この料理に合うワイン

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1st

シャトー ラグランジュ  

シャトー ラグランジュ

フランス
ぶどう品種 カベルネ・ソーヴィニヨン 、メルロ、プティ・ヴェルド

今回のレシピは、牛肉のソテー マデイラソースです。年末年始のご馳走ステーキの時に、一度試して頂きたい絶品ソースです。後でも述べますがマデイラは開栓しても殆ど変化しません。マデイラを1本、ネットなどで買っておくと、この絶品ソースを約4回楽しめます。マデイラ自体は安いマデイラで何の問題もありません。

マデイラは世界三大酒精強化ワインの一つです。酒精強化ワインというのは、ワインの保存性を高める為にグレープスピリッツなどの度数の高いアルコール(酒精)を添加したものです。ワインの主発酵の終了後に添加すると辛口になります。後期だとほのかな甘口、初期に添加すると甘口になります。世界の三大酒精強化ワインと言うと、スペインのシェリー、ポルトガルのポート、マデイラだとされます。 さらに、イタリアのマルサラを加えて四大酒精強化ワインと呼ぶこともあります。度数の高いアルコールを得る為には、蒸留技術が必須ですが、蒸留技術はイスラム文化圏のジャービル イブン・ハイヤーンが編み出しました。ジャービルは西暦721年ごろにイラン東部のホラーサーンの町で生まれました。化学、薬学、冶金、天文学、哲学や音楽にまで精通しており、夥しい数の著書を記したとされていますが、後世の人が彼の名前を使って書かれたものも存在する様で正確な著作数は判っていません。硫酸、硝酸や塩酸を精製する技術や、金さえも溶かすことが出来る王水を作ったのもジャービルなので、錬金術の総元締めとも言える人です。ジャービルが工夫に工夫を重ねた蒸留器はアランビックとして現在でも、彼の工夫のままで受け継がれています。四大酒精強化ワインのうち、どれが一番最初にアルコール添加を始めたのかは、正確な事は判りませんが、世界周航を初めて成し遂げたフェルデナンド マゼランが1519年の大航海の時にシェリーを2百樽あまりも詰んでいる記録がありますので、シェリーが一番古いのかもしれません。一番最後なのはマルサラなのは、歴史的事実として記録があります。イギリス人のジョン ウッドハウスが1773年に酒精の添加を始めたそうです。

