今回のレシピは、ズワイガニのボイル 蟹みそクリームソースです。カニは節足動物門に属する生き物です。分類学による分類で、節足動物門は動物界最大の分類群だと言われています。属する種は、その数なんと約110万種です。分類学で認識されている全動物種の85%以上も占めているのです。様々な場所を棲み処としています。陸や水中や土中はもちろん空中や、果ては寄生などあらゆる場所に進出して、様々な生態系と深く関わっています。外骨格と関節がある生き物です。この節足動物という門の名前自体が、付属肢に関節がある事にちなんでいます。体の表面はクチクラと呼ばれる堅いキチン質とタンパク質で出来た外骨格で覆われています。ソフトシェルクラブの回にも書きましたが、外側に堅い殻がありますから、成長する為には、脱皮が必須です。古くから存在する生き物で、節足動物門で最も古い化石があるのが三葉虫で、5億2千万年前のものが見つかっています。節足動物門のなかに、多甲殻類があって、カニ、エビ、オキアミやシャコが含まれる軟甲綱とフジツボやカメノテが含まれるフジツボ亜鋼がそこに属しています。フジツボやカメノテも甲殻類なんですよ。フジツボは豊洲市場にも、天然ものや、青森県での養殖されたものが入荷していますし、カメノテは鹿児島や長崎県では食用として流通しています。スペインでもリアスバイシャスでは、カメノテはペルセドゥと呼ばれて、カニそっくりの味わいで、アルバリーニョと良く合うとされています。
さて今回はズワイガニです。筆者が子供のころの昭和30年代には、大阪で蟹というと通常はガザミ(蝤蛑)、つまり渡り蟹を指しました。わたしの家の近所にも、漁師の奥さんが天秤棒で、生きたガザミとシャコを売りに来ていたのを覚えています。私の父は島根県の浜田の出身なのですが、その父が子供の頃の島根県では「セイコガニ(タラバガニの雌の山陰地方での呼び名)は子供のおやつだった。松葉ガニ(タラバガニの雄の山陰地方での呼び名)も取れすぎると、傷むけぇ(鮮度が落ちるので)値段が付かんようになって、畑に肥料代わりに撒きよった」と話を聞かせてくれました。大阪でもズワイガニが流通するようになったのは、蟹のハサミと脚が動く巨大看板で有名な、かに道楽が、道頓堀に開店してからです。昭和37年の事でした。その頃は、貧乏だった我が家の食卓にも、松葉ガニは時折上りましたので、価格は覚えておりませんが、安かったのだと思います。いろいろ探すと昭和45年の東京のスーパーの特売広告が見つかりました。それを見ると船上冷凍のズワイガニ400gが、なんとなんと138円と驚きの安さでした。
今では、日本海のあちらこちらでブランド蟹が沢山登場し超高級品化してはいますが、早くから解禁を定めたり、資源管理に力をいれたりしたので、漁獲は、かつてよりは少なくなってはいますが、秋刀魚のような、漁獲量の急減には見舞われていません。今までの最高価格は2019年11月7日の鳥取港での初セリでの1匹500万円で、当時のギネスに世界最高値の蟹で掲載されました。
ズワイガニは日本各地でいろいろな名前で呼ばれます。雄は、先ほどの山陰での松葉ガニ、兵庫では地ガニ、福井では越前ガニ、石川では加能(かのう)ガニです。雌は、山陰でセコガニ、親ガニ、丹後でコッペガニ、北陸で香箱です。1960年代に北海道や日本海側などで「タラバガニ」と呼ばれていたこともありましたが、ヤドカリの仲間の、ハサミの無い脚が片側3本の本家タラバガニと紛らわしいので呼ばないようになりました。
今回は、ズワイガニのレシピですが、鈴木薫先生にワインスクエアらしく、ソースをアレンジしてもらいました。ワインと良く合う蟹みそクリームソースです。まず、熱湯に甲羅を下にして入れ、15分ほど茹でます。取り出した蟹は胴体と足を分け、みそを小鍋に取り出します。白ワインを加えて一度沸騰させ、生クリームを加えて半量になるくらいまで煮詰めて味を整えたら完成です。後は、静かに、身をほじほじして、ワインと合わせて愉しむだけです。蟹の身をそのままワインと合わせるのと、蟹みそクリームソースを付けて合わせるのでは、相性が全く別の物になり、楽しいですよ。
この、ズワイガニのボイル 蟹みそクリームソースにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは登美の丘ワイナリー 登美の丘 シャルドネでした。マリアージュ実験に使ったのは2019年ヴィンテージです。2019年の登美の丘でのシャルドネは、若木は、早い時期に熟度が上がり、ぶどうの段階から南国フルーツの香りが果実に感じられました。なので、それに合った酵母を選択し、タンク発酵、タンク熟成をしました。成木のシャルドネは、一部凍結果汁濃縮を実施して、樽醗酵し、そのまま樽熟成させました。樽醗酵樽熟成は全体の58%、タンク発酵タンク熟成は42%です。樽ワイン中の新樽比率は64%ですので、全体に対する新樽比率は33%になります。爽やかなリンゴと熟したリンゴの両方を思わせる香りと、ぶどうの段階からあったパイナップルやトロピカルフルーツのニュアンスがあります。花も、白い落ち着いた印象の花とマリーゴールドのような黄色い花のタッチが立ち昇り、その後から穏やかな樽香が現れます。アタックは、ふくよかで丸みがあり、穏やかな酸味とのバランスが良いです。凝縮した果実感が口中に広がり、心地良い余韻が続くワインです。
蟹と合わせると、蟹の身の、素材の持つ繊細な甘みが引き立つのがわかります。
「蟹の甘み、半端ないですね」
「蟹の素性の良さとぶどうの素直さが良く合うのでしょうかね。美味しいです」
「蟹のみその濃厚な旨さと、登美の丘のシャルドネのリッチさが丁度良くバランスしています」
「後から来る、登美の丘のシャルドネの樽の香りと、生クリームとが凄く良く合ってますよね」
「この料理の3つの美味しさの要素、蟹の身そのものと、みそと、生クリームのすべての要素に上手く合っています。まとまりが良く、それでいて、その3つの美味しさが、更に明確に判る感じですね」
今回のマリアージュ実験では、16種類のワインのうち、シャルドネが4種類ありました。それぞれに美味しいポイントが有ったのですが、3つの要素全部を引き上げるという点では登美の丘 シャルドネがダントツでした。