今回のレシピは、ホイ トード(ムール貝のタイ式お好み焼き)です。ホイは貝で、トードは揚げるとか、多めの油で焼くと言った意味です。タイでホイ トードを頼むと牡蠣のホイ トードが出てくる事があります。鈴木都先生によるとホイ トードは貝のタイ式お好み焼き全般を指しているので、色んな貝のホイ トードがあって、その「集合」の中に牡蠣のホイ トードも含まれているそうです。牡蠣のタイ式お好み焼きには、オースワンという名前のものもあります。オースワンになると同じジャンルの料理ではあるのですが、食感が大分違います。ホイ トードはカリッという食感ですが、オースワンはしっとりしています。日本のタイ料理屋さんのなかには、ホイ トードにタイ式お好み焼きの訳を付け、オースワンにタイ式チヂミの訳を付けている店もあります。オースワンは、タイ語としての意味は無くて、福建を代表する小吃である蚵仔煎(カキ入りのオムレツ)の閩南語(びんなんご 福建省南部の方言)の発音であるô-á-chian(オアチェン)の音が伝わったものではないかと推測されています。ホイ トードは、元々庶民の屋台料理なので、昔から安くて手に入り易いムール貝を使うのが一般的だそうで、今回もムール貝で作って頂きました。国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、2019年のムール貝の養殖生産量トップは中国で、チリ、スペイン、ニュージーランド、イタリア、フランス、韓国と続き、その次がタイで世界第8位です。ちなみにタイは牡蠣の養殖では、世界第7位です。貝類の養殖では先進国なのですよ。2020年の8月3日には台風3号の影響でパタヤ市内各所のビーチにムール貝やアサリが大量に打ち上げられたそうです。1年以上経った現在でも「ムール貝 パタヤ」でネット検索をすると、その時の様子が閲覧できますよ。一人で300kg以上獲った猛者が何人もいたようですよ。
今回は、ワイン会のフィンガーフードにも使えるように、可愛らしく小さなホイ トードに仕上げて頂きました。
生地は米粉とタピオカパウダーを1対1の割合で作ります、卵を水で溶いてナンプラーで味付けします。野菜は万能ねぎをつかいました。ムール貝を一粒ずつ生地と一緒に大さじで掬い、フライパンに並べて焼きます。途中でひっくり返し、中身に火が通るまで揚げ焼きにします。硬めに炒めたもやしとチリソースを添えれば出来上がりです。
さて、このホイ トードにティスティングメンバーが選んだイチオシワインはオーシエール シャルドネでした。ドメーヌ ド オーシエールはドメーヌ バロン ド ロートシルト社(以下DBRとする)が南仏コルビエール地区に所有するドメーヌです。DBRは2018年3月より、オーナー、社長が共に交代となりました。前のオーナーは、シャトー ラフィットの顔とも言えるエリック・ド・ロートシルト男爵で1974年よりオーナーを務めていました。今のオーナーはサスキア・ド・ロートシルト氏でエリック男爵のお嬢さんです。前の社長はクリストフ・サラン氏で、1990年より社長兼CEOでした。新しい社長は、ジャン・ギョーム・プラッツ氏で、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)のCEOを経て、2018年から就任しました。栽培・醸造の責任を持つテクニカルディレクターはエリック・コレール氏とオリヴィエ・トレゴア氏の2人で、ボルドーのシャトーの責任を、エリック・コレール氏が持ち、南仏と世界のドメーヌの責任をオリヴィエ・トレゴア氏持つという分担になっています。
ドメーヌ ド オーシエールの始まりはローマ時代にさかのぼります。ドメーヌ ド オーシエールのぶどう畑は、ナルボンヌ近くのコルビエール地区にあります。中世にはシトー派修道院が農場として運営していましたが、フランス革命を経て競売にかけられ、その後オーナーがかわる度に荒廃し、すっかり荒れていました。1999年DBRが、この畑のポテンシャルにほれ込み、広大な畑を購入し、畑や醸造設備に多額の投資をし、一からの再生をしました。DBRにとって、フランス内では、ボルドー地方以外のぶどう畑は初めてで、まさにエリック男爵の新たなる挑戦でした。ラフィットさながらの入念さでワインづくりを行い、南仏にありながら、非常にエレガントなスタイルのワインをつくり出しています。オーシエールの所有面積560haのうち、ぶどう畑は約170haです。荒廃したぶどう畑を、ラングドックで土壌コンサルタントとして活動していたオリヴィエ・トレゴア氏が土壌分析し、最適のぶどうを選び抜き植樹しました。土壌は、斜面では砂利質や砂岩質、平野部は砂質です。3分の2の畑がAOPコルビエール(シラー、ムールヴェードル、グルナッシュ、カリニャン、サンソー)、残りの3分の1がIGPペイ ドック(シャルドネ、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド)に属します。前者が主に斜面部に植えられているのに対し、後者は平野部に植えられています。そしてシャルドネはフォンフロワド山の麓の最も冷涼な北向きの区画で育てられています。ワイナリーのぶどう畑の倍の面積を誇るのは、森林とガリック(南仏の低潅木が群生した土地)です。自然と共生することでサステナブルなぶどう畑運営ができるのです。オーシエールの初代のテクニカル ディレクターであるエリック・コレール氏は、現在はシャトー ラフィットを中心とするボルドーのシャトーのテクニカル ディレクターに昇格しました。その後任として、オーシエールの再建の立役者であったオリヴィエ・トレゴア氏が栽培・醸造の責任を持つようになりました。
オーシエールでは多種の品種栽培を行っているため、収穫は長く、9月初めから10月初めにかけて行われます。白ワイン用のぶどうは、スキンコンタクト後、ステンレスタンクで発酵し、熟成させます。黄色いリンゴや洋梨を思わせる心地良い香り、アカシアや少し黄色い花の印象もあります。完熟した果実の充実感と爽やかさが感じられる辛口白ワインです。
ホイ トードと合わせるとオーシエール シャルドネの厚みとムール貝のコクとが良くマッチします。
「ムール貝の深いコクは、コハク酸なのでしょうかね、その旨みをオーシエール シャルドネがしっかりと受け止めていますね」
「ムール貝自体の味わいが、より鮮明に見える気がします」
「ぶどうが完熟した厚みはあるけれど、貝の風味を邪魔する事の多い樽を使っていないから、貝の味わいがくっきりと細かい所まで判りますね」
「甘辛いタレって、結構強くて、ワインの味わいが消えてしまう事が良くありますよね。このオーシエールはタレに力負けしないですね」
「辛い料理に、繊細な辛口ワインを合わせるは難しいですよね。このオーシエールは厚みからくる甘やかさがあるので、柔軟に合わせてくれますね」
皆様も是非ホイ トードに挑戦してみてください。
そしてオーシエール シャルドネとの素適なマリアージュをお楽しみください。