今回のレシピは、ガイ トム カミン(鶏肉ときのこのターメリック煮)です。ガイは、鶏肉のことで、トムが煮る、という意味でも使う言葉で、カミンはขมิ้นで、カミンチャンとも言います。日本語ではウコン(鬱金)、英語でターメリックTurmeric、学名はCurcuma longaで、インド原産と言われています。鬱金は「鮮やかな黄色」を表す言葉で、まさにウコンの根茎の色からきています。ウコンは沖縄ではウッチンです。ウッチン茶は、沖縄ではポピュラーな飲み物ですよね。ウコンには精油成分とポリフェノールの1種であるクルクミンが豊富に含まれています。漢方では、理気・去瘀(きょお)・利胆として用いるとされています。理気とは「気を巡らせて整える」、去瘀は「血行障害を治す」、利胆とは「胆汁の分泌を促進する」です。またウコンは痛み止めとして、胸の痛み・生理痛・打身の痛みなどにも用いられるのです。また、健胃作用があるとされているので、肝臓の不調・胃炎や胃酸過多などにも使用されています。飲み会の前にウコンの入ったドリンクを飲む人も多いですよね。またウコンの花は透明感のある白に、ほんのりと紫色の縁取りがあって、それはそれは美しい花です。
ガイ トム カミンはタイ南部の料理です。タイ料理はバンコクを中心とするタイ中部の料理とチェンマイなどのタイ北部料理とタイ南部料理と北東部を占めるイーサーン料理に分けると言われています。タイ南部のお料理は辛い料理も多いのですが、船で渡ってきた南インドからの商人たちの影響を受けていると言われているそうですので、ターメリックや様々なスパイスを多用します。観光地として有名なプーケットはウコンの名産地でもあるのですよ。
今回のガイ トム カミンの鶏は胸肉を使いました。副素材は玉葱と白まいたけ、それとホムデンを薄くスライスして、カリカリに揚げたものを使いました。ホムデンはタイの定番野菜で小さな赤玉ねぎです。アジアンマーケットでは当然取扱が有ると思いますし、今はネットスーパーでも買えて100g300円程度です。なければエシャロットや玉葱で代用可ですが、この揚げたホムデンなどの、玉葱をカリカリに揚げた風味がワインとの相性を何倍にも引き立てますので、玉葱で良いので、絶対に作って乗っけてくださいね。
スパイスは、主役のターメリックの他、レモングラス、カーとこぶみかんの葉とプリッキーヌ(鷹の爪で代用可)です。カーはショウガ科なので生姜の仲間です。日本では「南姜(なんきょう)」と呼ばれ、生姜よりも強い香りが特徴なので香り生姜とも呼ばれます。鍋に水、玉葱、レモングラス、カー、こぶみかんの葉、プリッキーヌを入れ、中火にかけます。沸いて10分ほどしたら鶏肉、白まいたけ、調味料を加えて、鶏肉に火が通るまで煮て、ホムデンのカリカリに揚げたものを乗せたら出来上がりです。
さてこのガイ トム カミンにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはシャトー オーシエール、ドメーヌ ド オーシエールのフラッグシップワインでした。ドメーヌ ド オーシエールはドメーヌ バロン ド ロートシルト社(以下DBRとする)が南仏コルビエール地区に所有するドメーヌです。DBRの現在のオーナーはエリック・ド・ロートシルト男爵のお嬢さんであるサスキア・ド・ロートシルト氏です。彼女の指揮の元、ラベルデザインや製品ラインナップなどの検討が始まっているそうで、今のラベルは、今回イチオシに選ばれた2017年ヴィンテージが最後なのかもしれません。オーシエールの所有面積560haのうち、ぶどう畑は約170haで、残りは森林とガリッグ(南仏の低潅木が群生した土地)で、引き算をすると390haと、ぶどう畑の倍の面積にもなるのです。しかし「自然と共生し、サステナブルなぶどう畑を運営する」ためには、これくらいのゆとりが必要だとDBRは考えているのです。シャトー オーシエールはフランスのラングドック・ルーション地方で原産地はコルビエールAPです。ぶどう品種はシラー、ムールヴェードル、グルナッシュやカリニャンです。エリック男爵が一目惚れした土地、南仏コルビエールでつくり出される「ドメーヌ ド オーシエール」のトップキュヴェなのです。全体量の40%をボルドーのポーイヤックにあるシャトー ラフィット所有の樽工房でつくられたフレンチオークの樽で12~16ヶ月間熟成しています。熟したカシス、ブラックチェリーやバラの印象があり、ゴージャスです。力強いアタックで、構造の大きさを感じさせます。タンニンの量はかなり多いですが、極めてキメが細かく余韻の長いワインです。
出来上がったガイ トム カミンからは、カーの、生姜よりもさらにかぐわしいと言われる香りが立ち昇ります。ターメリックの香り、レモングラスの爽やかな香り、鶏肉の心惹かれる香り・・・・
口にいれると優しいスープの味わいが広がります。
「しみじみと美味しいスープですね」
「こんなに美味しいのに、タイ料理って基本的に出汁はひかないのですよね。不思議です」
「酒飲みには堪らないスープですね。二日酔いの朝にも、二日酔い防止にもどちらでも使えます」
「この料理、本体はローストしたり焦がしたりする工程は無いのですが、ホムデンのカリカリ揚げからスモーキーな香りが漂ってきています。それがシャトー オーシエールのシラーの少し焦げたようなニュアンスと共鳴しています」
「そうそう、最後に振った粗挽き黒こしょうの香りともシラーの香りが良くあっています」
「ロタンドンですね、シラーにあるこしょうのような香りを感じさせる香り物質ですよね」
「赤ワインにも白ワインにも、とても良く合う料理です」
「どのワインも美味しく食べられる料理ではあるのですが、シャトー オーシエールとの相性は圧倒的でずば抜けています」
今日作った料理が、準備したワインと、予想していたよりも良く合って、料理が更に美味しくなり、ワインもワンランク美味しく感じられる幸福さ・・・・
コロナ禍で、新しく増えた、数少ない良かった事なのかもしれません。
皆様も是非、ガイ トム カミンにトライしてみてください。そしてシャトー オーシエールとの幸せな相性をお楽しみください。