今回の料理は豚肉とプルーンの赤ワイン煮込み シナモン風味です。日本人にとって、肉と言えば、牛肉、豚肉、鶏肉ですよね。江戸時代は基本的に四つ足動物を食べる事が禁じられていましたから、肉といえば鶏でした。独立行政法人 農畜産業振興機構の統計を見ると、その資料のなかで一番古い1975年時点での国民一人当たり肉消費量は、牛が2.5kg、鶏が5.3kg、豚が7.3kgでした。1975年は日本の高度経済成長期後で日本経済が飛躍的に成長を遂げた後なので、日本が、ある程度豊かになった時期です。この頃、既に豚肉が第1位に輝いています。バブル経済真っただ中の1989年のデータを見ると牛が5kg、鶏が9.6kg、豚が10.4kgです。この年も豚肉が第1位で、14年間で42%の大幅増です。目立つのは牛肉が倍増している事です。バブル期らしい話ですよね。その後2004年には牛が6.2kg、鶏が10.1kg、豚が11.6kgです。ここでも豚肉が第1位をキープしてはいますが15年間で12%増と、堅調な増加ではありますが、伸び率はわずかになりました。一番新しいデータは2018年で牛が6.5kg、鶏が13.8kg、豚が12.9kgで、牛がほとんど伸びなくなり、鶏が急増、そして、豚肉はついに首位陥落です。2位になりはしましたが、それでも豚肉の消費量は牛の倍くらいなので、日本人にとって重要な肉である事は間違いありません。今日のレシピは赤ワイン煮で、味の決め手となるのはプルーンとシナモンです。プルーンは、とてもややこしい果物です。皆さんはプルーンとスモモとアンズの違いをおわかりになりますか?3つともバラ科に属している近縁種なので、良く似ています。みんな真ん中に大きな種があるところは一緒です。果皮の色は、プルーンが赤紫で、スモモは赤いものが多く、アンズは黄色が主体です。実はプルーンとスモモはスモモ属、アンズはサクラ属なのでアンズはスモモ系とちょっとだけ遠い親戚なのです。プルーンは英語ではPlum(プラム)、フランス語ではPrune(プリュン)、日本語ではセイヨウスモモで、カリフォルニアが一大産地です。スモモは英語ではAsian plumとかJapanese plumなどと呼ばれます。アメリカではセイヨウスモモが主力選手でスモモは外様なのですね。スモモは日本ではセイヨウスモモよりも多く栽培されています。6月から9月にかけて出回る、赤くて、まあるい可愛い果物で、ソルダムや大石早生などの品種があります。日本全体で2017年に2万トン程度生産され、県別生産量では山梨が首位でした。セイヨウスモモは、丸い形のスモモに対して、ラグビーボール状で、少し小振りです。生産量はスモモの1/7程度で、長野県が断然トップだそうです。ややこしさのもう一つは呼び名が「プラム」と「プルーン」の2つある事です。「プラム」と「プルーン」の使い分けには、いろいろな説があります。ただ、販売される時に呼ばれる名称を見ていると、生をプラム、ドライフルーツやペーストにしたものをプルーンと呼ぶ傾向が強いようです。フランスでは、生の西洋スモモをPrune、これに対し、ドライフルーツやペーストにしたものをPruneau(プリュノー)と呼んで区別しています。種を取り除いたドライプルーンを一晩、赤ワインで戻します。予め種を抜いて販売されているものを使えば、簡単です。厚めに切った豚塊肉に塩こしょうと小麦粉を振って、焼き色をつけてから、プルーンと戻すのに使った赤ワインをいれて煮込みます。1時間程で、肉は柔らかくなりますが、更に煮込み、煮汁にとろみが付くまで煮詰めると出来上がりです。
この豚肉とプルーンの赤ワイン煮込み シナモン風味にテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはバルデュボン ロブレ、なんとテイスティング参加者全員がNo.1に推す満場一致のイチオシでした。バルデュボンはフレシネグループが1997年にDO リベラ デル ドゥエロに開設したワイナリーです。「スペインで、銘醸地は?」と言うと、「リオハ!」と答えが返ってくる時代が長く続きました。フランスやイタリアのワイン産地がフィロキセラの害で壊滅した19世紀後半から100年近く、リオハが唯一孤高の銘醸地だったのでした。そのリオハの、最初のライバルとなった産地がリベラ デル ドゥエロでした。牽引した生産者はベガ シシリアでした。古い「世界の名酒事典1989年度版」を紐解くと、スペインワインのページに掲載されているワインで最高価格を獲得したのがベガ シシリア 1973の¥25,000でした。スペインは掲載42ブランド中、リオハだけで、なんと28ブランドもあるのです。リオハ以外で地方として名前が掲載されているのは、カタルーニャ地方のみ・・・・この当時、「スペインワインといえばリオハ」、という構造の中でリベラ デル ドゥエロは堂々の最高価格を獲得していたのです。
リベラ デル ドゥエロは、スペイン西部、ドゥエロ川の流域です。ドゥエロ川は西へと流れて行き、ポルトガルに入るとドウロ川となり、ポートのぶどう畑へと続いていきます。リベラ デル ドゥエロの最大の都市バリャドリッドは17世紀にはスペインの首都であった要衝地でした。リオハ地方に先がけ、既に厳しいワイン法も制定されていた事は、あまり知られていません。激しい大陸性気候で、昼夜の温度差がとても大きく、ワインのポリフェノールが良く熟し、しかも酸度も保つ事が出来るのです。リベラ デル ドゥエロは、夏の暑さに関わらず、スペインでもっと収穫の遅いエリアの一つなのですよ。
グラスに注ぐと、濃く深みを持った紫色です。香りは、アメリカンチェリーやブルーベリーをイメージさせる香りです。口に含むと、果実味あふれる、力のあるアタックで、果実の凝縮による、甘さを感じさせます。穏やかな酸で、キメの細かいタンニンと、程良いボディの心地良いワインです。
豚肉とプルーンの赤ワイン煮込み シナモン風味とバルデュボンを合わせると、豚肉のコクと深みがワインによってさらに広がるのが感じられました。
「これは旨いですね」
「肉の旨みと、プルーンの黒い果実とワインの果実味連合軍とが、がっぷり組み合う感じです」
「豚はフルーツの風味と良く合いますからね」
「このワインは、豚肉の煮込み系料理と王道的なマリアージュをするワインだと思いました」
「テンプラニーリョという品種が、スケールは大きいのですが、タンニンがきめ細かいので、柔らかみのある豚肉とは、とても良く合うんだと思います」
「そうそう、こっくりと煮込まれた脂が、バルデュボンと合っていますね」
乾燥のプルーンを使っていますので、果実味が凝縮しています。なので、ワインサイドにかなりのコクが無いと、ソースというか、肉汁の旨みを吸い込んだプルーンの力のある味わいに負けてしまうかもしれません。
皆様もプルーンとシナモンで、豚肉の赤ワイン煮を作ってみてください。見た目の豪華さの割には、誰にでも失敗無く出来る美味しいレシピです。そしてバルデュボン ロブレとの素晴らしいマリアージュをご確認くださいませ。