さて、今回のレシピで活躍するマデイラですが、産地は、ポルトガルの首都リスボンから南西に1000km離れた大西洋にあるマデイラ島です。地方自治体としてはマデイラ自治地域と呼ばれています。面積は741km2ですから奄美大島よりも少し広く、佐渡島よりもちょっと狭い感じです。北緯32.66度なので宮崎県の延岡市と同じくらいですね。 首都フンシャルの年間平均気温 19.7℃、年間降水量 627mmです。東京が、それぞれ15.4℃と1528mmですから、日本よりも暖かく雨は少ないです。海洋性気候なので冬は暖かく、夏はそんなには暑くなりません。2月の月平均最低気温でも13℃もあり、8月の月平均最高気温は27℃までしかあがりません。東京が2℃と31℃なのでフンシャルの温度変化が少なく温和な事が良く判ります。マデイラ島を開発したのはエンリケ航海王子です。エンリケ航海王子は、ポルトガルのアビス朝の創始者ジョアン1世の第5子として1394年3月にポルトで生まれました。1415年にジブラルダル海峡の対岸であるモロッコのセウタを占領し、ポルトガルが海洋進出する足掛かりを掴みました。15世紀の頃の西洋と東洋の貿易は、シルクロードから地中海を通るルートが中心でした。陸路は1453年まではモンゴル、それ以降はオスマントルコが支配していました。海路はイタリアのベネチア商人が牛耳っていました。イベリア半島では、8世紀から始まっていたレコンキスタ(国土回復運動)の機運が徐々に高まり、最終的には1492年に成就するのですが、15世紀はイスラム勢力を徐々に排除出来るようになってきた時期でもあったのです。エンリケ航海王子のセウタ占領もその流れでした。セウタ占領後、エンリケ航海王子はアフリカを廻ってインドを目指す事を思いつきます。長い航海を可能にするには、各地に補給基地が必要です。あちこち探して、1419年にマデイラ島を発見しました。乗組員の一部をそのまま定住させて、ぶどう栽培や、後にワイン醸造も行われました。もちろん最初は酒精強化ワインでは無く、普通のスティルワインでした。その後もアフリカ西岸を南下し続け、赤道も越え、1485年にはナミビアに到達しました。皆さんはコロンブスが1492年にアメリカ航路を発見した事は良くご存知かと思います。その時のコロンブスの後ろ盾はスペインでした。実は、コロンブスは、スペインの前に、ポルトガルに「俺のインド航路発見の出資者にならないか?」と打診をしていたのです。ポルトガルは、コロンブスの力を借りずとも自分達の力だけで、アフリカ西岸ルートでインドにたどり着けると考えていた為に、コロンブスからの提案を拒絶したのです。その後、コロンブスは1492年にアメリカ大陸への航路を発見します。スペインはコロンブスが原住民から略奪した金銀財宝で巨万の富を得ました。ポルトガルは1488年に喜望峰を回る事に成功、更にヴァスコダガマがインドのコルカタ(旧カルカッタ)にたどり着いたのは1498年の事でした。ポルトガルは、このインド航路による通商で莫大な利益を得ました。商人たちは、赤道を越えてワインを運ぶうちに味わいが良くなる事に気が付きました。本来ならワインを劣化させる、大敵であるはずの酸化や高温が、偶然にもマデイラ独特の風味を産みだしたのです。そこでワインを船に積み、沈没という高いリスクを払ってでも赤道を超え、また戻ってきてヨーロッパで販売した時期さえあったそうです。マデイラで酒精強化が行われるようになったのはかなり遅いタイミングです。四大酒精強化ワインでは3番目です。1713年にスペイン継承戦争があり貿易船がマデイラに寄港しなくなりました。そうすると、行き場を失った大量のワイン在庫がマデイラ島に積み上がりました。平地が殆ど無いマデイラ島の倉庫が限界に達し、仕方なく蒸留し、その酒精を混ぜたのが、酒精強化の始まりです。マデイラの特徴は、何と言っても、船倉での赤道通過時の保管状況を再現する為の加熱熟成です。普及品はエストゥファと呼ばれる蒸気などで加熱出来るタンクで熟成をさせます。高級品はカンテイロと呼ばれるガラス窓のある温室のような屋根裏部屋に貯蔵して加熱します。マデイラには何種類かのぶどう品種が使われ、その品種がマデイラの味わいのタイプを表しています。使われる品種は、高級品は白ぶどうのセルシアル(Sercial)、ウェルデーリョ(Verdelho)、テランテス(Terrantez)、ボアル(Boal)、マルヴァジア(Malvasia)で、セルシアルが、一番辛口で並び順に甘くなっていきます。普及品は黒ぶどうのティンタネグラモーレ(Tinta Negra Mole)でつくられます。マデイラは熱を加えて酸化熟成させますので瓶詰後は殆ど変化しません。

1903年にベルギーのアルベール王子の宴席で、ヨークシャー豚のハムに添えられたそうです。

さて、マデイラソースを作ります。フライパンにバターを熱し、エシャロットをしっかりと炒め、マッシュルームも加え炒めます。マデイラ200ccを入れて一度煮立たせ、フォン ド ヴォーと塩を加えて1/4になるまで煮詰めます。それにバターを加えてよく混ぜながらとろみをつけ、塩、こしょうで味を整えるとソースの出来上がりです。煮詰める時間は掛かりますが、市販のフォン ド ヴォーを使えば、あまり手間を掛けずに超絶ソースの出来上がりです。

この牛肉のソテー マデイラソースに、テイスティングメンバーが選んだイチオシワインはシャトー ラグランジュでした。マリアージュ実験では2017年ヴィンテージを使いました。2017年はヨーロッパ各地で遅霜の大被害を被った年です。ジロンド河から少し内陸に入ったラグランジュは、川沿いのシャトー ラトウールやシャトー レオヴィル ラス・カーズ、シャトー ベイシュヴィルと違い被害はありました。でもその被害を受けたのは、セカンドラベルであるフィエフ ラグランジュ用の区画ばかりで、本来シャトー物になる区画は殆ど被害が無かったのです。霜ですから、冷気の溜まりやすい低地にあるフィエフ ラグランジュ用の区画を襲って、高台にある良い畑の被害は無かったのです。

グラスに注ぐと深いダークチェリーレッドが美しく輝きます。ブルーベリーやブラックベリー、ブラックチェリーを思わせる濃い香りが立ち昇ります。口に含むとフルボディで、大きな構造を感じます。完熟からくる甘やかさ、穏やかながらしっかりとある酸が美しくバランスしています。

和牛のソテーにマデイラソースをたっぷりと付けていただきます。

和牛独特の香りとマデイラソースが香りの所から絡み合って調和しています

「王道ソースと和牛の相性は安心のコンビネーションですね」

「そのコンビと、ボルドーのグランヴァンは、本当に文句の付け所の無い完璧なマリアージュです」

「フランス料理の神髄はソースです。ヌーヴェル キュイジーヌ以降、ソースよりも素材の持ち味を最大限引き出す方向に料理界の主流が変りましたが、ソースの美味しさが失われた訳では無いのです」

