今回のレシピは、タイ料理のヤム ポラマイです。ヤムは混ぜる、和えるで、ポラマイは果実全般を指す言葉です。今回は鈴木都先生に海老と色んな柑橘を使った、ワインに良く合うヤム ポラマイを考案してもらいました。柑橘類はムクロジ目のミカン科に含まれるいくつかの植物の総称です。広義の柑橘類は、オーストラリアなどに分布するクリメニア属、エレモシトラス属、ミクロシトラス属を含みますが、通常、柑橘類と呼ぶ場合は、ミカン属(カンキツ属)、キンカン属とカラタチ属の3つの属のものを指す場合が多いです。実際に食用に供される柑橘類は、ほとんどがミカン属(カンキツ属)に属しています。柑橘の柑は蜜柑(みかん)のかんで、きつは、橘(たちばな)です。橘は日本に古くから野生していた日本固有の植物です。漢字は木偏に音符「矞」(クヰツ)で構成されています。「矞」には錐で穴をあける、穿つ。の意味があります。橘にある棘を表しているのでしょうかね。橘は常緑樹なので、永遠に継続するめでたい植物に位置付けられています。
柑橘類自体が総称なので、原産地は色々です。オレンジはインドのアッサム地方が原産です。温州蜜柑は中国の温州から伝わった、と言う都市伝説がありますが鹿児島県の薩摩地方が原産です。遺伝子解析から母は紀州蜜柑で父はクネンボである事が確定しています。紀州蜜柑は温州蜜柑が広がる前には、広く栽培されており、当時の日本で一般に蜜柑と言うと、紀州蜜柑の事でした。平安時代に中国の浙江省から伝えられたと言われています。大分県津久見市には1157年に伝来したとされる尾崎小ミカン先祖木がありDNA的には紀州蜜柑です。樹齢800年を超える、現存する中では日本最古の柑橘類の古木で天然記念物に指定されています。温州蜜柑より小ぶりで、酸味が強く、各房に種があるので、ちょっと食べ難いです。なのであっと言う間に温州蜜柑に主役の座を明け渡しました。
グレープフルーツは原産地が確定していません。亜熱帯であろうことは判って居るのですが、西インド諸島ではないか?というのが有力です。ブンタンとオレンジの自然交配です。
夏蜜柑は、山口県長門市の青海島が原産です。初夏に花が咲き、実った果実が年を越し翌年の夏に食べ頃を迎える為に夏代々と呼ばれ、学名もナツダイダイです。代々がヨヨとも読める為に、夏ヨヨとしても流通していたのですが関西では中風の事をヨイヨイ、ヨヨと呼んでいたので、縁起が悪いと、関西の商人が夏蜜柑に改名を奨め、それが定着しました。元々は萩が名産で、一時期は千ha近く栽培されていましたが、もっと甘い甘夏に主流を奪われました。今、萩市では夏蜜柑の復活に力を入れています。
ネーブルオレンジは、百科事典を見ると、ブリタニカにはブラジル原産と書いてありますが、世界大百科事典は「ポルトガルからブラジルに伝わったセレクタオレンジである」と記しており判然としません。唯一はっきりしているのが名前の由来です。ネーブルと言う名前は、お臍の事で、枝にくっついている反対側に可愛いお臍があるのが特長なのです。日本でも広島県や愛媛県で幅広く栽培されています。伊予柑や八朔は日本原産です。伊予柑は山口県の萩市、八朔は広島県の因島です。日本で交配された新柑橘も沢山あります。清美は農林水産省果樹試験場興津支場で交配され1979年に命名されました。温州蜜柑とスイートオレンジの日本で最初の交雑種です。デコポン®(不知火)は農林水産省果樹試験場口之津試験場で清美とポンカンを交配して生まれました。その後、熊本県の不知火エリアに生産が広がり、名前をシラヌヒ(不知火)としました。1991年3月1日に熊本県果実農業協同組合連合会(熊本果実連)が不知火の中の糖度13度以上酸度1度以下のものだけを選抜してデコポン®として出荷しました。現在では、デコポン®は日本園芸農業協同組合連合会と商標権再使用契約を結んだ県連協及びその傘下の農協からのみ出荷される品質基準などの条件を満たした不知火なのです。と、言う事で、3月1日はデコポンの日(日本記念日協会)なのですよ。その他、はるみ、せとか、紅まどんななど魅力的なニューフェースが続々発売されています。今回のレシピでは、皆さんの眼に魅力的に映った柑橘をご自由にお選びください。ただ、甘い柑橘ばかりではなく、酸の効いたグレープフルーツなどを一つ入れられた方が、バランスが良くなると思います。
