今回のレシピは、ブロッコリーの茎といかのアーリオオーリオです。ブロッコリーの茎は、捨ててしまう方もいらっしゃるかもしれないですが、実はとても美味しいのです。
皆様も、日本では多くの食品が廃棄されている、という悲しいニュースを聞かれた事があると思います。農林水産省は、2021年11月に、通常の発表のペースよりも半年も早く「2019年度の食品ロス量は570万トン(前年度比30万トン減)、このうち食品関連事業者から発生する事業系食品ロス量は309万トン(前年度比15万トン減)、家庭から発生する家庭系食品ロス量は261万トン(前年度比15万トン減)となり、いずれも、推計を開始した平成24年度以降で最少である」と発表しました。早く発表したのは1年で30万トンの削減は大きな成果である、と考えたのだと思います。毎日のように報道されているSDGsにも、食品ロス量の削減目標が定められています。皆様はすでにご存じだとは思いますが、SDGsとは Sustainable Development Goalsで、日本語で言うと「持続可能な開発目標」となります。「誰一人取り残さない(leave no one behind)」状態で、持続可能な、よりよい社会の実現を目 指す世界共通の目標です。2015年の国連サミットにおいて、全ての加盟国が合意した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で掲げられました。2030年を達成年限とし、17のゴールと169のターゲットから構成されています。そのターゲットの1つに「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させる」と言うものが食品ロスに関する目標です。日本においては、2000年の半分が目標値で、平成30年に、先に家庭用が2000年433万トンの半分の217.5万トンが決まり、事業用の目標が令和元年に273.5万トンと決まりました。事業用の目標まで、あと35.5万トン、家庭用目標まで残り43.5万トンです。自分たちに直接関係する家庭用でいうと全国民一人当たり1年間に3.63kgの削減です。4kg近い削減と言うと、難しそうに聞こえますが、1日10g削減出来れば達成できる目標です。いろいろ工夫をすれば、達成できない数字ではないのかなぁ...と思います。ちょっと古いデータですが、2016年の環境省の調査で、家庭用食品廃棄の割合を見てみると、一番多いのが「食べ残し」で約4割です。残りを「直接廃棄」と、「過剰除去」が3割づつを占めています。過剰除去とは、食べる事が可能な部分だけれど、厚目に皮を剥いてしまったり、食べずに取り除いてしまったりする事です。直接廃棄は、本来食べられるものを、消費期限が過ぎたりして、みすみす捨ててしまっている事を指しています。今日のレシピのブロッコリーの茎といかのアーリオオーリオは、3割も占めている「過剰除去」に効くレシピです。
ブロッコリーはアブラナ科アブラナ属の緑黄色野菜で、わたくしたちが食べているのは、花蕾の集合体と茎です。イタリアで品種改良されて出来た野菜で、ブロッコリーの名前も、イタリア語で花蕾を表すbroccoからきています。和名は芽花椰菜(めはなやさい)とか、緑花椰菜(みどりはなやさい)やイタリアカンランなどです。花椰菜はカリフラワーの事で、ブロッコリーの、かなり近い親戚です。ブロッコリーかカリフラワーなのかは、見た目がそっくりで、花蕾が付くまではどちらなのか、ほとんど見分けが付きません。イタリアカンランのカンランとは、キャベツを意味し、漢字では甘藍と書きます。皆さんはブロッコリーを冷蔵庫の野菜室にいれていて黄色くなった事はありませんか?それは、ブロッコリーを長時間保管するには野菜室の温度が高いからです。生育可能な温度なので、花蕾が成長して、花が付きかかっているのです。スーパーなどの品出しを見ていると、ブロッコリーは段ボール箱ではなく発泡スチロールの箱に、細かいクラッシュアイスを敷き詰めて運ばれているのが判ります。そうです、ブロッコリーの最適な保管温度は0℃なのです。なので、本当は、野菜室ではなく、氷温室が最適なのですが、家庭用冷蔵庫はブロッコリーを入れる程は広くないのが普通です。次善の策は、通常の冷蔵部分に乾燥しないように保管する方法です。ちなみに家庭菜園などでブロッコリーを育てた方はご存じかと思いますがブロッコリーを収穫せずに花を咲かせると巨大な菜の花のような、とても美しい花が咲きます。 花言葉は「小さな幸せ」で、最近では結婚式のブーケトス用のブーケにも使われることがあるそうです。
