今回のレシピは、ホタテとオレンジのタルタルです。ホタテはイタヤガイ科の2枚貝です。イタヤガイ科の仲間の最大の特徴は、浅利などでは2つある貝柱(閉殻筋)の片方が巨大化している事です。大変美味しい貝が多く、ホタテガイ、ヒオウギガイ、イタヤガイ、キンチャクガイ、エゾギンチャクガイ、アズマニシキ、アカザラガイなどを市場で見かけます。ホタテガイは冷涼な海の砂地を好む貝です。千島列島、サハリン、朝鮮半島北部に広く生息します、日本海側では北海道から能登半島まで、太平洋岸では千葉沖辺りまでが生息可能なエリアです。
FAO国際連合食糧農業機関の統計で、養殖でない、つまり天然もののホタテガイの国別生産量の1位はどこかご存じですか?このホタテガイの統計にはホタテガイよりも南の海に棲むイタヤガイも含まれています。1位は、なんと日本なんですよ!これは道東、道北、陸奥湾などで広く行われている地撒き養殖が、FAOの統計では養殖でない、つまり天然ものに分類されるからです。地撒き養殖は稚貝を1年貝まで育ててから放流します。この放流を閉鎖水域に行うと、統計上は養殖に分類されるのですが、オホーツク海やサロマ湖などの閉鎖されていない水域に放流しますので、天然扱いなのです。サケの稚魚を川に放流するのと同じ、と言う事なのですね。稚貝ですが、人工ふ化をさせている訳ではありません。ホタテは通常5月に産卵し孵化します。受精して生まれた幼生は貝殻をまだ持っておらず、プランクトンのような感じでふわふわ浮遊生活します。約35日間海中を浮遊した後、6月末から7月の上旬頃、約0.3mmになると、海底の岩礁や砂などに足糸で付着するようになります。9月から10月頃、殻長が10~20mmになると、足糸を切って海底の砂地に着底し生活します。厳しい自然環境で育つ天然物は、この10月からの半年間に、天敵であるヒトデやタコなどに捕食されてしまう率が非常に高いのです。地撒き養殖は、その期間を安全な養殖施設で大きくしてから放流するのです。1歳になった春には、殻長3cm~6cmくらいになります。このサイズになると、天敵のヒトデなどが近づいてきても、大きな貝柱(閉殻筋)で殻をぎゅっと閉じ、ジェット水流でジャンプして逃れる事が出来るようになり、生存率が大幅に向上するのです。ホタテの養殖への取り組みは第二次世界大戦以前から行われていました。最初は浮遊しているホタテの赤ちゃんを付着させるのに杉の枝を束ねたものを使っていました。杉の枝には沢山付着してくれるのですが、養殖場に入れる時期になると、稚貝が足糸を切って沢山逃げてしまっていました。1946年に革命が起こります。青森県の陸奥湾の養殖業者の方が、玉ねぎのオレンジ色のネットを使うことを思いつきました。最初はネットの中に杉の枝をいれていました。現在では古くなった鮭の刺し網の網などを入れて赤ちゃんを付着させます。ネットがあると稚貝が足糸を切ってもネットの中に留まるという訳です。これにより、稚貝を大量に確保する事が出来るようになり、耳吊り養殖(ホタテの殻の耳に糸を通して吊るして養殖する)や籠養殖のような完全養殖だけでなく、地撒き養殖も可能になったのです。稚貝を天然の環境に戻してやる地撒き養殖にはもうひとつメリットがあります。天然の環境ですから当然天敵のヒトデもしょっちゅう襲ってきます。その度に貝柱を収縮させて逃げます。なので、貝柱が太く成長し、肉質もきめ細かく滑らかな食感になるのです。ホタテガイの漢字の帆立貝の始まりは、江戸時代の大阪の医師である寺島良安が著した和漢三才図会です。寺島はホタテの名称を車渠としており、殻の模様が車輪の様だと記しています。また生態について帆立蛤(ホタテの別称)は海上を数百の群れで、片方の貝殻を帆船の帆のようにして進む、と解説しました。実際にはこのような行動はとらないのですが、以降帆立貝の名前が定着してしまったようです。和漢三才図会は国立国会図書館デジタルコレクションで、全巻無料で閲覧する事が可能です。ホタテガイは第47巻介貝部325ページに掲載されています。
今回は刺身用の剥きホタテをタルタル仕立てにします。副素材はオレンジです。ソースにはギリシャヨーグルトを使いました。
この、ホタテとオレンジのタルタルにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはロス ヴァスコスのソーヴィニヨン・ブランでした。ロスチャイルド家(ロートシルトの英語読み)は、19世紀中頃までにはヨーロッパの一大財閥として成長し、1868年にボルドー地方メドック地区の公式格付けグランクリュ第1級の筆頭格付けのシャトー ラフィットを取得し、ワイン事業を本格的に展開するためにドメーヌ バロン ド ロートシルト ラフィット社を設立しました。時代は進み1988年、ワイン事業を世界で展開するためにドメーヌ バロン ド ロートシルト ラフィット社は、1750年創業のビニャ ロス ヴァスコスの経営を引き継ぎました。目標は「チリにおけるプレミアムワインのパイオニアになる」事でした。そのために無数のワイナリーの中から厳選に厳選を重ねた、いわば〈ダイヤモンドの原石〉。それがビニャ ロス ヴァスコスでした。最大の魅力は、プレミアムワインづくりに理想的な微気候=ミクロクリマです。三方を山で囲まれたコルチャグア ヴァレーのカニェテン盆地は太平洋から約40キロメートルです。夜の間に吹き込む海からの冷涼な風が、日中の強い日射により昼間上がった気温をグッと引き下げます。この夜温が下がる事が、ぶどうの酸の減少を防ぎ、ポリフェノールや香り成分の生成を促進するのです。また、充分な水源があり、霜害のリスクが少ない半乾燥土壌であることなども理想にかなっていたのです。理想的な土地であるからこそ、リュットレゾネ(減農薬農法)が実現できています。ロス ヴァスコスのラベルには、ロスチャイルド家の「5本の矢」が描かれています。これは初代マイアー・アムシェルの5人の息子を表しています。ドメーヌ バロン ド ロートシルト ラフィット社がうみ出したすべてのワインには5本の矢のロゴが使われています。ドメーヌ バロン ド ロートシルト ラフィット社は本拠地ボルドーからテクニカルディレクターであるオリヴィエ・トレゴアを、定期的にチリのロス ヴァスコスに派遣しています。その統括菅理のもと、この恵まれた土地のメリットを最大限に活かすべく、地質を区画ごとに分析し、最も適したぶどうの樹に植え替え、最新の設備を導入するなどシャトー ラフィットの知識と技術を惜しみなく注いできました。現在では、4,000haもの広大な所有地のうち640haの厳選した土壌にぶどうを作付し、贅沢で高品質のワインづくりを行なっています。プレミアム ワインづくりのポテンシャルをロス ヴァスコスに見出した先見性。そして、エレガントなワインづくりのノウハウ、テロワールに関する見識の蓄積、それらが、植樹されたぶどうの樹齢とともに磨きがかかり、新たな魅力となっています。まさにラフィット エレガンスが生きているのです。ソーヴィニヨン・ブランのぶどうはチリ屈指の白ワインの優良生産地カサブランカなどの長期契約栽培畑のぶどうを使用。果実のポテンシャルをそのまま活かすため、温度管理されたステンレスタンクで発酵し、熟成させています。グレープフルーツのような爽やかな香り立ち、アカシアの花の印象もあります。ソーヴィニヨン・ブランとしては香りの量は控えめでエレガントです。辛口で、瑞々しい酸、ミネラルの余韻が心地良いワインです。ホタテとオレンジのタルタルと合わせると、ホタテの素材としての甘さが引き立ちます。
「美味しいですね。貝の甘みがグッと前面に出てきます」
「ディルの香りが、ソーヴィニヨン・ブランで強調されます。爽やかさ爆発!って感じですね」
「オレンジを一緒に口にいれると柑橘系の清々しさが口一杯に広がり、心地良いです」
ホタテの旬を1月などの真冬としている食材辞典もありますが、夏も貝柱が太って美味しい時期です。ホタテとオレンジのタルタル、皆様も是非、作ってみてください。オレンジをライムに替えると、更に爽やかな一皿になります。そしてロス ヴァスコスのソーヴィニヨン・ブランとの素晴らしいマリアージュをお楽しみください。