「『王道』これを『クラッシック』と呼ぶのです。それは決して古臭いとかと言う意味ではないのです。音楽でいうところの現代音楽とクラッシックの関係を考えてもらうと判り易いかなぁ...素晴らしさや輝きは少しも色あせていないのです」

「それとボルドーのグランヴァンの輝きも一緒ですよね」

「長い間、高い評価を受け続けていますから価格も高いのです。でも、その安定の高品質と、牛肉などとの鉄板の相性の良さは、やはり流石ですね」

皆さまも、「ここ一番!」の時のステーキには、王道ソースのマデイラソースを思い出してください。そしてシャトー ラグランジュとの鉄板のマリアージュを是非お楽しみください。

2位に選ばれたのは、レオナルド ブルネッロ ディ モンタルチーノ、西洋の天才科学者レオナルド ダ ヴィンチが生まれた故郷の畑でつくられるワインでした。ワインメーカーは、このエリア(キャンティ、キャンティクラシコ、ブルネッロ)のDOCG協議会の長であるリカルド・プッチ氏です。そしてレオナルドはトスカーナ 最高コスパ賞 連続受賞(過去10年で6回)の秀逸なワイナリーなのです。レオナルド ブルネッロ ディ モンタルチーノのぶどう品種はサンジョヴェーゼ・グロッソ100%です。30~32℃の温度で醗酵を始め、果皮などと一緒に15~20日間ルモンタージュ(ワインを下から抜いて、浮かんでいる皮に掛ける)をします。その後スロヴェニアンオークの大樽にて最低でも2年の熟成を実施します。
濃く紫がかったルビー色です。香りのボリュームが多く、ブラックベリーや赤いチェリーなどの印象があります。フルボディで柔らかいタンニンとはっきりとした酸が特長です。余韻が長く、優しい印象のワインです。
和牛のソテーと合わせると、肉の旨みとがっちり手を結ぶマリアージュでした。トスカーナの肉料理と言えば、なんと言ってもフィレンツェ風Tボーンステーキの「ビステッカ アッラ フィオレンティーナ」ですよね。ブルネッロ ディ モンタルチーノには、本質的に牛肉との相性の良さがあるんだなぁと思ったマリアージュ実験でした。

2nd

レオナルド ブルネッロ ディ モンタルチーノ 

レオナルド ブルネッロ ディ モンタルチーノ

イタリア
ぶどう品種 サンジョベーゼ・グロッソ

3位に選ばれたのは、コステルス デル プリオールでした。プリオラートはリオハと共に、DOCaに認定された、たった2つしか無いスペイン最高ランクのワイン産地です。スペイン北東部にあるカタルーニャ州タラゴナ県にあり、海岸から20キロメートルに位置しています。この地域にぶどうを持ち込んだのは、12世紀この地に移り住んだ修道士たちで、修道院を「PRIORAT de SCALA DEI 」 と命名したことからこの地が「プリオラート」という地になりました。19世紀後半、フィロキセラの被害にあって衰退しましたが、1950年代以降、昔の上質なワインをつくろう!と熱意を持った醸造家がプリオラートに戻りました。最近ではフランス品種のぶどうも栽培し、土着ぶどうとの素晴らしいコンビネーションによる良質なワインがつくられるようになり、DOCaにも認定されました。プリオラートの土壌は、大きな岩と“リコレリャ”と呼ばれるスレート (粘板岩の薄い板)で覆われています。ぶどうは、その多くが山の斜面で栽培されているため、手作業での収穫となります。プリオラート地区では年間降雨量は200mm~400mmと非常に少なく、季節による気温差は非常に大きく、夏は42度以上、冬は-10度まで下がる過酷な土地です。
使用品種はガルナッチャ60%とカリニェナ40%です。樽熟成は、100%フレンチオーク樽で12ヶ月です。よく熟れたプラムのような香りや、樽由来のバニラ香が感じられます。口にいれると非常に濃厚な果実味で、心地良い酸味と充実したボディが上手くバランスしています、タンニン分もしっかり感じられる力強いワインです。牛肉のソテー、マデイラソースと合わせると、一流フレンチレストランで食事をしている錯覚に陥ります。家で、この感覚を味わえるのは滅多に無い事だと思います。

3rd

コステルス デル プリオール  

コステルス デル プリオール

スペイン
ぶどう品種 ガルナッチャ 、カリニェナ

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