アーリオオーリオはイタリアのソースです。原語表記だとaglio olioです。aglioはニンニク、olioは油の意味です。オリーブオイルでニンニクを炒めて、風味が全体に行き渡るようしたオイルです。
さて、このブロッコリーの茎といかのアーリオオーリオにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはジョルジュ デュブッフ プーイィ・フュイッセでした。2020年に亡くなったジョルジュ デュブッフ氏は「ボジョレーの帝王」と呼ばれていましたが、生まれたのはA.O.C.プーイィ・フュイッセのシェントレ村でした。デュブッフ氏は早くに父を亡くし、11歳年上の兄 ロジェにぶどう栽培の事は教わりました。10歳のころには早くも1区画のぶどう栽培を任されました。小さい頃から嗅覚味覚に優れ、一度試飲したワインは決して忘れなかったそうです。デュブッフ氏のワイン商としてのスタートは、自ら醸したプーイィ・フュイッセや、近隣のプーイィ・フュイッセの生産者から優れたワインを選び出して自転車に積み、近くのレストランに売り込みに行くと言う商売でした。なので、プーイィ・フュイッセの品質へのこだわりも、並々ならぬものがあるのです。
A.O.C.プーイィ・フュイッセはブルゴーニュに6つある地区の南から2番目であるマコネー地区にあります。マコネー地区は白ワインで有名な産地で、白ワインはシャルドネだけの使用が義務付けられています。プーイィ・フュイッセの畑を歩いてみると、大きな2つの丘が目にはいります。北側にあるのがヴェルジソンの丘で、南にあるのがソリュトレの丘です。2つの丘は東側が緩やかな斜面ですが、北、西、南側は切り立っており、原始時代には、鹿などを東側から追い立てて崖底に落として狩りをしたようで、痕跡が多数見つかっているそうです。プーイィ・フュイッセの特に優れた畑は、2つの丘の他にもたくさんある丘の南向きの斜面です。
ワインを注ぐと、熟した洋梨やジャスミンの花を連想させる華やかな甘い香りと、樽熟由来の炒ったナッツのような香ばしい香りがあります。甘いハチミツのタッチもある、まろやかな口当たりの辛口白ワインです。ブロッコリーの茎といかのアーリオオーリオと合わせると、ニンニクの香ばしい香りと自然な樽香とが素敵に溶け合っていました。
「樽香がアーリオオーリオと合いますね」
「樽熟ワインなら何でも合う、と言う訳ではありませんね。カリフォルニアの樽リッチなシャルドネは、苦く感じられて全然合いません」
「樽使いが上手なんでしょうね。デュブッフは繊細なワインである「ボジョレーの帝王」です。どこまでなら上品で、どの線を越えたら下品になる。という樽の使い分けに長けているのだと思います」
「今までは、いかと合わせるワインは軽やかで酸が生き生きとしたワインを選びがちでしたが、まろやかでリッチなシャルドネも良く合いますね」
「新鮮なヤリイカが、少しスモーキーになって、ひと手間掛けた感がでています」
「このプーイィ・フュイッセは、熟したぶどうの甘みを感じるリッチなワインですよね。そのぶどうの完熟からくる甘さ感が、素材としての仄かな甘みの邪魔をするかと思いきや、よく調和しています」
「ブロッコリーの茎といかの、たった2つの素材だけを炒めてアーリオオーリオのソースを絡めたシンプルな料理が、こんなに複雑感のあるワインと合うのは、ある意味不思議です」
「シンプルが故に、素材の持ち味をストレートに活かしているのでしょうね。そしてデュブッフのプーイィ・フュイッセが複雑でありながら繊細さを持ち合わせている、と言う事だと思います」
皆様も是非、ブロッコリーの茎といかのアーリオオーリオに挑戦して、食品ロス削減にチャレンジしてください。美味しいものを捨てるのは本当に勿体ない事だと思います。そしてジョルジュ デュブッフ プーイィ・フュイッセとの抜群の相性をお楽しみくださいませ。