今回のレシピは、ペスカトーレです。ペスカトーレは、イタリア語では、Spaghetti alla pescatoraです。Pescatoraを辞書で調べると漁師と書いてあります。もともと漁師が漁をして、売り物にならなかったような雑魚を自分達が食べる為に調理した料理です。基本的にはトマトソースのスパゲッティで、イタリアのどのエリアが発祥の地なのかは、正確には特定出来ていませんが、ナポリではないか?と言われています。トマトを使わないペスカトーレビアンコも存在はしますが、少数派です。ペスカトーレは歴史的にはそんなに古くありません。パスタの始まりは諸説あります。古代ローマ時代に食べられていたという、小麦などの穀物を粥状に煮込んだ「プルス」が起源ではないか?という説や、エトルリアのラガノン(láganon)ではないか?という説もあります。ラガノンは現在もギリシャなどで、名前が残る平打ちのパスタです。小麦粉を使い始めた時代から作り始められており、「マグナ グラエキア」の時代の古代ギリシャ人も食べていたようです。古代ギリシャのマカリア(Macaria)もパスタの原型の一つと考えられます。マカリアは「祝福された死者」という意味をもち、死者を送り出す葬儀の時に提供された料理も同じ名前になったものですが、時を経てマカロニへと変化してきました。小麦は米の様に粒をそのまま食べる事が出来ません。皮が複雑な形で入り組んでいて、でんぷん部分を取り囲んでいますので、食べる事が出来るように精白するには、粉にするしか無かったのです。粉にした物を食べる為には、湯に入れて粥にするか、捏ねてそのまま焼いてパンにするか、平らに伸ばして、細長く整形してから、茹でるか、焼くか、揚げるかをしてパスタにするしか無かったのです。なので、パスタは小麦が栽培されるようになった今から1万年前くらいから、世界各地の栽培地で、偶発的に出現していったのだと思います。ペスカトーレビアンコは、その名前を頂いていたかどうかは別にして、かなり昔から食べられていたと考えられます。ペスカトーレの歴史が浅い原因は、トマトです。トマトはイタリア語で Pomodoro ポモドーロです。語源は Pomo d'oro で「黄金の果実」、これが、時代を経て、ひとつの単語になりました。トマトの種をヨーロッパに持ち帰ったのはスペインのエルナン・コルテスで1540年の事です。イタリアで育てられた記録は1548年のピサでです。赤い色が美しいので、貴族や富裕層の観賞用で栽培されたようですが、有毒植物のベラドンナに似ていた為に「毒リンゴ」と呼ばれていたそうです。そこから品種改良が加えられ、食用と認知されるまでに約200年の時間が掛ったと記されていますので18世紀の半ばまで、イタリアでは殆ど食べられることが無かったようです。イタリアで、最初にトマト栽培が拡大したのはカンパーニア州の、特にナポリ近郊だったようです。気候や土壌がトマト栽培に適していたようで、トマトとパスタの組み合わせもナポリで生まれたそうです。一般社団法人日本ソムリエ協会のワイン教本には、イタリアの州別の地方料理で、カンパーニア州で「ペスカトーレそのもの」の記載は無いのですが、スパゲッティ アッラ ヴォンゴレやスパゲッティ アッラ プッタネスカ、ピッツァ マルゲリータなどのトマトソース料理の代表的な名前が掲載されています。
今回はこの定番のペスカトーレを鈴木薫先生にワインスクエア流のもっとワインに良く合うレシピにブラッシュアップして頂きました。魚は有頭海老とイカとあさりです。あさりは「産地偽装問題」以降、値段が急騰しています。正しく中国産と表示してあるあさりも市場にはあるのですが、仲卸の話では「全然売れない」そうです。ペスカトーレの材料は、ある意味自由ですから、価格の安定しているベビー帆立や冷凍のあさりでも、もちろん代用できます。
さて、このペスカトーレにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、ポルトガルのヴィーニョ ヴェルデのガゼラでした。ヴィーニョ ヴェルデはポルトガルの北西部、大西洋に面したエリアの、ミーニョ川周辺で生産されるワインです。ヴェルデはポルトガル語で緑を意味し、直訳すると緑のワインとなりますが、若々しいタイプのワインと言った意味合いです。ポルトガル全体のぶどうの1/8以上を、このエリアで生産します。世界の味わいのトレンドに合っているのか、この10年で生産量が約2倍になった、元気な生産地です。
ガゼラは、レモンを思わせる柑橘系のフレッシュな香りと、シュワッと爽やかな微発泡が合わさり、「すっきり&フレッシュな味わい」が特長です。通常のワインに比べて低めのアルコール度数9%で軽やかな飲み心地なのも使い勝手が良いですね。ぶどう品種はローレイロ、ペデルナン、トラジャドゥーラーやアザルといった地場系品種を使っています。
ペスカトーレとガゼラを合わせると、ガゼラの爽やかさが際立ちます。魚介類の様々な味わいをトマトソースが包み込んでいるペスカトーレを、微発泡のガゼラが優しく解きほぐします。
「ガゼラが軽やかなので魚介類の素材の旨味が素直に引き出されます」
「辛口のワインですし、アルコールも9%と低いですからアルコール由来の甘みも殆ど感じません。イカなどの素材の、ほのかな甘みを強調してくれますよね」
「軽いからと言って、海老の濃厚な旨みに負けている訳では無く、しっかりと受け止めています」
「あさりの貝としてのコクもくっきりと感じ取る事が出来ます」
「トマトの味わいを、ガゼラの爽やかな酸味が一層引き立ててくれています」
ガゼラのアルコール度数は9度と軽やかです。この組み合わせは、ちょっとお酒の欲しいブランチなどに最適だなぁと思いました。
定番料理ではありますが、皆様も是非、ペスカトーレを作ってみてください。そしてガゼラとの軽やかな相性をお楽しみくださいませ。