今回の料理は、生ハムとクレソンの白和えです。JAS=日本農林規格ではハムを3つに分類しています。「骨付きハム」、「ボンレスハム、ロースハム及びショルダーハム」、「ラックスハム」の3つです。生ハムはラックスハムに分類されます。ラックスハムはドイツ語でLachs Hamと書き、Lachs=鮭、みたいな色をしたハムと言う意味です。3つの規格の「骨付きハム」、「ボンレスハム、ロースハム及びショルダーハム」はボイルされますが、ラックスハムは加熱されずに作られます。それぞれ燻煙するものとしないものがあります。国別の輸入量を調べると、イタリア、スペイン、デンマーク、アメリカなどが上位を占めます。イタリアだとパルマ産かサンダニエーレ産が有名です。パルマ産はプロシュート ディ パルマと呼ばれ、エミリア・ロマーニャ州のパルマ県で作られます。パルマの熟成期間は、最初の塩漬けから最低1年間、最高3年にまで及び、仕込みの時には1本平均重量が15kgだったものが大体11.5kgになります。なので、もとの1/4に相当する水分が抜ける事になります。味わいはデリケートで甘く、口のなかで柔らかくとろけるようなテクスチュアが持ち味です。サンダニエーレ産はフリウリ・ヴェネチア・ジュリア州で作られます。豚モモ肉を塩で塩漬け、熟成し乾燥させる工程は、基本的に一緒なのですが、サンダニエーレ産は塩分が肉全体に浸透するように圧縮して厚さを整えるのが特徴です。パルマよりもしっかりとした舌触りで、「香り高く味わい深い」と評されています。パルマ産と食べ比べるとサンダニエーレ産プロシュートの方がやや塩辛く感じるかもしれません。スペイン産の生ハムは大きく分けるとハモン セラーノとハモン イベリコの2種類あります。「ハモン」とはスペイン語で「ハム」、「セラーノ」は「山の」という意味で、白豚で作ります。ハモン セラーノと呼ばれたのは、生ハム生産者が山岳部に多くあったからだと言われています。ハモン イベリコの「イベリコ」とはスペイン語で、「イベリア半島の」という意味です。もともとはイベリア半島の生ハム全体を指していたのでしょうが、現在では原産地保護の対象で、使われる豚も限定されています。ハモン イベリコと呼ぶにはイベリア種100%純血、もしくはイベリア種とデュロック種を交配させた黒豚のうちイベリア種50%以上で、かつスペイン政府が認証したものだけしか使えないのです。特に、どんぐりを主体に育てられたものはハモン イベリコ デ ベジョータです。最高品質で全体の10%程度しかありません。今回のマリアージュ実験ではパルマ産のプロシュートを使いました。
クレソンはアブラナ科の植物で、和名はオランダガラシです。アブラナ科の植物には、ピリッとした辛味を持つものが多く、大根おろしや和ガラシが辛いのも、同じ辛子油配糖体の変化したものが含まれているからです。クレソンはフランスの山間部の水辺には、よく自生しています。ブルゴーニュに行き始めたばかりのころに、ボーヌの外周道路のすぐ傍の公園にクレソンに似た植物が物凄く沢山生えていて「あの植物は何ですか?クレソンに似ていますね?」と聞くと「クレソンだよ」と言われてびっくりした記憶があります。その頃に、自分が住んでいた川崎市のスーパーにはクレソンの取り扱いが無く、付け合せなどで使いたい時には表参道の高級スーパーに買いに行っていました。小さな袋で400円とかしたような気がしましたので、貧乏臭い話ですが「いったい幾ら分、生えているんだろう・・・」と思いました。
今回は、その生ハムとクレソンを白和えにします。白和えは、名前にもあるように「和え物」です。和え物は日本料理の技法で、「和え衣」と呼ばれる「味を加えるもの」を入れて混ぜる料理です。「先付」から始まる会席料理の後半の「止め肴」で出される事が多く、流派によって違いますが「止め肴」の手前の「強肴」で出されることも有ります。和え衣は胡麻や味噌、梅肉、海胆、酒盗、塩辛などバリエーションは豊富です。和える主素材もありとあらゆるものが使われます。魚介類、甲殻類、野菜、蕗やつくし、ぜんまいなどの野草、根菜類、豆類、湯葉やこんにゃくなどの加工食品も和えられます。カワハギの肝和えや、鯛の刺身の白子和えや真子和えなど自分自身の体の一部で自分を和えるケースもあります。基本的には冷たい素材を、加熱する事無く和えますが、辻調理師学校のテキストを読むと穴子などでは暖めて和えていました。白和えは豆腐を崩して和え衣にした料理です。今日はワインスクエアらしい工夫を鈴木薫先生にしていただきました。和え衣に生クリームとオリーブオイルを加えたのです。
さて、この生ハムとクレソンの白和えにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはレゾルム ド カンブラス ソーヴィニヨン・ブランでした。 レゾルム ド カンブラスはフランスNo.1(※1)のカステル社が、日本人の味覚に合う「果実味あふれる飲みやすさ」を追求して醸されたワインです。ワイン本来の豊かな果実感を活かすため、あえて樽で熟成を行わず、バランスが良くみずみずしい味わいに仕上げました。グラスからはレモンやグレープフルーツを思わせる爽やかな香りと、ゴールドキウイのような、熟した甘い香りが漂ってきます。口に入れると、辛口で、フレッシュでジューシーな果実味と、イキイキとした酸味が特長的な、爽やかなワインです。白和えと合わせると、クレソンのイキイキとした緑を感じさせる香りが強まります。柑橘のなかでは、特にレモンのニュアンスがよりくっきりとする感じで爽やかさを増しました。
「春の愉しみですね」
「緑のニュアンスが強調されます」
「クレソンもなんですが、エクストラバージンの爽やかな香りも強まって、より一層緑を鮮やかに感じますよね」
「パルマの生ハムの、柔らかい口どけも白和えにピッタリです」
「豆腐の素直な豆の味が、生クリームとクルミのコクで強まりますので、力強い緑のニュアンスが突出しすぎないで、上手くバランスとれています」
クレソンの心地良い苦味も、全体の味わいを引き締めている、まさに春を感じさせるマリアージュでした。みなさまも是非、生ハムとクレソンの白和えにトライしてみてください。そしてレゾルム ド カンブラス ソーヴィニヨン・ブランとの、大人な美味しさをお楽しみください。
(※1)IMPACT DATABANK 2016,World's Top 10 Wine Marketers (世界での販売数量データ)