たれは、レモングラス、ココナッツシュガー、ナンプラーとポイントのチリインオイルです。チリインオイルはナムプリックパオと現地で呼ばれるタイの万能調味料で、ホムデンというタイの紫色のたまねぎ・干しえびを中心に色々な調味料がはいっています。タイのXO醤と呼ぶ人もいるくらい美味しい調味料です。
さて、このヤム ポラマイ(色々柑橘と海老、タイハーブのチリインオイル和え)に、テイスティングメンバーが選んだイチオシワインは、ローラン・ペリエ ラ キュベでした。
1812年に創立したローラン・ペリエは、現在世界で有数の優れたシャンパンメゾンの一つとして知られています。この成功には二つの秘訣があるのです。
一つ目は、長い伝統により築かれた“信条”を貫く事でした。“信条”とは、
自然を尊重しワインを尊重する事
品質を追求する事
そして人を大切にする事です。
人を大切にするのは、メゾンで働く人のみならず、ローラン・ペリエに関わる全ての人を大事にするという事です。
もう一つの秘訣は、前当主であるベルナール ドゥ ノナンクールの信念でもあった、家族経営に徹する事でした。そうする事で、メゾンの独自性と価値観を今日まで変わらず保つ事ができました。この“信条”は、ベルナール ドゥ ノナンクールが逝去した後も、脈々とメゾンの全ての人に引き継がれているのです。
メゾンの「名刺」とも言うべきシャンパンが、スタンダードクラスです。生産量の一番多いスタンダードクラスが、一番誤魔化しが効きません。ローラン・ペリエのメゾンのスタイルは「フレッシュさ」「エレガントさ」「バランスの良さ」の3つを併せ持つ事です。「バランスの良さ」を求める為には、瓶内二次発酵後の長期熟成が必要です。でも、長期熟成を施せば、フレッシュさが失われがちになります。
「どうやれば、この3つが並び立つのだろう…」長い時間を掛けてノナンクール氏がたどり着いた答えのポイントは、2つあります。一つ目は、ぶどう栽培農家との関係を密にし、調達するぶどうの質を高め、フレッシュさを高める事。もう一つはシャンパンに使える3つのぶどうのうち最もフレッシュさを持ったシャルドネの比率を高める事です。シャルドネは3つのぶどうの中で最も高価です。シャンパーニュ地方でシャルドネの栽培面積はたったの28%しかありません。そのシャルドネをローラン・ペリエ ラ キュベは、なんと50%から55%も使っているのです。
ローラン・ペリエ ラ キュベは、メゾンのスタイルである「フレッシュさ」「エレガントさ」「バランスの良さ」を表すメゾンの顔というべきシャンパンです。バランスの良さを出すために、ノンヴィンテージ シャンパンは法律的には15ヶ月の熟成で良い事になっているところを、なんと3倍以上の最低4年間、熟成を経なければ出荷しないのです。
グラスに注ぐと、細かな泡が真珠のネックレスの様に連なって上ります。香りはもぎたての柑橘類や、青いリンゴ、白い花を連想させる繊細な印象が感じられます。しばらくすると甘い香りとトーストのような香ばしい香りも立ち昇り、複雑さを感じさせます。味わいは、フレッシュでエレガント。心地よい余韻が印象的な、エレガントでバランスの取れた味わいの辛口シャンパーニュです。
ヤム ポラマイと合わせると、海老の旨味が素直に広がる感じがしました。
「柑橘の風味が広がりますね」
「爽やかなライムやレモンのニュアンスが最初にふわっと広がって、そこで海老を齧ると海老の素材の持つ、ピュアで素朴な甘みがじわっとやって来る感じです」
「ローラン・ペリエは典型的なシャルドネメゾンだから、その、シャルドネの良さ、持ち味が如何無く発揮されている、ってところですね」
「清々しい、柑橘系の味わいや香りと良く合っています」
皆様も是非ヤム ポラマイに挑戦してみてください。そして、ローラン・ペリエ ラ キュベとの抜群の相性の良さをお楽しみくださいませ。