今回のレシピは、秋刀魚のパエリアです。パエリアはスペイン東部バレンシア地方発祥の米料理です。米は日本人の主食で、今更、解説も必要ないとは思いますが、米はイネの実です。米はトウモロコシ、小麦とともに世界三大穀物と呼ばれています。2018年のFAO(国連食糧農業機関)のデータでは、世界三大穀物で最も生産量が多いのが、トウモロコシで11億5千万トン、2位が米で7億8千万トン、小麦が3位で7億4千万トンです。イネは、イネ目、イネ科、イネ亜科、イネ属の植物で、種(しゅ)もイネです。イネ属の植物には23種77系統あると言われています。このうち21種が野生イネ、栽培イネは2種でアジア栽培イネとアフリカ栽培イネの2種類だけです。アフリカイネはグラベリマ種で、主にアフリカ西部でわずかに栽培されています。アジアイネには大きく分けての2つの系統があります。耐冷性が比較的高いジャポニカ種(日本型)と耐冷性の低いインディカ種(インド型)です。ジャポニカ種は粒の長径が比較的短い形をしています。日本、朝鮮半島、中国など温帯~亜熱帯の地域で栽培されています。インディカ種は粒の長径が長く、細長い形をしています。インド、スリランカ、台湾南部、中国南部、東南アジアなど熱帯・亜熱帯の地域で栽培されています。ジャポニカ種は更に2つに分けられ温帯日本型と熱帯ジャワ型のジャバニカ種に分けられ、スペインのバレンシアで栽培されているのは主にジャバニカ種です。
米の国別の生産量の順位を見ると、1位中国、2位インド、3位インドネシア、4位バングラデシュ、5位ベトナム、6位タイ、7位ミャンマー、8位フィリピン、とアジア勢が続き、ここまでの上位8ヶ国で世界の83%を占めています。9位にやっと南米のブラジルが顔を出し、10位パキスタン、11位カンボジア、12位アメリカで日本が13位です。アフリカ勢は14位のナイジェリアが最初で、ヨーロッパ勢は31位のイタリアと41位のスペインです。米は圧倒的にアジアが強いのですね。
パエリアpaellaはスペインの東側の中央部、地中海に面したバレンシア地方発祥での料理で、お米と野菜・魚介類・肉などをスープで炊いた料理です。現在ではバレンシア地方以外にも広まり、スペインを代表する料理として日本でも良く知られています。スペイン語ではパエジャに聞こえ、バレンシア語だとパエリャに聞こえます。paellaはバレンシア語では、もともとフライパンの事です。パエリア専用の黒くて薄い鉄鍋はpaelleraパエジエーラと呼ばれます。使うお米は、先ほど出たジャバニカ種です。ジャバニカ種はジャポニカ種の仲間なのですが、細長い形をしていて、ちょっと大粒で、粘り気が少ない種類です。
スペインにおける稲作は711年にアフリカからやってきたイスラム教徒のムーア人が伝えたと言われています。本場であるバレンシアで「バレンシア風のパエリア」を注文すると、うさぎと鶏のパエリアが出てくるのが普通です。また、バレンシアでは基本的には昼ご飯で、夜提供されることは少ないようです。今回のレシピは、多くの日本人が「パエリア」と聞くと思い浮かべるであろう「魚介のパエリア」それも秋刀魚が入るバージョンです。毎年、秋になると秋刀魚の記事を書いており、年を追うごとに、秋刀魚が獲れなくなっていると書いているのですが、今年もまたまた不漁の知らせが続いています。なんと、過去最低だった2019年の4万5千トンを大きく下回りそうな雲行きです。1950年台には60万トン近くも有った漁獲量が1/20になるかもしれない危機的状況なのです。
秋刀魚のパエリアを作ります。秋刀魚以外の魚介類は海老、あさり、イカを使いました。海老は出来れば有頭海老の方が、圧倒的にコクがでます。秋刀魚は三枚におろしてフライパンで皮目から焼き色をしっかりつけるように焼くのがポイントです。
この、秋刀魚のパエリアにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはビオンタ アルバリーニョ、スペインのガリシア地方、リアス バイシャスのワインでした。リアス バイシャスは、スペインの他のワイン産地と気候が大きく異なります。皆さんは、スペインのワイン産地と聞くと、ヨーロッパでは暖かく(暑く)、雨が少ない、赤ワインがメインの産地のイメージを持たれるのではないでしょうか?大西洋に面したリアス バイシャスは全然違うのです。このエリアの大都市であるビーゴの年間降水量はなんと1520mm、東京都の1490mmよりも多いのです。入り組んだ海岸線が美しい白ワインの産地です。皆さんが社会科の授業で習われたリアス式海岸の言葉はここが語源なのですよ。その海に突き出すような斜面に小規模のぶどう畑が転々と存在する、どこか懐かしい風景が広がっています。数年前に、全日本最優秀ソムリエの佐藤陽一夫妻と共に、ビオンタのワイナリーを訪れた年も、収穫に入ってから雨が降らなかった日は、1日も無かったという事でした。この地で栽培されるのはアルバリーニョ、果皮が分厚くて、雨が続いても病気に負けない丈夫な品種なのです。それから仕立て方が棚栽培です。ぶどう畑の風景が、どこか懐かしいのは日本と同じ棚栽培というせいでもあったのです。
ビオンタ アルバリーニョと秋刀魚のパエリアを合わせると、魚介の旨みをたっぷりと吸い込んだご飯のコクと、ビオンタのボリューム感とが、丁度良くバランスがとれています。
「ビオンタの香りって面白いですよね。黄桃のような黄色く充実した甘い果物の香りと、爽やかな柑橘やりんごの香りの両方がありますよね」
「その複雑な香りと、秋刀魚の皮の焦げた香りと良く合うんですよ」
「秋刀魚のしっかりとした旨みに負けない厚みがビオンタにはありますね」
「それと潮風のニュアンスです。ビオンタのぶどう畑は海に突き出した岬にある所が多く、ワインに海のタッチがあります」
「本当だ!ビオンタを飲むと海辺のバーベキューでパエリアを食べている感じがしますね」
この夏は、海に行けなかった方も多くいらっしゃるかと思います。ビオンタ アルバリーニョと秋刀魚のパエリアで海辺気分を楽しんでくださいませ。スペインでは、伝統的に木曜日が「パエリアの日」と言うか、「パエリアの曜日」だそうです。試してみるなら木曜日なのかもしれません。