この料理に合うワイン

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1st

ヤルンバ ワイ シリーズ シラーズ/ヴィオニエ 

ヤルンバ ワイ シリーズ シラーズ/ヴィオニエ

オーストラリア
ぶどう品種 シラー、ヴィオニエ

今回のレシピは、ソフトシェルクラブのブラックペッパー炒めです。ソフトシェルクラブは、脱皮したての、殻が未だ硬化する前のカニの総称ですので、特定の種類のカニを指している訳ではありません。アメリカでソフトシェルクラブと言えば東海岸に生息するブルークラブが主体です。アメリカ人はソフトシェルクラブが大好きで、寿司ロールに揚げたソフトシェルクラブが巻かれているのは良く見かけます。アメリカでのソフトシェルクラブの旬は4月から9月と言われているようで、その時期には市場でよく見かけるそうです。日本ではワタリカニやイシガニのソフトシェルクラブが生産されていますが、流通量のほとんどは東南アジアからの輸入です。日本でも漁師さんは、ソフトシェルクラブを「月夜の蟹」と呼んで、昔から食べていました。月夜の蟹とは元々、殻ばかり立派で中身がスカスカの蟹を指す言葉でした。蟹は、月夜の明るさを怖れ、餌を食べる事が出来なくなって身が瘠せると信じられていたので出来た言葉でしたが、脱皮したてで殻が柔らかく、揚げれば殻ごと食べる事が出来るソフトシェルクラブも同様に月夜の蟹と呼ばれていました。

脱皮は、脱皮をしない人間にとっては、とても面白い現象ですが、実は脱皮する生物は多いのです。昆虫や甲殻類などの、表皮が堅い節足動物は、成長する為には脱皮をくりかえすしかありません。また、堅い殻は無くても、蛇やトカゲなどの爬虫類や両生類も脱皮します。脱皮する時に抜ける方向も様々です。蝉の脱皮は、皆さんもご覧になった事が有ると思います。蝉の幼虫は背中が割れて、幼虫から見ると上の方向に抜けます。では、蟹はどの方向に抜けると思いますか?皆さんが茹でた蟹を食べる為に甲羅を外す時には、褌を上にして、甲羅のお尻側で甲羅と本体を外されると思いますが、脱皮の時には、その位置から抜けます。ズワイガニやタカアシガニのような長い脚の蟹も、器用に足を折りたたんでお尻の方向に抜けていきます。蜘蛛も同じ方向に抜けます。蟹は脱皮を始める前に、まず殻の石灰質を体内に回収し、それから抜けます。古い殻から抜けたら新しく殻になる部分に石灰質と水を送り込むことで硬化を促進します。なので、脱皮した所で水から離すと硬化する為に必要な水を送り込む事が出来なくて殻は堅くなりません。おが屑とかの中に入れてやると、活かしたままのソフトシェルクラブになります。2-3日は、ぷにゅぷにゅと殻が柔らかいまま生きているので、ちょっと不思議ですよね。爬虫類の脱皮は表面だけですが、甲殻類の脱皮は体の中の組織も脱皮します。蜘蛛の脱皮した古い殻をルーペなどで細かく観察すると、気管などの内部構造まで、総て脱皮しているのが分かります。

フライパンに、多めのバターと粗く砕いた黒こしょうとにんにく、生姜のみじん切りを入れ、弱火で香りが出るまで炒めます。そこにソフトシェルクラブを加え炒めます。火が通ったら、砂糖、オイスターソース、醤油を加えて炒めながら絡めたら、もう完成です。

この、ソフトシェルクラブのブラックペッパー炒めにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはヤルンバ ワイ シリーズ シラーズ/ヴィオニエでした。ヤルンバはオーストラリア最古の家族経営ワイナリーのひとつで、1849年に、イギリス出身のサミュエル・スミスが12歳の息子のシドニーと共に、月明かりの下でぶどうを植え、ヤルンバ(先住民の言葉で「すべての土地」)と名付けたのが始まりです。現当主は創業者から5世代目にあたるロバート・ヒル・スミスです。ワイナリーは、南オーストラリア州のアデレードから北東に約80km離れたアンガストンにあります。この辺り一帯は、バロッサGIです。バロッサGIはバロッサ ヴァレーGI 栽培面積10,350haとイーデン ヴァレーGI 2,270haを内包する大きなGIです。バロッサ ヴァレーGIとイーデン ヴァレーGIは隣り同士で、境界線を接しているのですが、標高差150mから200mあるバロッサ レンジと呼ばれる崖で隔てられています。なので気温が全然異なっていてイーデン ヴァレーGIサイドの方がずっと冷涼です。バロッサ レンジはカンガルー アイランドからアデレード ヒルズを通ってフリンダー山脈に繋がるマウント ロフティー レーンジズの一部です。マウント ロフティー レーンジズは今から100万年から200万年くらい前、新生代第四紀のチバニアンからカラブリアンに掛けての時代に、アデレードを挟んで、東西から押し付け合う圧力がかかった時に出来たと言われています。

