今回のレシピは、夏野菜と豚肉のガパオライスです。日本のタイ料理屋さんで「ガパオ」と頼むと、豚肉とバジルを炒めて、ご飯に掛けたものが出てきます。ガパオは本来、植物の名前です。ホーリーバジルという東南アジアから南アジアにかけて盛んに栽培されるバジルの一種なのです。なので、タイの料理屋さんに行って、「ガパオをください」と頼むと、葉っぱだけが出てくる事になりかねません。タイ料理の、名前付け方の基本形のひとつが、調理法+材料です。たとえばヤム ウンセンがこれに当たります。「ヤム」が「和える」で「ウンセン」が「春雨」で「春雨の和え物」になります。主素材が2つの場合、調理法+材料+材料か、材料+調理法+材料で表します。豚肉とホーリーバジルの炒め物の場合、調理法+材料+材料で、「パッ」は「炒める」+「ガパオ」は「ホーリーバジル」+「ムー」が「豚肉」で、パッ ガパオ ムーになります。その炒め物をご飯に乗せたものは、「カーウ」が「ご飯」+パッ ガパオ ムーで、カーウ パッ ガパオ ムーになるのです。ホーリーバジルはシソ科の植物で、和名はカミメボウキ=神目箒です。スィートバジルよりも、お香を思わせる香りが強いのが特徴です。インド・スリランカの伝統医学であるアーユルヴェーダでは、薬用植物として扱われ、葉をそのまま薬として使ったり、精油で使ったり、ハーブティーとして飲用されたりします。一種の「不老不死の薬」とさえ見なされ、寿命を伸ばすと信じられているそうです。日本では、ホーリーバジルはそれほど多く流通していないので、スィートバジルで代用することが多いです。今回は、旬の夏野菜と豚肉のガパオライスにしました。夏野菜はなすとズッキーニを使いましたが、お好みで、インゲンやトマト、キュウリや瓜など、何を使われても良いと思います。
にんにくと唐辛子を弱火で香ばしい香りがでるまで炒め、豚挽肉を加えます。なす、ズッキーニを加え、調味料をいれ、バジルの葉を加えたら、すぐ火を止めます。本体部分はこれで完成です。お好みで半熟目玉焼きを焼いて、ご飯に乗せるとあっという間に夏野菜と豚肉のガパオライスの完成です。
この、夏野菜と豚肉のガパオライスにテイスティングメンバーが選んだのは、ジャン ガイラー クレマン ダルザス ブリュット ブラン ド ブランでした。クレマン ダルザスは、フランス国内で消費されるクレマンの第1位*で、法律で、手摘み収穫と瓶内二次発酵と最低9か月の瓶内熟成とが義務付けられています。ジャン ガイラーは、1926年にコルマール近郊のエンゲルスハイムで、36人のワイン生産者によって設立された、アルザスでも最も古い共同組合のひとつです。現在では、175人のワイン生産者が集まり、390ha以上の広大なぶどう畑を所有しています。読者の方のなかには、協同組合と聞くと「身内同士のなれ合い経営で、品質の悪いぶどうが混ざっているのでは?」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。ジャン ガイラーは違います。10年前から、ぶどうの状態によって買取価格を4段階に設定する仕組みを導入しました。それにより、農家が「生産量」ではなく「高品質なぶどうづくり」に取組む事で高収入を目指す事が出来るようになりました。また、組合員の品種毎、区画毎の農作業データを組合員とベテラン担当者が共有し、より高品質なぶどうづくりの為に、最適な収穫期の見極めや、区画毎の細い作業スケジュールを決めています。今日、イチオシに選ばれたクレマン ダルザス ブリュット ブラン ド ブランのぶどう品種は、オーセロワ70% ピノ・ブラン 25% シャルドネ 5%です。ワインに、ある程度詳しい方だと、「オーセロワを70%も使うんだ!オーセロワって南西地方でコットとかマルベックと呼ばれている黒ぶどうですよね?」とお考えになるかもしれません。アルザスのオーセロワは南西地方のオーセロワと綴りは一緒ですが、全然違う白ぶどう品種です。最近のDNA解析で、アルザス・ロレーヌ地方のGouais blancという品種と、ピノ・ノワールか、ピノ・ノワールがシャルドネに突然変異したばかりころの品種とが自然交配した品種であろうという事が判ってきました。アルザス・ロレーヌ地方だけでなく、ドイツ、ルクセンブルクなどでも栽培されています。クレマン ダルザス ブリュット ブラン ド ブランのぶどうは、エンゲルスハイム近郊にある堆積土壌の、水はけの良い畑で栽培されます。瓶内二次発酵し、その後の熟成は法律で定められた9か月よりもずっと長い15~18か月間行います。ドサージュは9~11g/lなのでブリュットタイプです。グラスからはキメ細やかな泡が次々と立ち昇ります。新鮮なリンゴや洋梨、蜂蜜を連想させる香りがあります。軽やかなアタック。柔らかな果実味とフレッシュな酸で、新鮮さと熟成感を程良く併せ持った、バランスの良い辛口の味わいのクレマンです。夏野菜と豚肉のガパオライスに合わせると、ガパオライスの色々な味をクレマンが、しっかりと、かつ、さっぱりと受け止めているのが判ります。
「爽やかですよね」
「バジルの仲間には、香り成分として、爽やかさを感じさせるオイゲノールとリナロール、シネオールなどが多くふくまれます。刺激性は低く生食でも食べられるのが特徴です」
「卵黄をまぶした、ねっとりとした味わいの強い部分も、クレマンがさらりと洗い流してくれて、またもう一口食べたくなります」
「このガパオ、唐辛子的な辛さのほかに、こしょう的な辛さがあって、そこがまた美味しいですよね」
「ガパオライスは、ちょっと強めに白こしょうを振ると、味わいが引き締まります」と都先生が教えてくれました。
「ガパオライスって、このジャン ガイラーに限らず、ワインと良く合っていますよね、ちょっと意外でした」
「ご飯物って、ワインと合わせるイメージじゃないと思っている方が多いのかなぁ…でも、掛ける物の素材や味付け次第では良いワインのパートナーになります」
「特にタイ米は、タイでは、野菜のイメージで使います。なので、ご飯ものといっても、軽やかなのでワインとの相性が良いのだと思います」
暑くて、ちょっと湿度の高い季節にぴったりの夏野菜と豚肉のガパオライス、皆様も是非挑戦してみてください。そしてジャン ガイラー クレマン ダルザス ブリュット ブラン ド ブランとの爽やかな調和をお楽しみください。
*一般社団法人日本ソムリエ協会 2019年度版ワイン教本