スペアリブの白ワイン煮に挑戦してみてください。
塩をして一日、調理に約3時間、時間と手間は掛かりますが。裏切らない美味しさです。そしてカロ アルマ マルベックとの素適なマリアージュを是非お楽しみください。