今回のレシピは、焼きナスのマリネです。ナスはキク類ナス目ナス科の植物です。インドの東部が原産と言われています。フランス語ではaubergine、英語ではegg plantです。中学校の時に、英語の授業でegg plantを習って「形は似てなくは無いけど、センス無い名付け方だ」と思っていましたが、大人になって白いナスを見たとき「うわっ!卵そのままだ!!」と思いました。インドや東南アジアでは日本で主流の茄子紺色のものよりも、緑色や白いナスが多いので英語名称がegg plantになったと言われています。ナスは種類が多く、世界中で1000種類、日本で200種類くらいあると言われています。日本だけでそんなに有るのか?と種屋さんを中心にインターネットで調べてみました。10分ほど検索しただけで、異なる名称のナスが197種類もありました。伝統野菜も含めると200以上ありそうです。形も様々です。通常のナスの形から、真ん丸のもの、少し長い物、細い物、凄く長い物。長いナスは北部九州で多く育てられています。長いものだと60cmに達する物まで有るんですよ。色は日本では茄子紺が主流ですが、イタリアでは緑や、薄い緑、緑の縞模様のものなどもあります。又、米ナスは、胴体は茄子紺ですがヘタは緑色です。
農林水産省のホームページには「子どものための農業教室」が有ります。その中のナスの記述によると、日本に入ってきたのは奈良時代とされています。インドから西へ伝わったナスは、5世紀より前に古代ペルシャや、アラビア半島に到達しました。東へ伝わったものは東南アジア、チベットから中国に広がりました。中国では1000年も前からナスが作られていたようです。日本には中国からと、朝鮮半島からと、東南アジアからの、大きくわけて3つのルートで入って来て、奈良時代にはすでに作られていたと考えられています。平安時代に藤原時平らが編纂した延喜式という律令の施行細則を記録した本の「巻24」にナスの栽培方法が書かれています。
日本での都道府県別の生産量ランキングでは高知県、熊本県、群馬県、福岡県の順です。
(2017年農林水産省データ)ここ数年この順位に変動はありません。北海道や沖縄でも栽培されており、全国で広く栽培されている作物です。ちなみに消費量日本一は新潟県です。
ナスは、焼いても、煮ても、揚げても美味しい野菜です。火が通ると滑らかな食感になります。漬物にしても美味しいです。今回は鈴木薫先生に、ワインに良く合う焼きナスのマリネのレシピを考案して頂きました。
この、焼きナスのマリネにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインは塩尻ワイナリー 塩尻メルロ ロゼでした。メルロはボルドー原産ですが、UCデーヴィスとモンペリエのINRAの遺伝子チームがカベルネ・フランとマグドレーヌ・ノワールの交配で、ボルドーでも新しい品種である事を突き止めました。この発見は2009年の事でした。「ボルドーでも新しい品種・・・」これを裏付ける記述があります。ブノワ フランス編のテロワールアトラスではポムロールの所で「メルロの歴史は、実は浅い。たった100年余り前はカベルネ・フランとマルベックが育てられていた」と書かれています。メルロは世界での品種別ぶどう栽培面積では堂々の2位で、シェアは7%です。日本では醸造用ぶどう栽培面積で6位と順位こそ低いように見えますが、比率では6.1%でかなり多い品種です。中でも塩尻は日本におけるメルロの聖地ともいえる場所です。メルロの都道府県別の栽培面積で、長野県は国税庁の2018年調査で全国の、なんと52%も占める断トツの1位です。長野県の中の、品種別市町村別のデータは公表されていないのですが、塩尻市報を見ると2017年の長野県のワイン出荷量の76%が塩尻市です。メルロは、長野の主要5産地では、塩尻以外でメルロをある程度栽培しているのは、千曲川流域くらいです。メルロの長野県での栽培比率も76%と仮定すると、全国の、なんとなんと39%が塩尻で栽培されている事になるのです。塩尻でのぶどうの栽培の歴史は長く、1890年に豊島理喜治が、桔梗ヶ原にコンコード、ジンファンデル・ハートフォード、ナイヤガラなど26品種、約3000本の苗を植えたのが始まりです。その時に日本の醸造用ぶどうの父と呼ばれる川上善兵衛が技術指導しました。その後第二次世界大戦の足音が近づく1936年にサントリー塩尻ワイナリー、1938年には大黒葡萄酒株式会社が相次いで設立されました。これは赤玉などの甘味果実酒の原料ワインの輸入が難しくなってきたからです。塩尻はコンコードやナイヤガラなどの栽培で活況を呈します。その後の大きな転機は、1975年にスティルワイン消費量が甘味果実酒消費量を逆転した事です。塩尻でも甘味果実酒用の品種からメルロなどスティルワイン品種への転換が徐々に始まり、サントリーやメルシャンも農家とメルロの買い取り契約を1970年台中盤に締結しているようです。1989年スロベニアで開催された世界的に権威のある「リュブリアーナ国際ワインコンクール」にて、「シャトー・メルシャン信州桔梗ヶ原メルロー1985」が大金賞を受賞し、更に、「1986」も、1990年に二年連続で大金賞を受賞しました。この事は、多くの人々に、塩尻でのメルロの可能性を強く確信させ、それ以降、メルロを塩尻で栽培する人たちが続々現れて今日の「塩尻のメルロの聖地化」に繋がっています。
塩尻ワイナリー 塩尻メルロ ロゼは、ちょっと特殊なつくり方をします。赤ワインの塩尻ワイナリー メルロや、塩尻ワイナリーのフラッグシップである岩垂原メルロ用に栽培されたぶどうを破砕した後に、一部の果汁を抜きます。一部を抜き取った残りの果汁は、元の果汁よりも、液体に対する果皮の割合が増えます。ワインの香りや味わいの成分の多くは果皮に含まれる為に、残りの果汁を発酵すれば、色濃く香り豊かなワインに仕上がります。この方法をセニエと呼びます。そのセニエの時に抜いた果汁ですが、これは、もともと岩垂原メルロや塩尻メルロになるぶどうからの素性の良い果汁です。その果汁を、白ワインを醸すようにつくったのが塩尻ワイナリー 塩尻メルロ ロゼなのです。色は、淡く美しいサーモンピンクです。香りは、赤いベリーやりんごを思わせる香りや綿あめのような甘い香りがあります。味わいは、自然な辛口でありながら、ほのかな甘みと穏やかで柔らかみのある酸とのバランスが極めて良いです。わずかな苦みが味わいを引き締め、しっかりした余韻が長く続くワインです。
焼きナスのマリネに合わせると、焼きナスの焦げた香りとナス独特の香りとメルロ ロゼの赤いベリーを連想させる香りとが絡み合います。
「良いマリアージュですね。思わず顔が綻ぶ、楽しい組み合わせって感じです」
「ナスって包丁で切っても、そんなに香りは強く無いですよね。ナス独特のちょっと清々しくて、キュウリのような感じ・・・・その香りと赤いベリー系のニュアンスが混ざりあって、スイカっぽく感じられます。私は好きです」
「ナスって火が入ると甘みを感じますよね。その甘さと辛口ロゼが良く合っています」
「東洋医学ではナスは体を冷やす作用があると言うらしいです。夏にぴったりですね」
秋ナスが美味しいと言いますが、夏のナスもとっても美味しいです。
皆様も是非、焼きナスのマリネに挑戦してみてください。そして塩尻ワイナリー 塩尻メルロ ロゼとの素晴らしい調和をお楽しみください。