ヤルンバのラベルにも記されている時計塔のある大理石と砂岩で出来た建物は、ヤルンバがこの地に深く根を下ろし、末永くワインを醸し続けるという決意の表れで、その建物は今も本社屋として使われています。ヤルンバはユニークな取り組みをしています。1970年代には、ナーサリーと呼ばれる苗木研究所を作り、オーストラリアに、本当に良く合うクローンは何か?を追い求める研究をし、オーストラリア全土のぶどう栽培に貢献しました。1980年代には、当時豪州では珍しかったヴィオニエを植樹しました。ヴィオニエは本国フランスでも日当たりに恵まれた畑でしか完熟しないという栽培の困難さから1960年代には、12haにまで栽培面積が減っていました。ヤルンバは、ひとたび完熟した時の素晴らしい酒質に着目してヴィオニエ栽培に、いち早く取り組んだのです。また南半球で唯一とも言われる自社樽工房も所有しています。チーフ ワインメーカーはルイーザ・ローズです。彼女はヤルンバで20年以上ワインづくりに貢献し、世界的にも有名なヴィオニエ生産者として高く評価されています。また、2014年には豪州ワイン研究所の所長に就任しました。豪州ワイン研究所は、シラー(シラーズ)にある、こしょうを思わせる香り物質がロタンドンである事を究明した研究所として有名です。

ヤルンバ ワイ シリーズ シラーズ/ヴィオニエはシラーズ95%、ヴィオニエ5% で醸されています。ブラックチェリーやスミレの花を連想させる華やかな果実味と、キメ細かいタンニンが特長の、しなやかでエレガントな味わいの赤ワインです。

ソフトシェルクラブのブラックペッパー炒めとヤルンバ ワイ シリーズ シラーズ/ヴィオニエを合わせると蟹の旨みが引き立つのが判ります。

「ソフトシェルクラブを初めて食べた時は衝撃的でした。蟹をほぐさなくても、バクバクたべれるのですからね」

「脱皮したての柔らかい殻を油で揚げると、全部食べれますからね。今回はバターで揚げ煮の状態で調理しています」

「ソフトシェルクラブと合わせる事でワインの味わいが増しています」

粗挽きの黒こしょうの香りが、ヤルンバ ワイ シリーズ シラーズ/ヴィオニエと合わせる事で更に引き立っています。

「こしょうの香りの元であるロタンドンがシラーに多く含まれていて、それがシラーのこしょうを思わせる風味の元になっている事を突き止めたのは、このヤルンバのチーフ ワインメーカーであるルイーザ・ローズが所長を務める豪州ワイン研究所ですからね」

「似たもの同士は、良い相性の典型的なパターンですね」

「バターの濃厚な香りとにんにくの香りが、ヴィオニエの豊かな香りとマッチしています」

皆様も、是非ソフトシェルクラブのブラックペッパー炒めに挑戦してください。ソフトシェルクラブは、スーパーマーケットではあまり見かけませんが、ネットでは多数取り扱われています。そしてヤルンバ ワイ シリーズ シラーズ/ヴィオニエとの、これぞマリアージュ!という組み合わせをお楽しみください。

2位に選ばれたのはシャトー ラグランジュでした。シャトー ラグランジュは1983年にサントリーが取得したメドック格付け3級の名門シャトーです。かつてボルドー大学で醸造研究所長を務めていた醸造学者で、シャトー マルゴーの再生も成し遂げていたエミール ペイノー博士に協力を要請しました。社長には、ペイノー門下生であるマルセル デュカス氏が、副会長には同じくペイノー氏の元で学んだサントリーの鈴田 健二氏が就任し、畑から醸造所、シャトーまで徹底的な改革を行いました。やがて、ラグランジュは復活を遂げ、世界に認められるワインへと成長しました。その後マティウ ボルド社長と椎名 敬一副会長の下、ラグランジュの持つテロワールの限界に挑戦する「創造」のステージに進み、さらなるラグランジュの品質向上に取り組んでいました。今年、日本人のトップとして桜井楽生が椎名に替わって着任し次の進化を目指し歩み始めました。
シャトー ラグランジュの栽培面積は118haで、黒ぶどうではカベルネ・ソーヴィニヨン67%、メルロ28%、プティ・ヴェルド5%が栽培されています。
ブラックチェリーやカシスなどを思わせる香りと赤いバラの印象が在ります。ナツメグやリコリスなどのスパイスのイメージもあります。口に含んだ時のボリューム感があり、酸は柔らかみがあります。キメ細かなタンニンがぎっちりと詰まっている感じの、スケールの大きさを感じさせるワインです。ソフトシェルクラブの味噌がカリカリに揚がった所と特に良く合いました。「甲殻類にボルドーのグランヴァンですか?」とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが北陸では蟹にボルドーの上物の赤ワインは、よくある組み合わせなのです。

2nd

シャトー ラグランジュ 

シャトー ラグランジュ

フランス
ぶどう品種 カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、プティ・ヴェルド

3位に選ばれたのはローラン・ペリエ ラ キュベでした。蟹の遊泳脚である5番目の脚の付け根には、蟹肉がたっぷりとあるのですが、その素直な甘さを、見事に引き立てているマリアージュでした。カラリと揚がったクリスプなタッチとローラン・ペリエのキレのある酸とも良くマッチしていて、海のミネラルをたっぷりと感じる事の出来た素晴らしい組合せでした。

3rd

ローラン・ペリエ ラ キュベ 

ローラン・ペリエ ラ キュベ

フランス
ぶどう品種 シャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエ

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